恋三の闇バイト
夕方の高円寺の住宅街である。
その一画に相続で引き継いだ恋三の自宅がある。
家は古いが外見は山手のしっかりとした木造二階建てである。
その玄関前の道路に黒塗りの大型のワンボスカーが停まっている。
フロントガラスの右サイドにはタコの様な『衆議院のマーク』が貼ってある。
パトロール中のバイクの巡査が、「駐禁の警告シール」を貼ろうと車の周りを一周するが、タコのシール(衆議院のマーク)を見て貼らずに行ってしまう。
巡査が去ったのを見計らって、恋三は玄関から心配そうに表に出て来る。
その後に玲子(恋三の姉)も出て来て、二人で車の周囲を一周する。
玲子「知らないわよ。この辺取り締まり厳しいんだから」
恋三「・・・この車に駐禁を貼るオマワリがいたら会ってみたいよ」
玲子「駐禁は駐禁じゃない」
恋三「だって、オヤジは『公安部会の副会長』だぜ」
玲子「オヤジ?」
恋三「あッ、いや、社長!」
玲子「そんなの関係無いわ。邪魔はジャマ! 犬にオシッコをかけられるわよ」
恋三「しょうがねえだろう。運転手が消えちまったんだから」
玲子が驚いて、
玲子「運転手が消えた? ナニそれ」
恋三「姉ちゃんに言っても分かんねえよ」
玲子「大丈夫なのその会社。匿流(闇バイト)じゃないの? アンタもその内、消されちゃうんじゃない?」
恋三「わかんねー。とにかく明日は絶対に四時に起こしてよ。群馬の事務所までこれで行くんだから。あッ! そうだ。姉ちゃん時々この車見に来てよ」
玲子「冗談じゃないわよ」
恋三「頼むよ~。この車が無くなったらオレ、本当に消されちゃうんだから」
玲子「じゃ~、車の中で寝たら良いじゃない」
翌朝・・・。
各部屋の目覚ましが一斉に鳴り響く。
忠則(玲子の婿養子)が布団から飛び起きる。
忠則「!・・・夢か。あ~、怖かった。?・・・何だいこの目覚ましの音は」
忠則は頭の上の目覚ましを止め、時間を見た。
忠則「・・・四時? 誰だよこんな時間に合わせたのは」
台所が騒がしい。
恋三は鏡の前でネクタイを締めている。
玲子「朝ご飯、食べて行きなさいよ」
恋三「・・・うん」
玲子「群馬の事務所には何時に着けば良いの」
恋三「八時半・・・」
玲子「当分帰って来られないのかしら」
恋三「・・・うん」
そこに眠い目を擦りながら忠則が二階から台所に降りて来る。
忠則「恋サン、随分早え~なぁ」
恋三「出張だよ、出張ッ! 運転手が消えちゃたからさ。ッたく、まいっちうよ・・・」
忠則「消えた? ヤべエーんじゃねえの、そのバイト」
恋三「うん?そうかもな」
忠則「早いとこやめた方が良いんじゃね?」
恋三「そん時はそん時だ」
恋三は腕時計を見る。
恋三「あッ、ヤッべ~。こんな時間だ」
熱いお茶を一気に飲み込む。
恋三「アッチ~ッ! 何でこんなにアッチーんだよ」
玲子が呆れた顔で、
玲子「バカみたい」
恋三は意を決して、
恋三「よし、出撃だッ!」
台所を出て玄関に走る。
玄関で昨夜磨いて置いた革靴を一拭きし、
恋三「よしッ! 行くか・・・」
元気良く玄関のドアを開けると玲子の声が、
玲子「車、気をつけてね。いってらっしゃ~い」
玲子がテーブルの上を見る。
恋三の忘れたライターが有る。
玲子「あッ、コイサン~ッ! ライター、忘れもんだよ~」
新聞を見ていた忠則が、
忠則「おッ? 恋サン、タバコ始めたの」
玲子「違うわよ。いいからアンタ、早くこれ車に持ってって。大切な『仕事道具』なんだってから」
忠則は感心して、
忠則「へ~え。・・・ライターがシゴト道具かあ。どんな仕事だろう」
玲子「カバン持ちだって」
忠則「カバン持ち? 運び屋じゃねえの」
忠則はブツブツ言いながら恋三の乗る車にライターを持って行く。
つづく




