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第14話 計画

 部屋に入ると、学園長であるパーシバル・フォン・オールブライトと目が合う。彼は黒い革製の椅子に腰を下ろしており、手を組みながら、重厚感のある机に両肘を置いていた。

 クライヴが入ってきたのを確認すると、パーシバルはイスから立ち上がり、部屋中央に置かれたソファに腰を下ろす。


 「自由に座りたまえよ」

 「失礼します」


 クライヴはそう言うと、パーシバルの反対側のソファに座る。


 「わざわざ来てもらってすまないね」


 パーシバルは口元をわずかに緩ませる。

 眼鏡をかけ、どこか神経質そうに見えるが、この人間が生徒思いの学園長であることは、在校生の間では周知の事実であった。そのため厳しそうで新入生の受けは悪いが、2年生、3年生にもなれば、親しみを覚える生徒は少なくない。


 「あ、いえ気にしないでいいっすよ。それより、用事ってどういったものですか?」

 「いやなに、収穫祭最終日の後夜祭。そこの公式試合で君に出場して欲しいと思っていてね。今日はその打診というわけだ。・・・・・・どうかね?」


 収穫祭。毎年の春に行われ、新入生を歓迎するための祭りのことだ。外部からも数多くの人が訪れるため、生徒達からすれば一大行事のひとつである。

 そして後夜祭では3年生と1年生が戦う公式試合が行われる。これは外部の人間に、我が学園はこれだけ優秀な魔法使いがいる、ということを売り込むためではないかと言われている。


 「それは構いませんが。・・・・・・どうして俺なんですか?」

 「君が一番適任だからだよ。後夜祭の公式戦には来賓の方も数多く来る。だから性格的にも強さ的にも問題ない君に、白羽の矢が立った」

 「理由はわかりました、それで1年生は誰が出るんですか?」

 「アステル・リリィ・ブラックという生徒だ」


 彼女の名前を聞いた瞬間、どきりと心臓が震える。今日、好きになった少女と戦うことになるとは。運命めいたものを感じ、クライヴは胸の高鳴りを覚えた。

 クライヴの顔を見つめていたパーシバルは、頷く。


 「その顔、やはり知っていたか。流石は少女一人を助けるために街を半壊させた挙句、各所に私の頭を下げさせた剣聖様といったところか」

 「・・・・・・その節は、大変申し訳ございませんでした」

 「フ、気にするな。冗談だ」


 そう言ってパーシバルは苦笑する。クライヴはぎこちない笑みを返した。あんたが言うと冗談に聞こえないんだよ。

 表情があまり変わらないうえに、眼鏡をかけているため感情を読み取りづらい。これまでにパーシバルとは何度も話してきたが、冗談なのか本気で言っているのか判断に困る時が多々あった。


 「対戦相手はアステル・・・・・・さんですか」


 クライヴの言葉を聞き、うむ、とパーシバルは頷く。


 「組分け試験での結果が申し分なかったのもそうだが・・・・・・少し個人的な話になるが、彼女を表舞台に立たせてやりたいと思ってね。今のところはキミとアステル・リリィ・ブラックに収穫祭最終日の後夜祭で戦ってもらいたいと考えている」

 「まぁ、俺としては誰が相手でも構いませんけどね」


 そういえば、とパーシバルは顔を上げる。


 「今回の件は彼女に言ってない。できれば内緒にしてくれると助かる」

 「どうしてまた?」

 「事後承諾でもなければ断られてしまいそうでね、今は水面下で計画しているというわけだ。それと」


 パーシバルは不敵にほほ笑む。


 「少しだけ、彼女をビックリさせてやりたいと思っていてね」


 クライヴはわずかに思考した後、首を縦に振った。


 「引き受けます。・・・・・・いえ、彼女と戦わせてください」

 「ありがとう。了承してくれて助かるよ」


 パーシバルが言い終えるより早く、クライヴは音を立てずにソファから立ち上がる。


 「学園長、用件は終わりですか? すみませんが、これから忙しくなりそうでして」

 「フ、やる気は十分といったところか。何か思うところでもあるのかい?」


 思うところ?

 そんなものは問われるまでもない。


 「愛、ですね」


 クライヴにそう言われ、パーシバルは静かに首肯し、


 「なるほど、愛か。・・・・・・え? なんだって?」


 数秒後に混乱した。


 「では学園長。俺はこれで失礼しますよ」


 パーシバルに頭を下げ、学園長室を後にした。すると待機していたキリエがこちらに近づいてくる。


 「我が主、何を話されていたのですか?」

 「後夜祭でアステルって子と戦うことになった」


 それだけの説明で頭のいい相棒は理解してくれたらしい。キリエは鷹揚に頷く。


 「把握、それで我が主はどうされるのですか?」

 「後夜祭の公式試合で勝って、改めてあの子に告白したい。君のことを好きな男はこんなにも強いんだぜって証明してやりたいんだ」


 クライヴは拳を強く握り締める。

 これは惚れた相手をものにするため、自分に与えられた試練なのかもしれない。

 勝負とはいえ、あの子に剣を向けるのは少しばかり心苦しいが、きっと理解してくれるはず。それとキリエにも言ったが、自分の実力をアステル・リリィ・ブラックに知らしめる絶好の機会ではないか。この好機を逃す理由などあるはずもない。


 クライヴは真剣な表情を作ると、相棒を見つめる。

 

 「だから――勝つぞ」

 

 キリエは不敵にほほ笑むと、主人の命に従うべく、それを承諾する。

 

 「委細承知、我が主のご命令とあれば」


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