第七話 もう届いたの?
辻褄を合わせました。
期末テストは平均点に近いぐらいで何とか終わらせ、いよいよ夏休み到来も間近となる。
皆の話題はVRゲーム一色となり、クラスの連中でもかなりの人数が参加するらしい。
しかも、クラスメイトで集まってギルドを作るとか、そんな話も出ていたりするぐらいだ。
確かに来年になれば受験の色も濃くなるとなれば、じっくりと遊べるのは高2の今だけと言うのも判る話だ。
大学かぁ。
このままだと進学か就職に分かれるが、オレはどうすっかな。
どのみち就職など気にしなくても構わないが、世間体というものがある。
オレは良くても両親が困るとなれば、何かしらの道は決めないといけないだろう。
それとも開き直って地下探索業でもでっちあげるか。
実はあの廃ビルだけど、迷宮にした後で買い取ってある。
今は国の預かりになってしまってはいるが、所有権はオレにある。
向こうで言う冒険者ギルドみたいなのを拵え、探索要員を募集しても良いかも知れない。
どのみちオレの迷宮は、技能と知恵でクリアする代物だ。
モンスターとか、特に出さなければこの世界でもそこまでの騒ぎにはなるまい。
後は契約をしっかりして、自己責任を約束させれば良いだけだ。
怪我とかで訴えられたら厄介だからな。
それがやれるならリニューアルするんだが、現状ではあのままにするだけだ。
「おい、もうすぐだな」
「ああ、それでお前は戦闘職か」
「あれ、お前は違うのか」
「化合職にするんだけど、攻略掲示板に無いんだよな」
「ああ、それは止めとけ。調査以前の問題でよ、ありゃ研究者って話だぞ」
「やっぱりそうなのか」
「ああ、だからNPC専用職とまで言われているぐらいで、だから攻略掲示板には載らないんだ。どうしても知りたいなら、NPC職で調べてみな」
「別に戦闘職じゃなくても戦闘は出来るんだろ」
「そりゃ出来るけど、ジョブの補正が掛からないから、同じスキルでも弱くなるぞ」
「戦えるなら構わんさ」
「まあ、あれは検証以前の問題だったから盲点みたいになっている。だから誰かがやって欲しいとは思っていたんだ。お前がやってくれるならオレ達も多少の支援はするからな」
「それは助かるぞ」
「任せとけ」
◇
おかしいな。
家に戻ったらでかい荷物が届いていた。
まだ2週間来てないってのに、もう届くのかよ。
「荷物が届いているわよ」
「うん、抜群の寝心地な寝袋でさ、不眠症とかにも効くんだってさ」
「それ、良かったら母さんも買おうかしら」
「うーん、どうかな。あんまり安くはないんだけど」
「それなら買ったお金はどうしたの? 」
「うん? 稼いだよ」
「でも、アルバイトとかしてなかったわよね」
「体力作りをしてたじゃない」
「ちょっと、何をしたのよ。お母さんに言いなさい」
「僕が苛められていたのは知っているでしょ」
「あら、もしかして、やっつけたの? 」
「うん。それでお小遣い取られていたのを返してもらったんだ」
「アンタ、そこまで酷いならもっと早く言いなさいよ」
「それはダメだよ。親に頼ると向こうも親が出て来る。そうしたら勝てる? 絶対に勝てると思うなら言うけど、万が一負けたら家族揃って大変な事になる。父さんの仕事にも関係したりしたらどうするんだよ」
「そっかぁ、それで言えなかったのね」
「相手の家に押し掛けて、つらつらと取られた日時と金額を親に訴えてさ、相手も納得して返してくれたんだ」
「よく独りでやったわね」
「とにかく、だからそのお金で買ったんだ」
「いくら取られていたの? 」
「3年間のお小遣いとお年玉」
「まあ、そんなにも」
「郵便貯金そっくりやられたんだ。だからさ、相手の親にそれを訴えて、返してくれないなら弁護士と相談するって言ったらさ、穏便に済ませてくれるなら、色を付けて返すって言ってくれたんだ」
「まあまあ、アンタ、意外とやるわね」
「もし、大学に行くのなら、法学部って手もあるよね」
「あら、母さんは賛成よ」
「今年の夏休みは遊ぶけど、来年は受験かな」
「うんうん、頑張ってね」
◇
よーし、ゲーム機の話を誤魔化したぞ。
いくら欲しいからと言っても、849万9800円はそう簡単に買えないだろ。
前金予約で税金分が割引になったんだ。
だから額面通りの価格になったんだ。
