第六話 面白いのかな?
どうやら夏休みの最初にオープンする、VRMMOがあるらしい。
かつてのオレも興味は持っていたが、さすがに高いのでそうそうおねだりも出来ず、かと言って小遣いを貯めようにも脅し取られていた関係でどうにもならず、泣く泣く諦めていた代物だった。
タイトル名が少し気になるところだが、やるのは別に構わない。
だけど、あの手のゲームはモンスターを倒すのが基本だよな。
例え別だとしても、配下に似た存在を殺すような代物、本当ならあんまりやりたくは無い。
だけど、折角誘われたんだし、出来ればモンスターと戦わない方向で、単にゲーム世界を楽しむだけなら構わない。
どのみち付き合いのようなものだし、参加してみますかね。
そうと決まればゲーム機を買わないと。
◇
「汎用で18万6000円となっています」
「思ったより高いな」
「本格的な業務用からすれば、まだ安いほうだと思いますよ」
「そいつはいくらだ」
「注文になりますが、850万円ぐらいですね」
「そいつはそれだけあればゲームが出来るのか」
「はい。汎用ならば別にPCが必要であり、通信機器も必要になりますが、業務用にはそれらが内蔵され、通信回線に繋げばその日から使用可能になっています」
「大きさはどれぐらいだ。あんまり大きいと部屋に入らん」
「ご検討されますので? 」
「ああ、予算的には余裕だ」
「大きさは寝袋ぐらいですね」
「なら、棺おけに入るような感じか」
「うっ、そうですね。そう言われればそんな感じになるかも知れませんが、理想的な身体保持機能と心地良い寝心地、それに鮮明な環境が売りになっていますので、ご満足頂けると思います」
「そうか、なら前金で発注しとこう」
「前金で宜しいので? 」
「ああ、構わんよ」
「ありがとうございます。早速、契約のほうに」
◇
親には内緒で勝ったゲーム機。
荷物が届く時には寝袋と言うつもりだ。
実際に心地良い寝心地と言っていたんだから間違いじゃあるまい。
サンプルを見たが、確かに寝袋に機械がくっ付いているような造りだった。
どうやらあれに素裸で入るらしい。
そうして全身の様子をセンサーが感じ取り、よりリアルな体験が出来るようになっているとか。
そういや取り外して丸洗いが必要と言っていたが、あれを持って風呂に入って洗うぐらいしかやれまい。
だが、果たしてオレの身体能力を把握出来るかな。
届くまでの2週間が長いが、数日遅れでの参加でも構うまい。
あいつにはそう伝えておいたから、その日が来れば連絡すれば良いだけだ。
そういや事前設定とか言っていたな。
公式サイトを見てみると、確かにそんなのがある。
ええと、種族の設定か。
無いなぁ、ダンジョンマスターってのは。
なら、人族でいくしかあるまい。
次は職業か。
生産職でやりたいが、戦わないとレベルが上がらないと困るな。
とは言え、モンスターは殺したくないぞ。
となるとPKオンリーになっちまうが、そうなると生産職も厳しいか。
PKKをやるしかないか。
ううむ、錬金術が無いぞ。
いや、それらしき職はあるんだけど、上位職になっている。
物質と物質の混合を扱う職として、化合職とか言うのがあるが、どうにも字面がファンタジーじゃないな。
しかもそれでどんな製品が作れるかとか書いてない。
下手をすると単なる研究者の可能性もあり、そうなると金が稼げないぞ。
仕方が無い。
メインは化合職にして、サブを調理師にするか。
そうして料理で金を稼いで研究に没頭すれば良いな。
次はステータスの話か。
ええと、ノーマルスタイルとリアルスタイルか。
ああ、体力に自信が無い奴はノーマルスタイルで汎用の身体能力を持った身体が使えるって事か。
そして自信がある者は自らの身体能力を反映させられるってシステムか。
オレは後者だな。
この場合、仮想空間での体力測定がやれるのか。
それに合わせて……ああ、これ、オレ用だ。
業務用に限ると書いてある。
まあそうだよな。
汎用で身体能力とか調べようが無いもんな。
全身サーチの業務用じゃないと、どうやって調べるんだって話になる。
まさか脳波なんかで全身の身体能力が把握など出来まいし。
そもそも脳波ってのは脳の活動に際して出る信号のようなものであって、言わば機械から出る作動音のようなものだ。
作動音を聞いて機械の性能を知るとか、どんなマシンオタクだよ。
精々が不具合で音が変わって気付くぐらいが関の山だろう。
しかも、機械なら型式にも限りがあるが、人間は千差万別、多種多様だぞ。
数十億のサンプルでも無い限り、全ての人間を把握など出来まい。
そんなに簡単にやれるなら、とっくに脳波識別とかやっているはずだ。
それ専用の帽子とかでさ、身分証明は脳波でバッチリって、空想小説だな。
しかも脳波は変動するものだ。
そんな不確かな代物で個人特定とか無理に決まっている。
