深層ボス討伐作戦
今日も派遣先のパーティーと合流するべく、ユナはダンジョンに向かって歩いていた。
忙しなく歩いている人達の様子が視界の横を通り過ぎていく。
いつものように冒険者達もいるが、ここ数日はイレーネリア国の国営軍であるアスピーダの軍服を身に纏った人や、ギルドの職員らしき人達の姿もよく見かけるようになった。
この頃、ダンジョン周辺が慌ただしい動きを見せている。
「もう、帰りたい……」
周りの空気がピリついているのを感じ、ユナは社宅に帰りたい衝動に駆られた。
それもこれも原因は『深層ボス討伐作戦』が遂に一週間後に決行される事が決まった為である。
下層までのフロアボスと違い、深層ボスの討伐は国を挙げての大規模討伐となる。
その為、今回のボス討伐には、国王直々の命で国営軍の軍人達も一緒に参加する事が決まったらしい。
王都周辺は深層ボス討伐作戦の決行の知らせに沸き、連日お祭り騒ぎで浮かれている。
そして舞台となるこのダンジョン周辺は、討伐の際に必要な物資を運搬したり、外での拠点を作ったりとで、軍人やギルド職員、そして冒険者の人達で騒がしくなっていた。
もちろん、普通のダンジョンでのクエスト業務も行われている為、単純にいつもの倍ほどの人達がこの場にいると考えて差し支えないだろう。
今日もダンジョンでいつも通りの仕事をするユナにとっては、迷惑極まりない話である。
「おーい、ユナ!」
(げっマウント先輩……)
ユナに向かって手を振りながら、ご機嫌良さそうな顔がこちらに向かってきた。
もう既に疲れ切っている表情筋をぎこちなく動かし、ユナは笑顔を取り繕う。
「おはようございます」
「おはよう! ユナはこれからダンジョンか?」
「はい。派遣先のパーティーと下層に行く予定です」
「それは頑張ってくれ。俺はもちろんのことながら、今度の深層ボス討伐のメンバーに選ばれたんで、ここで準備をしている所だ」
(お前がここにいる理由なんか、聞いてねーし。どーでもいいし)
ユナは心の中でそう思いながらも、マウント先輩の機嫌を損ねないように、できるだけニコニコと話を受け流す。
「さっ流石ですねー」
「まー俺ぐらい強い冒険者のベテラン、そうそういないからな」
「でっですよねー。ホント尊敬します先輩」
「おーそうかそうか。ユナもあと十年ぐらいしたら、俺みたいな仕事が回ってくるかもしれないぞ。まーそれまでホワイトリングで頑張れよ、期待してっからさ」
ユナの肩を手でバシバシと遠慮なしに叩きながら、マウント先輩は満足そうに笑っている。
思わずその顔面を一発殴ってやりたい衝動に駆られたが、そんなことできる訳もなく、ただ拳を握りしめ、肩の痛みに耐える。
しかし、取引先との約束の時間が迫っていたユナは、こんな所で捕まっているわけにもいかない。
「じゃー時間が迫っているので……」
すごく申し訳なさそうな雰囲気を作り上げながら、ユナはおずおずとそう言った。
「おーそうだったな。じゃー頑張れよ」
「失礼します」
思いの外すんなりと解放してくれそうな流れに、ユナはほっとする。
この流れが変わる前にと、何回かマウント先輩に会釈をしながら、足早にその場を立ち去った。
ただでさえ、いつもより人がいるこの状況にうんざりしているのに。
マウント先輩に捕まったことで、仕事前にも関わらずどっと疲れの波が押し寄せてくる。
ユナの気分はさっきにも増して最悪になった。
(クッソ、マウント野郎め……。しかし、これも貯金が溜まって仕事を辞めるまでの辛抱だ。がんばれユナ……)
そう自分に言い聞かせながら、マウント先輩に湧いた殺意をなだめ、なんとか仕事への集中力を繋ぎ止める。
(今日も仕事終わったらソロ討伐頑張ろう。そして稼ごう)
他の感情や考えは押し殺し、ただそれだけを必死に考える。
心の中で何回も何回もそう唱えながら、ユナはダンジョンに向かうのだった。




