幕間一 あれっ、本人じゃないよね?
3大国会談より抜粋。
────────前略────────
なれば新たな施設はおぬしらの国が作ってくれるんじゃろうの。
ええ、作りますよ。
もちろんじゃが、入場料など取ってはならんし、何かしら獲得させねばならんぞ。
いや、さすがにそれは。
現行の迷宮はタダで入れ、皆は何かしら獲得して出て来おる。
そのような施設を作らねば、あれを潰す許可は出せぬ。
それでは野放しにしろと言われるか。
相手は人類の敵ですぞ。
そのような建前は良い。
現実的にどうすべきかを問うておるのじゃ。
まさかとは思うが、倒すだけ倒して後は知らぬ振りではなかろうの。
あれの恩恵で新米冒険者共がどれだけ助かっておるか、おぬしらも知らぬ訳ではあるまい。
それは……確かにそれはありますが、だからと言って放置は。
じゃから具体案を述べよと申しておる。
何事も理想だけではメシは食えぬでの。
せめて運営に必要なだけの資金を得るぐらいは。
あれらがどうやって運営しておるのかは知らぬが、あそこだけは別物じゃよ。
中にモンスターなど殆ど居らぬと言うし、罠も致死の物は無いと聞く。
じゃから新米共や盗賊連中の修練の場として、世界中から集まっておるのじゃろうが。
なればせめて入街税ぐらいは。
そのようなもの、あの町が取っておるかの。
しかし、それでは運営が出来ませぬ。
そのような事は知らぬよ。
おぬしらの国があの迷宮を潰したいと申したのであろう。
なればあれに代わる施設を用意するのは当然であろう。
じゃからそれをどうするのかを問うておるのじゃ。
まあまあ待ちなさい。
そのような頭ごなしに否定しなくても。
ほお、なれば代案があると申されるか。
どのみち、施設の周囲には町が出来るのでしょう。
ならば商人共から税を得れば良いのですよ。
それに土地も高く売れますし、賃貸なれば日銭には困りません。
そうやって施設を運営すれば問題無いのではありませんか?
ほお、それなら確かにやれようの。
では、許可を頂けますね。
では次に、倒す算段じゃ。
まさかとは思うが、迷宮管理を放置して、コアが潰せると思うておるのではあるまいな。
もちろん、ダンジョンマスターは倒しますよ。
ではその方策はどうするのじゃ。
それは、我が国の機密に属しますので、詳しい事は話せませんが、ほぼ確実な線だと思われます。
ほお、体力が10万もある化け物を殺す方策があるとは凄いのぅ。
んなっ、そ、そんな。
ワシらの国はの、あそこには関わらぬ約定を交わしておる。
それと言うのもワシらの国のトップ冒険者があやつと相対して腑抜けになってしもうたのでな、これ以上は無理と判断したのじゃ。
一体、どんな事があったのですか。
人類の敵との約定など、人類に対する裏切りですよ。
敵対すれば国が無くなると思えば、そのような建前などでは左右されぬ。
やりたいのなればおぬしらで勝手にやるが宜しかろう。
ワシらの国は手を出さぬ。
一体、何があったのです。
あやつがの、殺せると思うなればと申すのでな、件の冒険者が自慢の武器で最大のスキルを用いてあやつを斬ろうとしたのじゃ。
そうしたらの、その武器が砕けての。
挙句、100ばかり体力が削られた、中々やるなと申したのじゃ。
それを聞いた彼奴はそのまま腑抜けとなりおったのじゃ。
まさかそんな化け物とは。
それではもう邪神の類ではないですか。
じゃから手は出さぬと申しておる。
あれに手を出す事は亡国を望むに等しいとな。
ならばわたくしの国も約定を交わさねば。
しかし、相手は人類の敵ですよ。
なればおぬしの国だけでやれば良かろう。
ワシらは関わり無いと使者を出しておくのでな、思う存分やれば宜しかろう。
そ、そんな、単独では。
ならば諦めい。
人には届かぬ高みという物があるものと知れぃ。
それが国を治める者の務めじゃぞ。
代替わりしたばかりで実績が欲しいのは判るが、それで国を危うくしては何にもならぬ。
わ、判り、ました。
さて、なれば次の議題に移ろうかの。
────────後略────────
後日談。
結局、どういった物だったのですか。
何、大した代物では無かったわい。
竜族との協定での、助力が得られたからと申しておった。
それは凄いですが、その程度では到底。
しかもじゃ、竜族の長に聞いてみれば、そのような話は知らぬと申された。
恐らく、竜族の若い連中を焚きつけた結果であろう。
それで、長ならば倒せると?
いや、長とて無理と申しておった。
一族の存亡を賭けて尚、届かぬかも知れぬとな。
そこまでの化け物だったとは。
聞けば千年より長き時を過ごしておるらしいの。
そうなればもう、どうしようもあるまいよ。
我らの祖先の怠慢なのですね。
うむ、若き折に何とかしておれば、このような事にはなっておるまい。
じゃがそれを責めてもどうにもならぬ。
なればなるようにするしかあるまい。
そうですね。
それよりも件の小国が不穏じゃ。
勇者召還保有国ですか。
うむ、あればかりは迂闊に手は出せぬが、じゃからと言うて放置もならぬ。
実に厄介な国じゃ。
まさか、またぞろ。
そのまさかになりそうじゃ。
ワシとしては余計な刺激など困るのじゃが、どうにも止めようが無い有様。
せめて関わり無いと使者を出しておるが、何処までになるのかは判らぬ。
なればわたくしも使者を出さねば。
うむ、それが宜しかろう。
「おぬしがあの迷宮の主と聞いたが」
「ええ、そうですよ」
「大胆じゃの」
「そうですかね」
「自信があるのじゃな」
「別に殺せると思うなら殺しても構いませんよ」
「その言、違えまいの」
「こちらは手を出しません。さあ、どうぞ」
「エルストよ、やれるかの」
「お任せを……ぬぅぅぅぅぅぅ……ファイナル・クラッシュっっっ」
バキャッ……
「あああ、我が剣がぁぁぁ」
「ほお、100程削れたぞ。凄いな、お前」
「とんでもないのぅ。それで体力はどれぐらいあるのじゃ」
「10万ぐらいかな」
「ううむ、そこまでなるか」
「相互不可侵の約定、欲しいよね」
「宜しいかの」
「うん、オレも戦争とか嫌いだし」
「なれば頼みまする」
「決まりだね」
(コンタの自動防衛を抜くとは大したもんだ)
(あるじ、ちょっと痛かった)
(ごめんな)
(いいよ、でも、あんまりああいうのは)
(もうしないさ)
(ならいいんだ)
(今日は寒いが、首は暖かいぞ)
(じゃあこのままで)
(頼むな)
(うんっ)
とある場所で。
正樹:終わりました。
神様:ご苦労様。では本題の依頼場所に送りますね。
正樹:判りました。