↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/41

ただのアーサー・マーティン

 

 ダンジョンから街に向かう。

 日が傾き始め、歩く足に長い影が付き纏う。

 ボス討伐作戦は無事に終わりを迎えていた。

 怪我を負ったものはいたが、誰一人死ぬことはなかった。

 この結末は、アーサーの少し前を歩いている小柄な少女によってもたらされた。


(ユナ・マヨルカ)


 彼女の名前を心の中で囁いた。

 アーサーの頭の中で、懐かしい記憶が蘇る。


『お前に頼みがあるんだ』


『なんですか、師匠』


『俺がもし、この先いなくなる事があったら、俺の弟子になった少女をお前のパーティーに入れてやって欲しい。真っ黒い髪の毛に、空の様に青い瞳をしている女の子だ』


『やめてくださいよ、師匠。まるで、もういなくなってしまうような言い方じゃないですか』


 ボス討伐の調査で長らく姿を見ていないと思っていたら、ふらっと帰ってきてそんな事を言い始める。


『今回はボス討伐だ。いくら俺でも万が一があるかもしれない』


『そんなこと、冗談でも言わないでくださいっ! 私はあなたの帰りを待ちます! そんな遺言じみた頼み、聞く気になりません!』


『アーサー……』


『それに、その少女が本当に冒険者になっているとは限らないですよね』


『ああ、そうだ。だが、もしお前の前に冒険者として現れたら、その時は運命だと思ってパーティーを組んでやってくれ』


『そんな不確かな未来の話なんて……私は約束できません!』


 過去の思い出の中、アーサーの師匠である『フィン・ルイス』は、柄でもなく申し訳なさそうに笑っていた。

 もう六年も前の記憶だ。

 そして、その会話を最後に、師匠がアーサーの前に姿を現すことはなかった。


(師匠、私は遂に見つけましたよ。師匠の大切なもう一人の弟子を……)


 師匠の死がきっかけで、心にポッカリと穴が開いてしまったアーサー。

 最初は同じ思いを共有する為に、師匠の言っていたもうひとりの弟子を探し始めた。

 本当に遺言となってしまった師匠の最後の願いを叶えたい気持ちもあった。


 冒険者として数々のパーティーを転々とし、腕を磨きながら少女を探したが見つからず。

 アーサーが探すことを諦めた頃、アスピーダ軍にその腕を認められ、何かの縁だと申し出を受け入れた。それが二年前の話だ。


 しかし、今年に入ってとある会社に就職した愚弟が『面白い奴がいる』と話し出した。

 黒髪に、空の様に青い瞳をした女性だという。

 アーサーは自分の耳を疑った。こんな偶然があるのだろうか。


『あいつ、ヒーラーのくせに他のヒーラーとオーラが違うんだ。きっと戦ったら強い。でも固くなにヒーラーにこだわるんだ。もったいないよな』


 基本自由奔放で天然で、どうしょうもない単純馬鹿な愚弟だが、本能のまま生きている様なその鋭い感覚に、アーサーは絶大な信頼を持っていた。

 そして、ギュムナシオンでコソコソと隠れながらも、真剣に剣を振るうその姿を実際に見た瞬間、アーサーは確信した。


(私が探していたのは、この子だ!)


 アーサーは愚弟とぶつけることで彼女を試した。

 そして、想像を遥かに超えていた彼女の力に、一瞬で惚れ込んでしまった。

 今まで自分の傷ついた穴を塞ぐためだけに探し求めてきた彼女の存在が、この時から大きく変わり始める。


 また、彼女が時より見せる悲しげな姿を見る度に、アーサーはまるで自分を見ている様に感じた。

 師匠の死をまだ全て受け入れられていない自分。

 同じように彼女の小さな体の中でも、師匠の死は未だ燻っている。


(どうにか救ってあげたい)


 そう思ったアーサーは、彼女に言った。


『私とパーティーを組まないか?』


 最初は同情や彼女の力に惚れ、そう提案した。

 だが、彼女と接していくうちに、まるで可愛い妹の様な存在に思えてきた。


(私が守らなくては)


 危なっかしい、まだ発展途上の力。その心に秘めた暗い悲しい闇。


 しかし今、目の前を歩く彼女の姿は力強い輝きを放っている。

 最強のヒーラーとして戦い抜いた彼女は、自分の道をしっかりと歩き始めているのだ。

 アーサーは心の底から温かい気持ちが込み上げる。


(良かった……本当に良かった)


 ふと、彼女が振り返った。


「アーサー」


「はい」


「さっきは聞きそびれたけど、あなた一体何者なの? なぜ私の過去を知っているの?」


 訝しげに眉を寄せ、そう聞いてきたユナ。

 今や普通に名前を呼んでくれる様になった事に、アーサーは感動と愛おしさが込み上げてくる。


(ああ……可愛い……。もっと困った顔が見たい……)


 ここでアーサーの捻くれた悪い性格が現れる。


「ただのアーサー・マーティンですよ、ユナちゃん。今はそれだけしか答えません」


 答えが気に食わなかった様子で、ユナは不満げな顔を浮かべる。

 その顔も可愛く感じるほど、アーサーはユナを特別に思っていた。


(まだ当分、師匠のことは話さないでおこうかな)


 夕暮れで緋色に染まる空を見上げながら、アーサーはそう思うのだった。


 無事に第一章が完結いたしました!

 読んでくださった方、ブックマーク登録してくださった方、本当にありがとうございます!

 本当に、励みになりました!

 明日からは一旦毎日投稿をお休みしまして、第二章の執筆に励みたいと思います。


 また、次のネット小説大賞に応募するにあたり、本日完結した第一章も加筆修正をしたいと思っています。

 ストーリー自体は変えず、冒頭部分を大幅に変える予定です。

 プロローグが増えた!と思って頂ければと思います。

 修正することに抵抗もありましたが、もっと良い物語になる!と思ってしまった僕の猪突猛進ぶりをお許しください。

 絶対面白くするので!

 それだけは保証します!

 

 8月頃に一旦非公開にして、加筆修正と第二章の執筆に専念しようと思いますので、それまでは現状の物語をお楽しみください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。