そんな複雑な癖に不確かな方式を採用するより、素直に汎用ってのは正解だろう。
その点から言うと、業務用が高いのはその全身サーチの分だろう。
だから個人特定なんかには使えなくても、筋力の変動で脳波に変動が起きるとすれば、それがそいつの筋力値になる。
そういうのをつらつらとやれば確かに、仮想空間での体力測定で把握も出来そうだな。
さてと。
ステータスはリアルスタイルを採用と。
後は見た目の問題か。
リアルバレを防ぐ為に、なるべく変えましょうってか。
そうだなぁ。
まあ、別に変えなくても構わないが、推奨するのなら何かを変えるか。
戦いに邪魔だからと短髪にしているが、ゲームだから長髪にしてみるか。
まあ、後ろで結わえるようにすれば動くのに邪魔にはならんだろうし。
リアルの場合、脳筋管理との遊び(殺り合い)では、髪を掴まれて負けた事があって以来、短髪にしているんだよな。
ゲーム内でそんな激しい戦いになるとも思えないから、長髪で決まりだな。
後は髪の色をパールシルバーにしてみるか。
艶々の髪とかちょっと面白そうだし。
ゲームだから洗髪の必要も無いだろうし、恐らくトイレの必要も無いのだろう。
そういうところはダンジョンマスターに似ているな。
ええと、次はスキルか。
初期に10種選んで、後は行動で獲得する場合と指南書で獲得する場合と、弟子入りで獲得する場合があるのか。
それはともかく、10種か……そうだなぁ。
まずは化合に必要なスキルとなると《物質化合》《化合知識》《ガラス工》《採掘》これでいけるか。
次に調理のほうが《調理技能》《調理知識》《植物知識》《採取》これでいけるな。
後2つは何にするかな。
PKKをやるなら《投擲》は欲しいし、毒があれば楽に倒せるから《調薬》も欲しいな。
どのみち腰掛けだから暗殺技術なんかは不要だろう。
人の殺し方など熟知なオレだし、経験から何とかなるだろう。
これで決まりかな。
これで研究者をやりながら料理で金を稼ぎ、足りなければPKKで稼ぐってスタイルになる。
他にも欲しいスキルはあるが、適当にやっていれば覚えるだろうし、ダメなら指南書とか弟子入りすれば良い。
足りない知識は図書館とかで調べれば何とかなるだろうし、ギルドにも情報があるかも知れない。
まあ、やってみれば判る事だ。
さて、後はログインしての体力測定で全てが決まるな。
ええと、検証結果は……と。
STR 筋力値・力の強さ・攻撃力、アイテムボックスの重量制限に影響する。
VIT 体力値・体力や気力、防御力に影響を及ぼす。
DEF 防御力・守りの強さ・VITと装備の防御力によって決まる。
AGI 素早さ・走る速さや行動の機敏さに影響する。
DEX 器用度・生産や武器の取り扱い、命中に影響する。
INT 知力値・魔力の量や魔法の強さに影響する。
MND 精神力・状態異常の効き具合や、魔力の回復度合いに影響する。
LUK 幸運値・ドロップ率や生産の成功率などに影響する。
公式より詳しいのがありがたいな。
特にアイテムボックスの重量制限とか、全然振らなかったら荷物が碌に持てないって事だよな。
魔法職とか、知らないとヤバいんじゃないのかな。
それぐらい公式に書いておいてくれよな。
もっとも、知ってどうなるもんでもないけどな。
まさか殴りマジとかやる訳にも……あれっ、STRが低いと杖も持てねぇのかよ。
それで魔法職でもSTRが必要って事になっているんだな。
そりゃ細い魔法専用の杖なら持てるみたいだけど、打撃武器にも使えるような杖は無理っぽい。
後衛職には必須の、自己防衛に必要なんだな。
まあなぁ、序盤の雑魚に殺られる後衛職とか、情けないにも程があるしな。
仲間集めて威勢良く戦いに向かう途中、バックアタックで肝心の回復職が即死とか、やる気も何も失せちまうだろう。
だからその為の用心として、必要なんだろうな。
◇
友人には注文済みなのを話し、少し遅れてのログインになると伝える。
「確かに人気あるから中々買えないよな」
「そうそう、僕も抽選にやっと受かって手に入れたんだ」
「けどよ、高いよな、ゲーム機」
「ああ、オレなんて今後の小遣いの先払いと、お年玉合わせて頼んだんだ」
「つまり今後、お年玉も小遣いも無しか」
「いや、小遣い半額になって、お年玉は没収だ」
「そこまでして欲しいものかよ」
「やってみれば判るさ」
段々待ち遠しくなってきたぞ。
だけど、化合職の詳細、攻略掲示板に無いんだよな。
それが気になっているんだ。
ちゃんと検証してよ、βテスター達。
それにしてもゲームって買い辛いのか?
オレの場合はゲーム機にインストール済みって言われたけどな。
他のいくつかのゲームも使用登録すればそのままやれるって聞いたけど、汎用は毎回買わないといけないのか。
優先インストール特約もあるし、やっぱり業務用にして正解だったな。




