あなたが嫌いだ……
金色の髪色に、整った顔。手には一本のロングソードを持ち、その姿は剣王と呼ばれるにふさわしいオーラを放っている。
「出来れば、私の名前を呼んで欲しかったな」
アーサーはいつもと変わらない爽やかな笑顔でそう言った。
しかし、その緋色に煌めく目だけは、いつもの食えない態度を取る彼とは違い、闘志に燃え揺れている。
「どうしてここに……」
「君を助けに来た」
「なぜ?」
「君を死なせたくない。それだけだよ」
そう答えたアーサーは、またユナに背中を向け、後ろで唸っているケルベロスにもう一度会い対した。
剣を構え、戦闘態勢に入ったその姿が、なぜか懐かしく感じる。
そして、視界に映るアーサーが、昔同じようにしてユナを助けたフィンの後ろ姿に重なった。
ユナはアーサーが苦手だ。
それは、しつこく付き纏って来たり、食えない態度をとったりするからでもあるが、それだけではない。
ユナは初めてギュムナシオンでアーサーが振るった剣を見て、感じていた。
感じていたが、認めたくなかった。
彼の姿がまるでフィンに見えたことを。
フィンは暗めの茶髪に琥珀色の瞳で、男性にしては小柄な体格。単純な性格で、思った事をすぐに口に出す。
対してアーサーは、金色の髪色に緋色の瞳をしており、スラッとした長身。そして、その心を見せず、何を考えているのか全く分からない。
二人は似ても似つかない見た目と性格をしていた。
なのに、その剣を持った姿と、力強い瞳の輝きだけはそっくりだった。
「アーサー。私は……あなたが嫌いだ……」
ユナはそう呟く。
「……君はちょっと素直すぎる。でも、私はそこも気に入っているよ」
そう言ったアーサーは、一瞬だけユナの方を振り返った。
その顔は笑っていた。
殺気を放つ魔獣と相対している状況にも関わらず。
それも、今まで散々見てきた感情のない仮面の笑顔ではなく、心の底から嬉しそうに。
「私が奴を仕留めるまで、ここで待っていてくれ」
再び前を向いたアーサーは、強く地面を蹴り、ケルベロスに向かって間合いを詰める。
「グァアアア!」
迫ってくるアーサーに対して、ケルベロスが地面をカリカリと引っ掻く。鋭い牙を剥き出し、よだれを撒き散らしながら唸り声を上げた。
そんなケルベロスに、アーサーは臆することなく向かっていく。
「ブゥゥン!」
アーサーが飛ぶ斬撃を繰り出した。それはまるで空間を切り裂きながら、真っ直ぐケルベロスに向かって飛んでいく。
もう少しというところで、ケルベロスが素早く横に移動し攻撃を避ける。そして、アーサーに向かって炎を吐き散らした。
アーサーは、それらをいとも簡単に剣で消し去ると、次の瞬間、ケルベロスに向かってまた駆け出していた。
その脚力や動きが、まるでフィンの戦闘スタイルを彷彿とさせる。
(一体、剣王アーサーとは……何者なの……?)
ユナはただただ、後ろで冒険者達とその姿を見ていることしかできない。
魔力は限界を迎え、治癒魔法すら使う事ができない。
目の前にまだ回復しきっていない人たちがいるというのに、それを癒すことすら今のユナには難しい。
魔力を失い、使い物にならなくなったヒーラーほど、足手纏いなものはない。
そんな現実が、ユナを嫌でも襲ってくる。
ヒーラーとして失格だ。
(クソッ……私はまた助けてもらうだけで……あの頃と何も変わっていない……)
自分の情けなさに、死にたくなる。
その間も、アーサーは余裕な動きでケルベロスを圧倒している。
目に止まらぬ速さでケルベロスの攻撃を捌いたと思ったら、その脚力で一気に敵の頭上に飛んでいく。
そして静かで美しい太刀筋が、三つの頭をほぼ同時にスパッと断っていた。
「ドシ、ドシドシンッ!」
大きな頭部が三つ、音を立てながら地面に落ちる。
切れた胴体は、その首から大量に血を吹き出しながら「ドッシーン!」と、横倒しになった。
勝負はついた。
剣王アーサーの圧勝だ。
「わーーーーっ! 勝ったーーっ!」
冒険者達が叫び、喜びあう。
が、その声はまるで水の中で聞いているかのように、ユナには遠くに感じた。
足の力が抜け、その場に崩れ落ちる。
どうやら、魔力を使い過ぎた反動で、いつの間にか体力にも限界が来ていたらしい。
「……おいっ、お前……だいじょ……か……」
聞こえる音がどんどん遠くなっていく。
視界もぼやけ、消滅していくケルベロスの輝きと、その前に立ちはだかる黒い人影が映るのみとなる。
こちらに向かって走ってくる人影を見たのが最後、ユナの視界は完全に闇に落ちていった。




