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No Title  作者: ころく
77/85

No.75 一撃

「こぉのぉぉぉ!」

「はぁぁぁぁ!」


 コウへと飛び掛かる影と共に聞こえるは、二人の声。

 影の正体は奇襲を仕掛けた姉妹による同時攻撃。

 ……ではなく。


「ッザてェ……!」


 中に教科書が詰まった、二つの机。

 既に教室内に入っていた沙夜先輩と沙姫が、準備万端だと大量の机と椅子を並び積ませていた。


「ガラクタに用はねェんだよ!」


 禁器による横凪ぎのひと振りで机を一掃し、苛立たしげに言葉を吐く。

 粉砕粉々とまで行かなくも、屠られた机はバラバラに形を崩されて周囲に散らばり落ちた。


「そう言うなよ! まだまだ大量にあんだからよ!」


 コウが構え直す隙すら与えず、俺も教室に入って近くの机を蹴飛ばす。

 それに合わせて二人も同時に机を投げ放った。


「ブンブン投げやがって……ハエかテメェ等はよォ!」


 次々と投げられてくる机と椅子を片っ端から破壊していくコウに、俺達も負けじと絶え間なく投擲する。

 正面は俺、右は沙夜先輩、左は沙姫。三方向からの一斉攻撃。奴が壁を開通してくれたお陰で、隣の教室と繋がって弾は存分にある。

 コウの周囲には残骸が積もっていき、狭まっていく行動範囲。だが、三人での同時攻撃でも、奴はひと振りで破壊してしまう。

 机や椅子の牽制が僅かに途切れる寸時が生まれてしまう。そこを突いて三方の一角を潰そうと、奴が攻撃を仕掛けようとする……も、当然。

 ダン――――ッ。


「っづァ!」


 とうにリロードを済ませたエドがそれを許さない。

 一発の銃声が鳴り響き、的確に奴の利き腕を咎める。


「どんどん行け! 奴を休ませるなっ!」

「この……!」

「どっせぇぇい!」


 コウが突き刺さる腕の痛みに顔の皺を寄せ、動きが一瞬止まった所へと椅子を投げ込む。

 絶え間なく飛んでくる物を禁器で弾き壊し、間に合わなければ回避する。しかし、躱せば躱した方へと次の飛来物が来る。

 壊しても壊しても次が来るしつこさと、何かしようとすると邪魔をされる鬱陶しさに。コウの苛立ちは限界を迎えた。


「邪魔臭ェ! くだンねェ手ェ使いやがっ……ぐ、つぁ……!」


 キレた口調で机を弾いたと思えば、コウは手を額に当ててその場にうずくまった。

 しかし、俺達は手を止めない。手を緩めれば相手に機を与える。そして、流れはこちらにある。

 その流れの根拠に、俺だけじゃなく全員が気付く。


「あれ、今……」

「机が壊されないで弾かれた……!?」


 さっきまでは真っ二つか、一部を完全に抉り壊していたというのに。

 寸前に禁器で払われた机が、多少のへこみが作られただけで原型を留めていた。

 コウの顔色は明らかに悪く、その様子から肉体の酷使による不調に陥っていると解る。


「沙夜先輩! 沙姫!」


 沙夜先輩と沙姫に視線を送り、俺の意思を読み取って次の机を掴む二人。

 そして、俺も近くに転がっていた椅子の足を握って持ち上げて。三人で一斉に投げつける。


「クソウザってェなァ……頭痛テメェもオメェ等もよォォォォオ!」


 コウは口から涎を垂らし、目は充血して赤く。

 頭痛を振り払おうと大きく叫びをあげて、壊れた蛇口のように殺気を噴き出させる。


「上手く攻撃を封じてると思ってンだろうけどよォ……」


 猫背の状態から上目で睨み付け、肩はだらんと脱力している反面。

 禁器を握る右手は骨が軋み、鼻からは血を流しながらも。


「弾いてやる方向によらァなァ!?」


 体を左方向へとズラし、飛んでくる一つの机だけに狙い定めて。他の二つに当たろうが構わないと。

 破壊能力を取り戻した禁器が振るわれれば、当然。そのひと振りで形あるものは破壊される。

 机は粉々に形を崩され、そして――――。


「きゃあっ!」

「沙姫っ!」


 飛び散る残骸の散弾。沙姫に襲い掛かる、大小混ざる無数の木片と鉄片。

 投げつけてくる物をただ壊し続けても意味がなければキリもない。相手がひたすら物を投げてくるしかしてこないのならならば、それを利用して潰してやると。

 投げてきた机を何倍もの凶弾と化して返してきた。


「あっ、ぶなぁ……」


 持ち前の運動能力と武術で培った反射神経で、沙姫は横に飛び退いて危機を脱した。

 咄嗟の回避で床に転がるも、沙姫は被弾する事なく無傷で済んだ。


「沙姫ッ! 奴が来る! 早く起きろッッ!」


 このままではコウの良い的になってしまい、沙姫が捕まって盾にされてしまえば今の戦法が使えなくなる。

 沙姫が離れる時間を作る為に椅子を投げよう掴み、エドも銃口を奴へと向ける。

 ……が。


「させっかよォ!」


 コウは足元に積み上がっていた机と椅子の残骸を蹴り上げた。

 禁器で打たれた時より威力も驚異も低いが、宙に撒き散らされた量が多い。

