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第八話 早すぎじゃないか?

 

 周囲がざわめいている。


 こんなにたくさんの人が参加しているのかと思うぐらい、人、人、人の群れ。

 思わずゴクリとつばを飲み込んでしまう。


 ああ、今は違うんだから、そいつは我慢しないと。


 だけど、どうしても首の辺りが気になって仕方がない。

 これは職業病の範疇に入るのかな?

 今の服装はやはり、白衣姿になっている。


 艶々としたバールシルバーの長い髪を後ろで軽く括った白衣姿の……えーと、やっぱりこれはちょっと。


 ガラスの窓があったので、姿を写してみると、どうにも男か女か判らないぞ。

 白衣の中で握り拳を胸に当てると女に見える。

 これ、面白いな。


 《チュートリアル、研究所への出頭を始めますか?》


 お、いきなりか。


 あいつらを探そうと思ったが、先にこれやっとくか……《yes》


 説明をつらつらとされ、道順がミニマップに記される。

 どうやら街中ではミニマップが表示されるようで、迷子対策なのかも知れない。

 もっとも、今は白地図に近く、入った店が表示されるようになっているようだ。

 さっき冷やかした店が表示されているが、隣の店は白い枠組みのままだからだ。

 これ、地図を完成させようと思ったら、全ての店とか家屋に入らないといけないのか。

 一般家屋に入るにはやはり、何かのクエストが必要になってくるのかな。

 さすがにこんな世界でコンロの調査って、詐欺師の常套句なんかは使えないだろうしな。


 辺境の町らしく、出頭先の研究所は小さなものだった。

 支部とあるが、本部は王都にあるらしい。

 木造2階建ての古びた建物に入ると、ギシリと床が鳴る。


 妙にリアルだな。


 どうやら1階は事務関係の部屋になっているようで、受付で聞いてみると2階へ行くように言われる。


「ここ、広いのに全部が事務なんですか? 」

「いいえ、隣の部屋は実験室になっていますのよ。さすがに実験は地面の上でやらないと何かと危険ですので」

「ああ、成程」

「じゃあ2階の奥で教授がお待ちです」

「判りました」


 階段もギシギシと音が鳴る。

 古びた家屋の様式美なのか、これって。

 ギィッとかギシッとかギュゥとか色々バリエーションがあって面白い。

 ちょっとウズイス張りを思い出した。

 これも曲者探知に使えそうだな。


 2階の廊下もウグイス張りもどきで、奥の部屋のドアをノックすると「開いておるぞ」との言。

「失礼します」と声を掛けてドアを開く。


 ギィィィ……クククッ、やっぱり鳴ったな。


「遅くなりました」

「おお、ようやく来たかの」

「はい」

「して、おぬし、経験はどれぐらいじゃ」

「そうですね。錬金術の真似事を少々」

「ほお、心得があると申すか」

「ですが、この国では初になります」

「それはまた珍しいの。到来者の国では広まっておらぬ学問と聞いておるが」

「少し特殊なので」

「ふむ、まあ良い。事情があるなれば問いはせぬ」

「ありがとうございます」


 教授は50半ばと思わせるぐらいで、白髪混じりの短髪はきちんと切り揃えられている。

 田舎の貧乏学者なイメージとは裏腹に、身だしなみがきちんとしている様から見ると、かつては王都勤務だったのかも知れない。

 都落ち……そんな言葉が頭に浮かぶが、そればかりでは無いのかも知れない。

 教授に椅子を勧められ、着席して相対する。


「なれば早速じゃが、おぬしの知り得る基礎知識を申してみるが良い」

「物質の本質を知り、互いに合わさる姿を想像し、それに魔力を融合させて理想の姿に導く」

「それは錬金術の極意じゃぞ。おぬし、ワシの助手などの器では無いのぅ」

「そうですかね」

「ううむ、致し方あるまい。助手は欲しかったが、おぬしは既に超えておるようじゃ。なれば独自なる研鑽を成すがよい」

「あの、助手ってのは? 」

「卒業じゃ」

「うえっ」


 一瞬で卒業しちまったぞ。


 確かにかつては錬金しまくってて、その要領を言っただけなんだけど、それが極意?

