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不滅のリーパーキング~死体の山で梯子を作れ。あなたに届く、その日まで~  作者: 柳原ミツキ
第一章

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アシという男

「......ぁ」

声が、でない。

暗闇から突然現れた気色の悪い生物に見つめられ、膝が震えて立っていられない。

カチカチと歯が小刻みに音を鳴らし、ひどい耳鳴りに眩暈がする。


腰が抜け落ち、ペタンと尻もちを着いたグリムの眼前。その奇妙で歪な生命体は、頭部から生えた二本の腕を器用に動かし、軽快なステップで近づいてきた。


ジリジリと亀歩の速さで後退するグリムに、無遠慮にも距離を詰める『それ』。

その黒瞳に光は灯っておらず、ただただ目の前の獲物を食い殺さんとばかりに思える。


「い、嫌ぁ......!!」

必死に身をよじり、微々たる距離をなんとか稼ぐ。


涙で霞んだ視界で捉えた『それ』は体の皮膚が漆黒の鱗で覆われており、形容しがたいほどに、生命としての理から外れた容貌をしていた。


抵抗虚しく、目と鼻の先まで近づいてきた『それ』は無造作に右腕を振りかぶる。

ーーー死。

そう覚悟したグリムは、反射的に目を瞑った。

見たくない現実から目を背けるように。


次の瞬間グリムの体は太い腕に貫かれ、激しい苦痛とともに命をこぼす......ことはなく。 

「オマエ、食い物もってねえか?」


低く野太い声が鼓膜をゆらし、いつまでたっても痛みが来ないことに疑問符が浮かんだ。

「っ!!......え?......く.....食い物?」

自分の結末をうっすら覚悟したグリムは、とっさに挙げていた腕の隙間から顔をのぞかせた。

自分は攻撃ではなく要求されたのだと脳が理解しても、紫紺の瞳から困惑の色を消すことはできない。


珍獣は何度も頷き、

「んだんだ。オイラ、今日食い物もらってない.......なんか、フラフラする.......」

右腕で頭部の下あたり......唇溝をさすり、太い眉を下げた。


田舎者のような口調で悲しげに空腹を訴える珍獣に、グリムは少しばかり警戒心を緩める。

無性に母性をくすぐられるそれに同情の念を抱きそうになり、それを取り払うように頭を振ると。


「あなた......何者?」

「オイラか?オイラは、アシってんだ。......食い物もってねえか?」

「あなた足ないじゃないってツッコミはしないわよ......敵じゃ、ないってことでいいのね?」


見定めるような視線をアシに向け、珍獣の答えを待つ。

「敵......? それ、食えるのか?オイラ、お腹すいたぞ......」

ポリポリと頭を掻き、質問の意味がわからないと、強く空腹を訴えるアシ。


その様子にグリムは複雑な表情を浮かべ、しばし腕組をすると。

「じゃあ、こうしましょう。私の質問に正直に答えてくれたら、食べ物をあげる。どう?」

片目をつむり、3本指を立てて提案するグリムにアシは目を輝かせ、鼻息荒く首を振る。......両腕を地に立て、肩を回すように。


その様子に満足げに頷いたグリムは、一本ずつ指を折り曲げながら質問を口にした。

「一つ。あなた、ここに詳しい?」

「詳しい詳しい詳しい!オイラがこの廊下を作ったんだ!もちろん詳しいだ!」


「廊下......?まぁいいわ。二つ。私のほかに、ここに入ってきた人を知ってる?」

「知ってる知ってる知ってる!オイラの罠にかかって、今はトイレに座ってる!」


「トイレ......?無事ってことでいいのね?じゃあ最後に。......食料はその男が持ってるわ。トイレからこっちに転送してくれる?」

「了解了解了解!オイラ、食い物運ぶ!」

お兄さんも一緒に頼むわよと釘を刺し、アシの様子を見守って居ると。


「テレポート!」

アシが呪文を唱えたとたん、地面に淡い紫色の光が灯った。

膨大な魔力の波に目を細める。そして、瞬きした直後。

足元には白い紙でグルグル巻きになったコログが横たわっていた。


「食い物、くれ!」

「おおいうおうおう!?(どういう状況!?)」

ユサユサ体を揺する珍獣に目を白黒させ、コログは塞がれた口を動かし涙目にグリムを見る。


屈んで包帯を取ってやると、

「......ぷはっ。グリムちゃん!?なんで、っていうか。こいつはなにっていうか...」

「食い物食い物食い物食い物食い物!」

「なんだこの卑しい生き物は!ちょっ、そこにはなっ......!ああああああああ!!」

パニック状態のコログにアシが飛び掛かり、あちこちまさぐって食料を求めた。


なにやら顔を赤くして叫び出したコログに白い眼を向けると。

「こいつはアシ。敵じゃないっぽいから安心してよ。......あと、食料あげる約束だから、適当に渡してあげて」


「え.....?あ、ああ。......ほ、ほら。これでいいか?」

懐をまさぐり魔道具からパンを取り出すと、アシに手渡すコログ。

アシは唇を横に割くと、目を輝かせて無我夢中で飛びついた。


コログはアシの食事シーンをまじまじと見て、瞳に困惑の色を浮かべる。

「グリムちゃん。こいつなんなんだ?こんな生き物、見たことないぞ。......ていうか、アシって言った?」

「私に聞かれたって仕方ないわよ......でも、こいつがこの洞窟に魔法をかけたのは確かなようね」

名前に関しては取り合わず、肩をすくめて困惑に困惑を返すグリム。


「魔法、か......こんなやつが、ソーサラー......?」

眉をひそめ、怪訝な表情を見せるコログだったが、視界の端に腕を組むグリムが見えた。


彼女のことだから、なにか作戦を考えているのだろうかとぼんやり想像していると。

「お兄さん、私に合わせて」

グリムが突然近づいてきて、そっとコログに耳打ちした。


「え?」

グリムはコログに目くばせするや否や、耳障りな咀嚼音を隠そうともしないアシに近づいて。


「ねえ、アシ。あなたどこに住んでるの?」

「.....?アシの家。パパの家でもあるだ」

「ふふっ、そう。......私、アシの家に興味あるな~。きっと素敵な家具であふれてるでしょうね」


そう言うと、コログを一瞥。

「.....!あ、ああ。俺も興味あるな~。アシほどの強力なソーサラーの家屋、参考にしたいものだ」

グリムの目配せに姿勢を正し、たどたどしく合わせるコログ。


コログの大根役者っぷりにグリムは青筋を立てたが、どうやら杞憂だったらしい。

機嫌をよくしたのか、アシはパンの粕がついた口を歪ませると、

「そこまでいうなら、オイラの家に案内するだ。......ほら、二人とも」


片手で手招きする珍獣に二人は顔を見合わせ、アシの足元に出現した淡い光の元へ向かう。

「さっすがグリムちゃん......なんだけど、一つどうしても言いたいことがあるんだ」

「なによ。私の完璧な作戦に文句でもあるわけ?」

「いや、そうじゃなくてだな」

もごもごと口ごもるコログに冷たい視線が突き刺さる。


「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。気分悪いわね」

「ご、ごめん......じゃあ言うんだけど......」

そう言ってコログが口を開いた瞬間、野太い声が響きわたる。


「こいつ足ないじゃ....」

「テレポート!」

コログの至極真っ当な疑問は、珍獣の詠唱によりかき消されてしまった。


ご愛読ありがとうございます!

なんだかここ最近のシーンは書いてて難しい!

もし面白いと感じていただけたら、星とコメントよろしくお願いします!

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