20.5 彩り
あの人とキスをする夢を見た。
※
物心着く頃には人の視線の的で周囲の期待に押し潰されそうになっていた私の人生。イベント事があっても楽しむ、というより気が抜けて『皆の望む那須祈』を演じる事を一瞬でも忘れてしまわないようにする事だけを考えてきました。
まるで使われないまま放置されていた塗り絵みたいに色のない人生に帰り道を歩きながら悲しくなった事も多いです。
そんな真っ白な塗り絵に色が付き出したのは高校1年の2学期。
トートバッグが消えたあの日に出会った同学年の男の子に耐えきれず悩みを話すようになってから初めて毎日を過ごすことに苦痛以外の感情を感じるようになりました。
彼の姿を見かける度、火曜日に電話をかける度、返信が返ってくる度に赤、黄色、青と新たに色が足されていきます。
そう、初恋だったんです。
前々から、というか、結構早い段階から本や学校での会話で恋という概念を知っていましたが、その時は正直「へー」、「ふーん」というように他人事として考えていて共感できない事が多かった。『燃えるような恋』だとか『あなたがいればそれだけでいい』とかよく分からなかったんです。
分かったのは最近。あの人がーー押川透さんが傍にいてくれるだけで、素の私と話してくれるだけで日々の苦痛が一気に和らいきました。
押川さんがいてくれるから、話を聞いても離れないでいてくれるから私は頑張れる。
勉強、人間関係と普段はそれを高水準で維持するだけで精一杯なのにクラスメイトに推薦され文化祭実行委員までさせられた事がきっかけでキャパシティをオーバーしてしまったあの日、誰かに助けを求め蹲っていた私の元に彼が現れてくれました。
『私...も...!です!私も、押川さんにずっと、一緒にいてもらえたら...』
彼の言葉にすっかり舞い上がって頭で考えるより早く口から言葉が溢れてしまったんです。
『す...ッ!!』
好きです。
勢いでそこまで言ってしまいそうになりました。
押川さんは善意で私の相談を聞いてくれているだけなのに。
『それに僕は那須を絶対特別扱いしない。...好みから外れてるからな』
ほら、初めて話したあの日、押川さんはそう言ったじゃないですか。
押川さんにとって私は恋愛対象じゃないんです。
あの日好きだと伝える事を理性でなんとか押しとどめたのはそれがあったからです。
でも、結果としてそうして良かったと後から思いました。
だって、それを伝えてしまえば押川さんと今までのように話すことも無くなったでしょうから。
今はまだ。
押川さんとの関係が続くのであれば、学校で話せなくても、堂々とお話出来なくても十分幸せです。
―――でした。
※
文化祭の事後処理のため最後の文化祭実行委員の集まりを終えた後、教室に戻り荷物をまとめ廊下に出ました。
みんな帰ったのか、部活に行ったのか、教室棟にはほとんど人は残っていません。
歩きながら疲れた頭でボーッと窓の外を見て――
心臓が大きく跳ねました。
窓の外、正確には窓越しに見える特別教室棟への渡り廊下に想い人の姿を見つけたのです。
キョロキョロと周りを見回し誰も居ない事を確認しました。
人も居ないし利用する人の少ない特別教室棟ということもあって前々から胸の奥にあった欲望が溢れて止められないです。
学校の中で普通に話したい。もっと、少しでも長く押川さんと――
※
この時間から特別教室棟に行くのなら図書室か、自習室と見ました。
ですが自習室にはいません。
だとしたらきっと図書室ですね。
楽しみです。きっと押川さん、驚くだろうな。