 まあ、クリアと言うなら構わんが、もっと何かあると思ったんだがな。

 席を立とうと思ったら「しばし待て」と言われ、そのまま待っていると「それでじゃ、これが卒業の証じゃ」と、何かの冊子を渡される。


 本のタイトルを読んでみると『錬金術師見習いの書』と書いてある。


「教授、これは? 」

「それを読めば今日からおぬしは錬金術師じゃ」

「本当に良いんですか? あんな要領みたいなので」

「あれを要領と申すなれば、かなりの熟練であろう。真似事を少々とは、少しばかり謙遜が過ぎぬかの」

「申し訳ありません」

「よいよい、それよりもこの事は誰にも申すで無いぞ。不心得者が不埒な事を考えぬとも限らぬ。そもそも、上級職への方策は口伝じゃからの、不心得者などに知られてはならぬのじゃ。良いな」

「はい、誰にも話しません」

「なれば後は己の才覚のままに、腕を磨くが良い」

「ありがとうございました」


 教授にお暇を申し出て、そのまま部屋を出て廊下を歩く。

 てっきりレベルが上がらないと無理だと思っていた上級職への道。

 ひょんな事から得られたが、誰にも話せないとなると、情報独占と言われるかも知れない。

 それでも約束した以上は話せないから、上級職の事は内緒にしておいたほうが良いな。


 バレたら仕方が無いけど。


 建物を出てしばらく歩くと、小さな広場に朽ちかけのベンチのようなものが置いてある。

 そこに座ってさっきの冊子を出してつらつらと読んでいく。

 内容は本当に基礎の基礎な錬金術の概要が書かれていて、オレにとっては今更な代物だった。

 5分ぐらいで読み終わり、パタリと閉じたら冊子が光を帯び、そのまま光の粒子となってオレの身体に吸い込まれた。


 もしやと思い、ステータスを確認すると、しっかりと錬金術師になっていた。


『お知らせします。只今、上位職への転職者が現れました。ですのでこれより上位職を開放します』


 ◇


(おいおい、まだ初日だぞ)

(冗談だろ。βでも上位職とか、終わるギリギリぐらいだったんだぞ)

(どうなってんだ。何か裏技でも見つかったのか)

(どんな職なんだ。それが判れば)

(掲示板で発表されるかもな)

(そうだな。一番乗りならきっと自慢するだろうし)

(ああ、悔しいがそれを見て知るしかないだろ)

(廃の奴ら、きっと悔しがっているぜ)

(だろうなぁ)


 ◇


 《最初に上位職に到達しましたので、特典が配布されました》


 たまたま経験が有効に働いた結果なので、どうにもチートな気分である。


 それにしてもおかしいな。


 この世界は本当に仮想空間なのか?

