新聞の取材に立ち会う
三階、大木戸法律事務所。
隣りが『衆議院議員大木戸博康事務所(先生の事務所)』である。
議員事務所に入ると、受付に若い女が執務中?である。
名前を大木戸博子と云い、先生の愛娘である。
博子は机の下に隠した婦人週刊誌を見ている。
奥は「代議士控え室」、先生の居る所である。
恋三は気合いを入れ、事務所のドアーをノックする。
「コンコン」
中から博子の声が。
博子「ハイッ!」
恋三「失礼しま~す」
恋三は元気良く、ドアーを開く。
博子は驚いて週刊誌を隠し、椅子から立ち上がる。
博子「あッ! お待ちしてました」
恋三「えッ?」
恋三は丁重な出迎えに躊躇する。
すると博子は恋三を舐めるように見て、
博子「あの~・・・どちら様? ですか」
恋三「東京の事務所から応援で来た百地恋三です」
博子「百地恋三? ああ、恋サンね。あれ、青木くんは?」
恋三「あッ、青木さんはちょっと入院を」
博子「え~え、また~あ? 私の個展に来れるのかしら」
恋三「コテン?」
博子「陶芸の個展。あ、そうだ。恋サンでも良いわ。来て」
博子も妙に馴れ馴れしい女であった。
恋三「え? いつですか」
博子「来月の十日」
恋三「ちょっと待ってください」
恋三は背広のポケットから黒皮モドキ(ビニール)の手帳を取り出し、何も書いて無いスケジュールのページを捲る。
恋三「来月の十日は・・・何も有りません」
博子「じゃ、来れるわね。絶対に来てよ。具合悪くならないでよ」
恋三「はい」
恋三は手帳の真っ新なスケジュール表に初めて、『博子さんの陶芸展に出席』と書く。
恋三「で、時間は?」
博子「十時から有楽町ビ・ウオンドよ」
恋三は復唱して、
恋三「『有楽町ビ・ウオンドに10:00』ですね」
と書き取る。
-代議士控え室-
先生が地元の第一秘書・大川正義と電話中である。
先生「地元の建設業協会と経済同友会で百は何とかしなさい。いいね。日々是決戦ッ! いつものパー券売りと違うんだ。自民党の圧勝だからね。明るく、丁寧に自信を持って売り込む事。分かったね」
大川「はい。それから今度の衆議院選で崎田建設の息子が立つと云う噂です」
先生「おおッ! そう。どこから?」
大川「中道」
先生「チユウドウ? バカじゃないの? まあ、それはそれとして動向を逐一知らせない。武田くん(地元・第二秘書)にも伝えて置きなさいよ。報連相は忘れずにね。分かりましたね! ただし、あまり無理はしない事! 無理は私にキックバックして来ますからね」
大川「はい」
先生は受話器を置く。
控え室の外が騒がしい。
先生は控え室から、
先生「博子、 誰か来てるの?」
博子「はい! 恋サンが」
先生「コイサン?」
博子は直ぐに言い直し、
博子「あッ、百地さんです」
先生「お~おッ! 恋三か。着いたんだね。ヨシヨシ、入りなさい」
恋三「ハイッ!」
恋三はドアーをノックする。
「コンコン」
先生の優しい声が、
先生「ど~ぞ」
恋三はそっと控え室のドアーを開けて中を覗く。
また「失礼しま~す」
小柄な先生はスリッパを履き、マレリーの皮靴を磨きながら恋三を一瞥して、
先生「ご苦労さん。これで私も十人力だ。大いに期待してるぞ」
恋三「ハイ! 頑張ります」
そして恋三は本日の先生の行動予定を読み上げる。
恋三「それで、『本日の行動予定』ですけれど九時に上毛新聞の北川さんと写真撮影、十時三十分からJA主催の農業青年部会、十一時に谷岡ホテルで梶原社長の長女淳子さんの結婚披露パーティー。十三時より山田グランドで高齢者ゲートボール大会。ここは村長と議長も主席します。十三時三十分、川村メモリアルホールで石川トクさん享年九九歳の告別式。・・・」
すると突然、
先生「やめなさいッ!」
と先生が制止する。
恋三「ハ?」
先生「そんな事はアナタが分かっていれば良い事だ。時間がもったいない」
先生は手鏡で頭髪の後ろを見ながら、ウイッグ(カツラ)を整える。
そして整えながら、
先生「・・・君はテレビドラマの見過ぎじゃないか?」
恋三「えッ? あ、はい」
ドアーをノックする音が。
「コンコン」
先生「ど~ぞ」
博子がドアーを少し開けて顔を出す。
博子「あの~、上毛新聞の針谷さんが来ました」
先生「おお、来たか。で、カメラは持って来てるの?」
博子は振り返って針谷を見る。
博子「持ってます」
先生「そう・・・」
博子はドアーを閉める。
先生は等身大の鏡で全身を映し、ミナリを確認すると、
先生「ヨシッ!」
と気合いを入れて控え室のドアーを開ける
と、突然、
針谷「先生、そのまま! ハイ、こちらを向いて!」
針谷がカメラのシャッターを押す。
針谷「先生、素敵。バッチリ!」
先生は「ニッ」と笑い
先生「そうか」
針谷は先生が笑った瞬間に合わせ、シャッターを押し続ける。
「パシ、パシ、パシ、パシ」
針谷「わ~、先生、総理みたい」
先生「バカ云うな。五年早いぞ。ハハハハ」
先生は応接のソファーの上座に腰掛けて、上毛新聞の針谷の取材を受けている。
恋三は先生の隣の小さな「折りたたみ椅子」に座り、手帳を開いて話を聞いている。
先生の熱い話が続く。
先生「そう! これから上毛平野の肥沃な大地を日本一の穀倉地帯にして行くつもりなの。私は前石破総理の時、農業推進部会で精一杯、信次郎君(小泉信次郎)に提案したんだ。コレからは『米の世の中』に成るだろうと。今、世界は日本の米を欲しがっている。私は日本の農業、とくに米生産の為にヒトハダ脱ぐ覚悟だからね。私はねえ、群馬県が好きなの。そう、愛してるんだ。そこに明るい灯を照らしたいの。私はヤリますよ。任せなさい。この群馬の為にも補正を組んで米、畜産、園芸、自動車産業、そして道路整備ッ! そこに迫真の改革をもたらす! 私は今、財務副大臣をやらせてもらってるでしょう?」
針谷「そうでしたね」
先生「いわば、日本財政の副番頭だ。金庫の鍵を預かっている! まかせなさい。農業に於いては大きな革新! 道路の新設には大きな前進!まさに、マサニですよ、まさにコレにおいては保守に非ず、革新! いいですか、これはですねえ、ま~あ・・・」
と、突然、電話が鳴る。
博子が受話器を取る。
博子「はい、大木戸博康事務所です」
受話器から受付のヨネの声が漏れる。
ヨネ「ハイ、総理の秘書官からだよ~」
この受話器からの言葉は地元事務所内の『※ 時間切れを知らせる暗号セリフ』である。
博子「あッ、はい。少しお待ち下さい」
博子が先生の傍に来て、針谷に聞こえるように耳元に、
博子「先生、高市総理の秘書官からお電話です」
先生はわざとらしく、
先生「なにッ! 飯田君から? まいったな~あ。今、大切な取材中なのに」
つづく




