1章-05 旅道中②
アヌビス「こんな道を、サヤちゃんぐらいの年の女の子が一人で歩いて、大丈夫なの?」
ナオヤ「そうだそうだ。最近は色々と世知辛いぞ」
サヤ「その点に関しては大丈夫。
ノルンはそんなに甘っちょろくないから」
アヌビス「甘っちょろくない?」
サヤ「ノルンは昔から一人旅ばっかりしてるの。
だからこういうのには慣れてるはずよ」
ナオヤ「家出慣れしとるというわけか。
どんな不良なのやら。楽しみなような不安なような」
サヤ「家出とは、ちょっと違うかな。それに不良って感じでもなし」
ナオヤ「家出じゃなかったらなんだってんだ?」
サヤ「探検よ。
いろんな所を放浪してるのよ、この年で。
ほら、おばさん言ってたでしょ?
誰にも知らせず突然家を出て何日も帰らなかったりするって」
ナオヤ「やっぱり家出じゃないか」
サヤ「まあそう言っちゃったらその通りなんだけどね…
でも別に親に不満があって家出してるわけじゃないの」
アヌビス「というと?」
サヤ「ほんとに一人旅。いっぱい行きたいところがあって、一つ一つ自分の足で見て周ってるんだってさ」
ナオヤ「いかにも反抗期って感じの不良じゃねえんだな?」
サヤ「ちがうちがう。どんなイメージしてるのよ」
ナオヤ「バイクにタバコにピアスに刺青」
最低は、意外とステレオタイプだと思う。
サヤ「そんな子とわたしが付き合えるわけないでしょ…」
ナオヤ「あ、そう。ちょっと安心」
アヌビス「でも探検って…どこを探検するってんだよ」
サヤ「それが結構遠くまで行ってるみたいよ?
このキャットフードも果てから果てまで渡り歩いたらしいし、
ここから数百キロメートル離れた遥か果ての孤島にも行ったことがあるって聞いたし…」
アヌビス「どうやって行くんだそんなとこまで?金がかかるんじゃないの?」
サヤ「知らない。
でもノルンのことだから、どうにかして調達してるんだろうな…」
アヌビス「どんな子なんだ…」
サヤ「ノルンのお母さんも、お父さんも元探検家なのよ。
で、子供のときからいろんなところに連れてってもらってたらしいの。
でも、連れてもらってばっかりでつまんないから、そのうち一人で旅に出るようになっちゃったんだって」
アヌビス「怖いもの知らずだな」
ナオヤ「どんなパワフルな奴なんだろう」
サヤ「見た目はそんなにパワフルじゃないよ。むしろ普通の女の子」
ナオヤ「ほんとに?いきなりパイルドライバーとかかけてきたりしない?」
サヤ「…しない。どんな想像してんだか」
アヌビス「で、でも一人旅なんかして親は何も言わないのか?」
サヤ「お母さんの方は心配していつも怒ってるみたいだけど、
ノルンは一向に止めないの。
お父さんはむしろいろんなところへ冒険に行くことをむしろ勧めてるような感じだし」
ナオヤ「家族崩壊。恐ろしい子!!」
サヤ「まあとにかく一言で言えばすごい子。尊敬しちゃう」
アヌビス「ふーん。なんとなくわかったよ。ありがとう」
ナオヤ「なんとなくわかったのか!?おれにはさっぱりわからんぞ!?」
アヌビス「ま、まあだいたいどんな感じかは」
サヤ「会ってみるのが一番早いかな」
サヤ「しっかしひどい道ね…」
ナオヤ「もうそろそろ日も暮れてきたな…全く、いつになったらつくんだ」
アヌビス「なあ、ほんとにこんな道を女の子が一人で?」
サヤ「まあ、ノルンはそういう子だから」
アヌビス「どういう子なんだ…」
変なイメージがどんどん広がっていく。
サヤ「…?」
ナオヤ「どうかしたか?」
サヤ「見て、ここ圏外みたい」
サヤの携帯電話のディスプレイにははっきりと「圏外」という文字が浮き出ていた。
ナオヤ「つーことは」
アヌビス「じゃあ、ノルンちゃんもここいらにいたってことか。だから連絡もつかなかったと」
ナオヤ「まだ返信はないのか?」
サヤ「うん」
ナオヤ「だったら、まだこの辺にいる可能性が高いってことか。追いつける可能性もあるな。急ぐぞ」
サヤ「もう休憩しようよー…」
ナオヤ「いや、もうちょっと行く…、ってあれ何だ?」