 スキルがどうにもおかしいんだけど。

 ステータスに表記されているスキルとは別に使えるスキルがあるんだけどな。


 例えば……《身体情報ステータス開示オープン


 《サトシ=ヤマグチ》


 《情報は秘匿されています》


 どうしてこれが出るのかってのが問題だ。


 それとは別に……「ボティ・インフォ」


 名前 ダンマス レベル1

 職業 錬金術師

 ・

 ・

 ・

 名前にツッコミは無しにしてね。


 同一キャラネームはダメとか言われてさ、サトシじゃ無理だったんだ。

 だからつい……ま、まあ、今はそんな話がメインじゃなくてだな、両方のスキルが使える状態なのが変だと言っているんだ。


 これってただの仮想空間じゃ無いのかも知れない。


 事に因ると、この世界の何処かにオレの迷宮があったりして。

 だってさ、このゲームの名前に大陸教会の連中の旗印である、女神の名前があったんだ。

 偶然と思ってスルーしたけど、もしかしたらそうじゃなかったのかも知れない。


 ここは小国って事になっているから、他の国の事は図書館で調べないといけないが、生憎と入館料が払えない。

 なんで金貨1枚なんだよ。


 待てよ、元々のスキルが使えるとなると、もしかして収納空間も使えたりして。

 だとすると……いや、今は試さないでおこう。

 あんなものが使えたら、金の事とかどうでも良くなるからな。


 そんな事より、ここで通貨を調べてみたんだけど、どうにも怪しい。

 どうして収納空間に入れてある通貨と同じなんだよ。


 入っている硬貨もベイダ金貨だぞ。


 それはともかく、1円が1ベイダ相当の物価になっているらしく、鉄貨1枚って事になっているらしい。

 後は100進数で100ベイダが銅貨1枚、1万ベイダが銀貨1枚、100万ベイダが金貨1枚、1億ベイダが白金貨1枚らしい。

 そうしてお金はアイテムボックスの中では数字の羅列だけど、取り出す時には硬貨に変わるらしい。


 そして図書館だけど、保証金込みで金貨1枚になっていて、利用停止で返却されるらしい。


 つまりさ、利用している間はお金を預けた状態で、本を破損したりしたらそれで弁償するようになるらしい。

 だから大金である100万ベイダになっているのだという話だ。

 確かに無い袖は触れないと、突っぱねられたらどうしようもないわな。

 住民ならそのまま奴隷落ちになるにしても、到来者はそうはいかない。

 だからそういう決まりになっているんだと言っていた。


 よし、確保。


 図書館はパスしてギルドの資料室で薬草やら毒草やらの絵を確認して、こうして採取しまくっている。


 そう、確認なのだ。


 かつての世界でお馴染みの草の色々が描かれた資料を見て、再確認で終わってしまったのだ。

 なのでますます仮想空間への疑いが深まっていく。

 確かにここが異世界なら、床のきしみとかは当たり前に発生するだろうし、風の匂いとかも普通の事だ。

 町に戻りながら採取をして、門を潜って中心部に歩いていく。


 さっきから肉の焼けた匂いがするが、もう昼が近いのか。


 大気中に漂う匂いの粒子を仮想で再現するって大変な事じゃないのか。

 匂いの粒子が鼻腔に張り付き、脳に伝わって経験則から肉の焼けた匂いと判断する。

 リアルなら当たり前のような現象も、仮想で再現するには途轍もない科学力が必要にならないか。


 ああ、ダメだな。


 つらつらと考えているとますますゲームがつまらなくなる。

 この事は今は忘れていよう。

 それにしても、このゲームでの錬金術はちょっと性能が低いぞ。


 材料が無いと何もやれないのがこのゲームの錬金術だけど、オレの元来のはそうじゃない。

 無ければ創造すれば良いじゃないって感じになっているんだけど、それは別のスキルが関係している。

 なので複合効果な錬金術になっているので、元々の錬金術の性能が悪いと感じるのかも知れないが。


 よし、この際だ、元来のステータスを公開しよう。

 その代わり、ツッコミは無しで頼むぞ。


 ◇


 名前 サトシ=ヤマグチ

 職業 迷宮管理

 称号 人類の敵・狡猾クラーフティ・殲滅者デーバステーターいにしえの悪魔

 階級     814

 体力  185280

 魔力  687952

 迷宮 7886855pt

 術式

 《算術》《剣術》《棒術》《柔術》《盾術》

 《槍術》《馬術》《詐術》《装術》《惑術》

 《罠術》《潜術》《走術》《弓術》《投術》

 魔術

 《闇術》《水術》《火術》《土術》《風術》

 《呪術》《封術》《解術》《飛術》《付術》

 開放

 《迷宮創造術》《魔物創造術》《収納空間》

 《千里眼》《転移術》《催眠術》《改造術》

 《洗脳術》《不老術》《回復術》《錬金術》

 《異世界情報獲得権利取得》《万物創造術》

 性能

 《状態異常無効》《精神耐性》《気配察知》

 《体力回復向上》《魔力増大》《思考加速》

 加護

 邪神の加護(不老不死)

 闘神の加護(戦闘時は怪力・回復力増大)