本来はいくら業務用でも人気商品だから割引にはならないけど、前金だからと割り引いてくれたんだ。
さすがにでかい額だから、仕入れてクーリングオフとかされたら痛手だろうしな。
だからだろうとは思うが、こちらはお得だから文句無しと。
さーて、事前設定といきますか。
オープンまで後3日だし、準備しておいたらいきなり皆と一緒に始められる。
通信回線に接続してと、これに寝るんだな。
おっと服を脱がないと。
うお、ひんやりする。
今は夏だから涼しいぐらいだが、これは真冬はクレームが付くぞ。
まあ、冷たさは感じるが、それでどうこうなる身体じゃないが。
ええと、起動ボタンを押した後は音声認識でいけるのか。
しかしこれ、寝袋と言うよりは寝袋生地の服って感じだな。
手とか足とか分かれているし。
あれっ、保温とかあるのか。
まあそうだよな。
いくらなんでもそれぐらいはやってるか。
環境設定でやれるんだな。
場所と日時で自動になってるな。
マニュアルもやれるのか。
もしかして、我慢大会やれたり。
おっと、もうじきか。
《起動を確認しました》
お、始まったな。
《ザカーリャス・アナザーワールド・オンラインがインストールされています。実行しますか? 》
「はい」
《判りました。しばらくお待ちください》
おおお、会話になっているよ。
《遥かな神代の時代。人と動物達は仲良く暮らしていました。しかし、その平穏な世界も終わりを告げたのです》
オープニングってやつか。
そういうのも必要かも知れんが、それって公式に出ているよな。
「スキップ」
《了解しました。しばらくお待ちください》
何だか眠くなりそうなBGMだけど、オレには効かないぞ。
それとも眠らないと始まらないのか?
仕方が無いな。
《呪術……状態系スキル停止》
ああ、眠気が来た。
《それではお楽しみください》
ああ、やっぱり、必要、だった、んだな。
◇
「こんにちわ」
「うえっ、眠ったのに起きているって変な感じ」
「くすくす、皆さんそう仰いますね」
「そうなんだ。ああ、こんにちわ」
「はい、こんにちわ。わたくし、進行役のNPCでメアリと申します」
「はい、どうぞよろしく」
「ではまず最初にステータスを決めましょう」
「事前データがあるんだけど」
「そうでしたか。では確認します……確認しました。適用しますね」
「お願いします」
目の前にあったマネキンがオレそっくりになっていく。
「あら、リアルスタイルなのね」
「はい、それでお願いします」
「判りました」
髪が長くなって……銀色に……うげ、これは、ちょっと拙い予感。
だけど、今更ってのも面倒だし。
まあ良いか。
けど、リアルでもこんな髪の色と長さにしたらそうなるって事か。
だとしたら変装のバリエーションも広がるな。
うん、参考になった。
それから始まる体力テストだったが、結果はとても人には言えない内容となった。
「それでは正式オープンまでの間、チュートリアル空間で過ごしますか? 」
「はい、お願いします」
「モンスターを倒しても経験値や熟練度は入りませんが、ゲームの雰囲気をそこで味わってください」
「判りました」
スルーしてくれてありがとう。
さすがに人外なステータスを言及されたら、そのままログアウトしてゲーム削除しないといけないと思っていたんだ。
頼むからこのままずっとスルーしといてくれよ。
余計な揉め事は嫌いなんだ。
そりゃ素体倉庫の在庫が増えるのはありがたいが、世間を騒がすのは趣味じゃないんでな。
◇
今はゲーム外。
あれからチュートリアル空間で身体を色々動かしてみた。
リアルとの誤差は申告すると少しずつ修正され、気にならないぐらいになったんだ。
そうして後は正式オープンまで、暇なら来て構わないと言われ、ひとまずはログアウトしたんだ。
経験にならなくても薬草とか毒草を直接見るのは有効だし、モンスターの姿も見ておきたかったしね。
だけど、皆とはやっぱり違うんだ。
皆には知性があるけど、ここのモンスターは本当に魔物って感じでさ、目に知性の光など欠片も無いんだよ。
だから、もしかすると、殺せるかも知れないんだ。
◇
正式サービス開始まではチュートリアル空間で慣らし、本サービスでは当日にログインするだけだ。。
しかし、あいつら、オレが判るかな。
まさか髪の色と長さであんなに変わるとは思わなかったぞ。