胸に証もつ俺の一生 4
あの子は不貞の上に産まれた子どもだと。
旦那様は、実子だとはお認めになっていないのよ、と。
母親が俺をなでながら話しかけた。夢見るように、夢を見てるフリをして、無かったことにして許されるいつもの繰り返しだった。この後は母親と俺の二人しかいないと泣きだして、男の名前を呼んで俺を抱きしめる。俺が母親を呼ぶまで続く。いつもと同じ、おんなじ。
俺は知ってるんだ。
「なんてことを」と言ったのは、俺に向けてだと。
なんて、面倒なことをと、母親は俺に向けて言ったのだと。
少女から急に母親になり、相手は母親の望むことをしないままそのままで、子どもなんて可愛くなくて、でも周囲は俺を求めてて、だからこの人は俺を手元においている。
ふと、あの子のことを思う。
別館に除けられてしまったあの子。
あの子は暴力が嫌いだ。
あの子は甘いものが好きだ。
あの子は時々、こっそり俺達を見ている。
あの子は時々逃げたことを、家庭教師に怒られている。
閉じ込められている。
あの子は誰にも見られないように髪を伸ばしてる。
でもその髪は前髪以外大きな帽子やレースに隠されている。
人が近づくのを嫌がる。
あの子の瞳は青色で、ここの主人と同じ深い色。
キラキラしている。
なぜだか俺は、あの子がいる事がわかる。
でもそれをあの子に知られると逃げられてしまうから、俺は知らないフリをする。
不器用に母親が俺を撫でる。
捨てられた自分に折り合いをつけるのと同時に、俺への愛に目覚めたと口にする。でもそれを見せつけている相手を知っている。かわいそうにと言いながら、期待するその熱のこもった目を見たことがある。
知らぬ間に俺はあの子と姉弟になった。
俺には弟が産まれた。可愛いと祖母になった女がその子を抱く。それはあの子の父親との子どもではない。あの子の父親と、俺の母親は知っている。俺も知っている。俺の父親に聞いた。お前の兄弟で俺の息子だと、あの男が俺に言って聞かせた。
母親が結婚したと知った父親は、自分の死期が近づいたことと相まって惜しくなったのか、母親を呼び寄せた。母親は断りきれず、その男の最期に付き添った。そのことすらあの子の父親とつながるための手管にした。男は意趣返しだったのか、結局俺と産まれた弟をこっそりと認知した。夫である俺の義父は、何を思っていたのかわからないけれど、俺の父親とは親友だったらしい。あいつは俺のすべてを許すんだと。ありがたい友情だよ。父親は同年代の友達のように俺に話した。