 石つぶてのように飛んでくる大量の破片に混ざり、空に舞う破れた教科書やノートによって遮られる視界。


「く、そっ……! エド!」

「遮蔽物が多すぎる! これじゃ狙いようがない!」


 エドが飛散物の間を縫って射撃しようとするも、コウの位置が上手く隠されて叶わず。


「沙姫っ! 今そっちに行……」

「テメェもだァってろ! クソアマァ!」

「きゃあっ!」


 沙夜先輩が沙姫を助けに行こうとするも、半壊した机をぶん投げて出鼻を挫くコウ。

 壁に激突した机はとうとう、瓦解して本懐した。


「姉さ――」

「よう。好き勝手投げてくれたじゃねェか」

「ッ! 立っ……!」


 鼻腔から流れる血を手の甲で拭って、床を突く禁器の先端が鳴らすは渇いた音。

 眼前に迫った凶獣を見上げ、沙姫は膝を曲げて立ち上がろうとするも。


「い、ったぁ……足が……」


 テーピングが巻かれた右足首を、しかめた表情で手を添える。

 元々痛めていた所を、先程の回避でさらに挫いてしまっていた。

 それに加え、テーピングを巻いたとは言え無理をしていたのだろう。沙姫の額からは冷たい汗が流れ落ちる。


「足を怪我したなら痛くねェように切り取ってやっからよォ!」


 踞る沙姫を見下ろし、天にかざした禁器を一気に振り下ろす。

 足どころか、即死を狙った脳天直下の一撃。


「おおおぉぉぉぉっ!」

「きゃ……!」


 それを全力疾走からで飛び込み、間一髪で沙姫を助ける。

 避けられた攻撃は床に穴を空け、禁器が足に引っ掛かった机は無回転で宙に浮く。

 俺とコウの間に浮いた机が視界を遮り、足元だけを残して互いの姿が隠れてしまう。


「沙姫、悪い!」


 沙姫の肩を強く押し、強制的に後ろへと下がらせる。視界の端で倒れ込むのが映ったが、今は無視して対峙すべき相手を見据える。

 これで沙姫は奴の攻撃範囲外。問題はここから。このあと。

 集中しろ。いかに互いに相手が見えないと言えど、奴は禁器を使って攻撃してくる。

 なら長さがある分、机で体が隠れていても攻撃を仕掛けてくる時は机から伸びた禁器が必ず見える。

 だから、集中しろ。一切の緩みを見せるな。一切の行動を見逃すな。敵を見ろ。奴を見ろ。動きを見ろ。

 ここが正念場。先輩を助け出せる好機なん――――。


「だ……ッ!?」


 ――――めぎ。

 脇の下から体内に響く鈍く嫌な音と、めり込んでくる固く冷たい感触。


「な、ん――――」


 視線を向けると、脇腹から伸びる長い棒。否、伸びているのでななく、刺さっていた。

 上か、下か、右か、左か。どこから来ても反応出来る状態だった。しかし、奴が行った攻撃方法は。上下左右、どこからでもない。

 真ん中。真正面からの中央突破。禁器を突き出して、机を貫いて、俺を――――突き刺した。


「ッハ、はっははァ! いィィィィーーーーィィい手応えだァ!」


 耳に入ってくる、悦楽を得た笑い声。

 倒れる俺を見下ろして、奴は、コウは。御機嫌に表情を歪めて、浸る。

 獲物を狩る快感と、肉を抉った感触に。


「匕ッ!」

「咲月君!」

「咲月先輩!」


 全員の声が重なって、叫ばれる不揃いの名前。

 禁器を喰らった脇腹に走る激痛に、返事をするのも億劫で。無言でしか返せず、床に力無く転がって。

 あぁ、くそ、いてぇ……息が荒い。脇腹が痛い。床が冷たい。傷口には熱がこもり、首筋は寒く。

 このまま終わってはならないと、死んでたまるかと。

 しかし、無情非情に。俺の体には、禁器に肉を抉られ空けられた穴――――。


「あんなにしぶとかった奴が死ぬ時ァあっけねェなァ……!」


 コウは体を左右に揺らし、手に残る肉の感触を反芻する。

 ……が、その顔には喜悦の色は少なく、血の気が下がって青白さの方が目立つ。


「っはァ……ぎ、ぃ、ぐ……てめぇ等もすぐにぶっ壊してやっからよォ!」


 証拠にコウの足付きは頼りなくフラつき、息も乱れながらも。

 苦悶に塗りつぶされた表情を見せ、残る三人へと続けて殺意を向ける。


「う、そ……や、いや……」


 沙姫は小さく声を震わせ、両手を口に当てて。

 瞳が映す現実が信じられない、信じたくないと。否定の言葉を力弱く呟くも。

 禁器を喰らってしまった事実は、決して覆る事は無い。


「い――――」

「おおぉぉぉぉぉぉああぁぁぁぁあぁぁ!」


 悲鳴をあげようとした沙姫の声を被り、遮るは俺の声。

 完全に意識から外れていた所へ、机の足を掴んで全力で殴りつける。


「だッ……にィ!?」


 表情だけでなく、焦りは声からも表れ。

 完全に油断していて避けれず、咄嗟に禁器で防ぐも軽く後ろに弾かれたコウ。壁に背中を打ち、舌打ちを漏らす。

 そして、凍り固まっていた空気を砕き壊す一声いっせいを叫ぶ。


「手を止めるな! このまま続けて行けッ!」



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