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不滅のリーパーキング~死体の山で梯子を作れ。あなたに届く、その日まで~  作者: 柳原ミツキ
第一章

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一夜の休息 前編


頭がぼーっとする。

暗い、暗い意識の中で、確かに人の温かみを感じた。その温度の主は愛するわが子を慈しむようにゆっくりと撫で、ダインの心を溶かしていく。


穏やかな風に吹かれ草木はサワサワと歌い、大地の香りが鼻孔をくすぐってくる。柔らかな感触が後頭部を優しく包み込み、多幸感に満たされる。

心地いい感覚に身を委ね再び意識を手放す寸前、艶やかな声が脳をくすぐった。


「......あなたは大切な火種なの。だから決して消えないで?大火に身をくべる、その時まで」

額に細長く柔らかい指が触れ、温かい感触が伝わってきた。

「お願いね......ふふ、『ジークプロード』 」


慈愛に満ちたその魔法の言葉に脳が焼かれ、溶け堕ちる。あたかも自分は声の主のために生まれ、生きてきたかのような錯覚に陥り彼女を盲目的に信仰する感情が芽生え始める。


「いい子にしててね?......大事な大事な、***」

 あなたは......だれ?

その甘美な声に導かれ、問の答えを得られぬまま無抵抗にダインの意識は底へ底へと沈んでいった......




パチパチ、と炎が静かに弾ける音でダインの意識は覚醒した。

今......何時だ?

この実験場に時計はないが、ある物を基準に被験者たちは一日の終わりと始まりを判断していた。


それは、空中に浮かぶ眩い光を放つ大きな球体である。


その球体はある一定間隔で消灯し、また点灯する。

明かりがついているときは昼、消えているときは夜という風に勝手に解釈し、被験者たちは一日をカウントしているのだった。


瞼を刺激する光が弱いことから、今はこの地下での夜の様だ。


仰向けになっていた体をごろんと横へ倒すと、なにか香ばしい香りが漂ってきた。

薄く瞼を開け食欲をそそる匂いの元へ視線を這わせると、少し離れた場所で鉄製の鍋が焚火にかけられ、その本分を全うしていた。


さらに視線を横へずらすと、楽な姿勢でくつろぐ青年の姿が目に入った。

薄茶色の髪を耳の下まで伸ばし、長い襟足を後ろで結んでいる。

色素の薄いグレーの瞳に高い鼻、透き通るような白い肌をしていて、ダインの受けた印象としては中性的な青年、であった。


ダインの視線に気づいたのか青年はパッと笑顔を弾けさせ、

「恩人殿!!目が覚めたのですね!!...いや 〜よかったぁ。あのまま目が覚めなかったらどうしようかと...」

安堵からかへなへなと地面へ崩れ落ち、両目を涙で潤している。


「心配かけて悪かったな。お前も無事そうでなにより......ってあれ?そういえば俺の傷は...」

青年の安否を確認したのも束の間、意識が途絶える寸前の自身の重傷を思い出した。


視線を左腕へ向けると、拉げて曲がったはずの左腕は元通りになっていて、痛みもまったくないことに遅れて気づく。


シャツを乱暴に脱ぎ捨て左あばら骨付近に目を見やるも、痣一つないきれいな肌が映りほっと胸を撫でおろした。


「ありがてぇことに完治してやがる......えっと、お前が治してくれた...のか?」

今なお涙を流す青年へ目をやると、


「いえ、僕が駆けつけた時にはすでに治り始めていまして......ものの数分で元通り!って感じでしたよ?......まるであの魔物、リーパーのようでした!」

「あんな気持ち悪い生物と一緒にしないでくれる!?」


おぞましい発言をしつつもキラキラとした視線を向けてくる青年にツッコミながら、自身に起こった現象について思考をめぐらせる。

そういえば、ノーニャに起こされた時も体の傷は完治していた。


「博士ってやつに改造されたってのもなくはないけど......」

自分だけ特別扱いされる理由が見当たらない。ならば、他の原因があるはずだ。


「なぁ、えっと......」

青年の方へ向き、ポリポリと頬を掻いていると

「ああ、すみません!まだ名乗っていませんでしたね。......僕はルイ・モーディアスと申します」


そういってルイは立ち上がり、貴族のように一礼をした。

「これはこれはご丁寧に。俺の名はダイン、ただのダインだ。......悪いけど、作法はわかんねえから勘弁な?」


ダインも立ち上がり、ルイに向かって手を差し出した。少し驚いた顔を一瞬のぞかせ、ルイも手を差し出し握手を交わした。

華奢な体つきに反して、硬い手のひらから体温が伝わってくる。さきほどの戦闘で見せた弓の精度といい、彼はここに来る前から弓の稽古をしていたのだろうか。


「いえいえ、そんなにかしこまらないでくださいよダイン君!......あなたは僕の命の恩人なんですから」

「それを言うならお互い様だけどな。.....正直、ルイがいなきゃ死んでたよ」


先刻戦ったあの恐ろしい熊型リーパーの威圧感を思い出し、身震いする。

ルイの懸命な行動と、自分の投擲技術がかみ合ったことでようやく勝てた相手だった。

実際、運悪く逆鱗に命中しなかった場合二人とも奴の餌食になっていたことだろう。


「日ごろの行いが功を奏したかなぁ......そういえば俺の短剣は」

この二日間お世話になり、すっかり愛着の湧いた短剣を探していると

「もちろん拾っておきましたよ。どうぞこちらに」


そういってルイは慎重に短剣を取り出し、ダインへ手渡した。

「サンキュ。......それにしても、この短剣には感謝しかないぜ...って、なんかお前、太くなってね?」


愛刀をしみじみ見つめていると、使っていたころより全体的に厚さが増していることに気づいた。

「ああ、そのことなんですが......」


とルイが「嘘じゃないですよ?」と前置きし、おずおずと口を開く。

「リーパーが消滅して瀕死のダイン君の傍にその短剣が落ちたんですけど、その...剣が血だまりを吸い上げているのを見たんです」


「.....まじ?」

「まじです。それで、短剣が血を吸い終わったかと思ったらダイン君の体がみるみる修復していって......」


今に至るらしい。しげしげと右手に収まる短剣を観察し、

「血を吸う剣なんて聞いたことねえぞ......しかも、使用者の傷を治すってんだから、まるで」

「『魔法』みたいですよね」


ダインとルイは顔を見合わせ、同じ結論にたどり着いた。

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