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努力する彼女と努力をやめた僕  作者: 成浅 シナ
1年生編
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㉑異変

「あ、忘れ物あった?」


「うん」


手に持った教科書を掲げて見せた。




文化祭から4日後の木曜日。

文化祭も終わり詠子との勉強会を再開した。


まずは宿題から片付けようと宿題をまとめたクリアファイルの1番上から手をつけた。


しばらくして終わらせ、2枚目の国語のプリントを取り出したのだがそれが教科書を見て、課題の古典作品の日本語訳をしろ、というものだったのだ。さすがにこればかりは教科書がないと手を付けられない。


まだ学校に残っていて良かった。

直ぐに楽々と終わらせられる物でもないため帰ってから気づいたのでは次の授業に間に合わなかっただろう。




「また分からないとこ聞いていいか?」


教科書をパラパラ捲りながら該当ページを探しつつそう聞くと


「いいけど、解く前からそれ聞く?」


呆れ交じりの反応をされた。


言葉は冷たいが態度はハッキリ拒絶している感じでは無い。詠子はいつもこんな感じの話し方をする。親しくない人からすれば誤解されるかもしれない。


詠子はいつも通り髪をまとめメガネをかけていた。

こう見ると前に会ったときとは別人のように思える。


髪型とメガネの有る無しでここまで印象が違うんだな。

そう言えば...前に市立図書館で那須と勉強した時も髪型変えてメガネをかけていたっけ。


あの時の事、那須との思い出を思い出し鼓動が早くなった。手元に視線を落とす詠子に気づかれないように顔の熱と緩む口元を手でさりげなく隠した。





カリカリ...ペラペラ...



ペンが走る音、教科書を捲る音が空間を支配する。

いつの間にか利用客が増え室内に設置された机の8割りが埋まり、話し声もゼロになった。


文化祭が終わると一気に構内が静かになったような気がする。


早くももう11月。

3年生は1月のセンター試験まで残り僅かということもあり殺気めいた雰囲気すら感じる。大学受験が高校受験とは比べ物にならないくらい大変だということは聞いている。


国公立大学は倍率もかなり高い。

私立に入るのならまだ勉強は楽になるのだろうが僕は出来ることなら近くの公立に通いたいと思っていた。



1番は学費の問題だ。落ちこぼれた僕に母が多額のお金をかけてくれるとも思えない。奨学金を借りたとしても賄えない部分は出てくると思うし、高校卒業後は1人暮らしをしようと思っているから学費であまりお金をかけられない。


『最低限』私立より学費の安い所に入ることが出来るのなら、これからはそれなりに、学力は付けないといけない。




そういう意味では詠子はとても力強い存在だった。それに一緒に勉強する事によって集中力も上がるし分からない所は相談し合える。

...と言っても一方的に教えてもらっているのだが。





人が多い割に話し声はしない。

古紙とインクの匂いがする。

この独特な空気がますます僕を「しっかり解かなければ」と焦らせる。



教科書の古語を1つ1つ地道に訳しているとーー


う......



「なあ」


机に身を乗り出してだいぶ声を抑えて詠子を呼ぶ。


『なに?』と詠子は視線で聞いてきた。


声を抑えたつもりだったのだがそれでも気が散ったらしく隣の机の男子生徒がこちらに不快そうな顔を向けてきた。


この状態で声を出すのも躊躇われ渋々席を立ち、課題を片手に詠子の隣に座った。


分からない部分に線を引き、新しく出したルーズリーフに『ここ分かる?』と書く。


『書き込んでもいい?』と書き返してきた。

顔を見て頷くとスラスラと詠子は教科書にヒントを書いたり自分の鞄から取り出した古語単語帳を捲って僕が分からなかった単語のページを広げて見せてくれた。


詠子の協力で何とか訳すことが出来た。


『ありがとう』


と書いて席を立とうとする。


――服の裾に抵抗を感じガクッと再び椅子に座らされた。


『ここに座ってて』


トンとそう書いた文をシャープペンシルで指し、僕が確認したのを確認してまたペンを走らせる、


『また分からないところがあれば聞いて』


顔を上げると詠子が微かに口の端を上げた。



ドクッと心臓が跳ねた。


詠子は面倒見が良い。

無愛想ではあるが人をよく見て気遣ってくれるし、普段クールな顔も時折見せる笑みに不意にドキドキさせられてしまう。


友達にそんな不純な感情を思わずとはいえ感じてしまったことに少し罪悪感があった。






「ねぇ...あれ......」


静かな室内に声が響いた。

斜め後ろの机に座った女子グループだ。小声で話してはいるが室内が静かだから周りに完全に聞こえている。


隣の席の友達と何やらしきりに入口の方をキョロキョロと見ている。周りの迷惑そうな顔が目に入ったのかそれより先の会話は互いの耳元で話していて聞こえない。


女子生徒達の視線の方を見てみるが残念ながら僕の位置からは柱で入口の方が隠れていて女子生徒達が何を見ているのかは分からなかった。


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