 死神の加護(殺す程に強くなる)

 闇神の加護(夜は不死身)

 狐神の加護(獲得魂の備蓄・予備の命)


 ◇


 酷いもんだろ。


 1500年弱の集大成としても、これは酷すぎるよな。

 こんなのが人類の敵とか言っても、どうやって倒すんだよってなもんだ。

 恐らく竜の一族全てと戦っても、負けないような気がするぐらいだ。


 だからもし倒すなら、全世界全てとの戦いになるだろう。


 そこまで人族が纏まるなら可能かも知れないし、そうなったら全力での戦いになるだろうけど、恐らくそれは無理だろう。

 だって人族が纏まる為には差し迫った危険が必要になるからだが、オレはそんなのを作らないからな。

 そういう人族の特性は元人族の存在じゃないと窺い知れないところがあるようで、安易に侵略宣言してあっさりと討伐されている有様だ。


 そう言えば、かつて魔王が何度となく降臨していたんだけど、最近は出てないんだよ。

 恐らくオレが第一候補なのにおとなしいから、停滞しているんじゃないかと思うんだ。

 まあ、同類達にも魔王になったら討伐しに行くと通達しているしな。


 だから今のあの世界は、人族の争い以外は平和なもんだ。


 人族の争いは様式美みたいなもので、あるのが普通な状態だろう。

 もっとも、以前の大戦の時には、戦争反対を両国に告げたものの、無視されたから介入して双方の兵士を殺しまくってやったんだ。

 そうしたらその戦争は無しになったんだけど、あれで魔王認定されるかと思ったけどされなかったんだ。


 数万人も殺したのにな。


 戦場のど真ん中に迷宮出張所を設けて殲滅したから、迷宮に大量のポイントが入ったんだ。

 あれで他の奴らに少し言われたけど、戦争が嫌いだから介入したと言ってやったんだ。

 それから他の奴らがオレの真似をするようになり、でかい戦争なんかは無くなっている。


 大戦を起こしたら迷宮管理が介入に来る、ってのが世界の常識になったぐらいだ。


 しかもそれでいくら殺しても魔王認定されないとなれば、皆がやりたがる事になる。

 だから大きな戦争は無くなって、小競り合いぐらいで終わるようになったんだ。


 ◇


 毒薬完成。


 てかさ、これってどっちのスキルで完成したんだよ。


『※※※の※※※』


 材料・※※※の※※

 効能・※※※※※※※


『の』しか判らないぞ。


 仕方が無い……《解術……物品解析》


『紅天狗の猛毒薬』


 材料・紅天狗の肝茸

 効能・致死量微量

 対処・中級以上の解毒薬


 あれ、紅天狗の肝茸?


 そんなの採取してないぞ。

 ええと、使ったのは……


『紅色猛毒茸』


 おいおい、双方で名前が違うぞ。

 どっちが本当なんだ。

 まあいいや、ひとまず出来たから。


 けど、おかしいな。


『紅色猛毒茸』


 多量に摂取すると命に関わる茸。

 半日以内に解毒薬を飲めば、大抵は命を拾う。



 猛毒って割には効果がイマイチだよな。

 なのに致死量微量なんて強力な効果になるって事は、元のスキルが影響しやがったな。


 念の為に……《解術……物品解析》


『紅天狗の肝茸』


 紅色の傘を持つ猛毒の茸。

 紅天狗という名を持つ淡水魚の肝が猛毒と言われており、それに酷似の症状が出る事からその名が付いた。

 うっかり摂取した場合は速やかに中級以上の解毒剤を服用し、半日は安静にする必要がある。


 やけに詳しいぞ。


 それに、こちらの説明なら毒薬にしたから致死量微量も判らなくもないが、それでも効果がかなり増強されているように思う。

 もしかして、ゲームの錬金術師のつもりが、元来の錬金術師をやっているんじゃないだろうな。

 それはつまり、オレが作るアイテムはどれもこれもチートな代物になりはしないか?


 やべぇ、売れねぇ。

 

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