平和が欲しい
ーパァアアアアアンッ
何かが破裂したような音がした。
その音は、私から離れていないところで鳴った気がする。
ほかには、不特定多数の叫び声や怒鳴り声がしている。
ただし、私の耳には意味のある言葉には聞こえない。
突然、私の視界が揺れた。
私の体を誰かが揺すっている。
そして、私の安否を確認する言葉も聞こえた。
私の身に何があったのか、今、どういう状況なのか、さっぱり分からない。
今、確認できることといえば。
私の体は私の意志で動くことはなく、言葉も発することもできない。
そして、意識が黒い沼に引きずり込まれていく感覚が、絶えず襲ってくる。
少しでも、気を抜いてしまえばもう戻っては来れないことは、本能的にわかる。
いっその事、このまま身を任せてしまおうか。
そう考えたとき……
ー死ぬのか。
ただ、この言葉だけが落ちた。
私からすれば、これは最初で最後の神の慈悲なんてものだ。
私は20歳にしては、人よりも色々な経験をしてきたと思う。
例えば、年齢を偽り、16歳の頃から夜蝶として生きてきた。
理由は漫画でよくあるようなつまらないもので、父親が私を借金の連帯保証人として契約していながらも、母が天に召されて数か月した後、父親が蒸発し、当時15歳だった私には多額の借金だけが残った。
そう、それだけ。
この四年間、自分を美しく見せるために、美容には人一倍気を使った。
お客様を喜ばせるためだけに、様々な分野の知識を蓄えた。
ある時、流浪の御使いと名乗る男が私を指名した。
その男とは死後の世界について会話した。
『人は死んでしまえば、その人生が善悪のどちらであったのか、神の審判が下される。善であれば、魂は救われ、新しい器を宛がわれる。悪であれば、魂は虚無へと囚われ、拷問のように時間をかけて壊されていく。何も感じはしないから、恐怖などの感情も無いが。』
男は愉快そうな瞳をしながら、私に説いた。
男の言葉が正しいと仮定すると、私は善悪のどちらに振り分けられるのだろうか。
世間的に見れば、私は悪だろう。
早くに親を亡くし、親に捨てられたところまでは可哀想な子なだけだっただろう。
その時点では、善悪どちらでもなかった。
しかし、私は多くの人に嘘をつき、穢い生き方をしてきた。
決して、私自身は自分の生き方を穢いなどとは、思ったことはないのだが。
道徳的には人としていけないことをしていた自覚はある。
だが、私の生き方を神はどのように判断するのだろうか。
道徳的にか?
それは、あまりにも人間的だ。
もし、神が私を善とするのなら、私は新しい生を生きることになるのだろう。
やり直すことができるのであれば私は
「へ……いわ…が、ほ…しい…」
【其れが貴方の望みなのであれば、我は其れを叶えよう】
何処からか声がした。
いや、私の頭の中から声がした。
その声は、男か女か区別するには中性的で、人間味が大きく欠けていた。
【魂の器の作成と魂の改竄を同時並行で処理します】
【魂の器の作成、オールクリア】
【魂にギフト・神の愛し子を付加】
【マスターの平和を確立させるため、スキル・結界を最高レベルで付加】
【魂の改竄、オールクリア】
機械質の声が頭に響く。
その声は、理解しがたい内容を断続的に発する。
まるで、ゲームのチュートリアルのようだ。
確か、転生もののライトノベルでこんな感じの展開があった気がする。
小説の通りに進むのであれば、魔王を滅ぼすために召喚でもするのだろうか。
そんな、非現実的なことが私に起こるなんて馬鹿々々しいけれど。
【器の座標をアイーダ・ウルティア・神獣の森に確定】
【魂の転送を開始します】
【さぁ、我の愛し子よ。貴方は好きに生きればいい。己の欲望のまま、自由に。我は貴方をいつでも見守っておるからな】




