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【15・束縛が嫌いな人は逃げるのがお好き】

 ベルダネウス達は数ブロック離れると人の少ないところを見つけて着地。そのままサークラー教会に向かった。

「予定変更だ。このまま出発する。衛士隊に捕まる前にダロンリグンを出るぞ」

 足が痛むのでルーラの背負わされたままベルダネウスが支持する。

「ジュリオネさんは? 来るのを待つの」

「彼女は頭が良い。私たちがすぐに出ると考えて急いでくるさ」

「来なかったら?」

「置いていく。ぐずぐずして衛士隊に捕まったら面倒だ」

 わかっている風に答えながら、足の痛みに顔をしかめる。かなり痛むのか顔を歪め、脂汗をびっしょりかいている。

「ダンナ、キツそうだな。治癒魔導かけようか。500ディルで」

「治癒魔導は出発してからで良い。それと200ディルだ」

「350で!」

「300だ!」

「さっき助けた分も含めて400!」

 値段交渉する2人に、ルーラは苦笑いしつつ走る。ファルトのポケットから顔を出したジェムも呆れている。

 サークラー教会につくとそのまま駐馬車場、自分たちの馬車へと向かう。

「ルーラ、グラッシェを連れてきてくれ……いや待て!」

 馬小屋に行きかけたルーラが足を止める。

「……鍵を開けた跡がある」

 車両の裏側、扉が閉まり鍵がかかっている。が、その鍵穴についたわずかな傷跡を彼は見逃さなかった。

 念のため扉の正面とはズレた位置にファルトとルーラを待機させ、ベルダネウスは鍵を開けると、勢いよく扉を開けた。同時にルーラが光の精霊に頼んで車両内を照らしてもらい、ファルトが中からの攻撃に備えて扉の前に魔壁を張る。

 が、車両の中には誰もいなかった。念のためファルトがジェムに車両内を走らせ、誰か隠れていたり妙な仕掛けがされていないか確かめる。

「用事はすませた後らしいな、ダンナ」

「中を調べる。ルーラ、グラッシェを連れてこい。ファルト、周囲に気をつけろ」

 足の痛みを堪えて車両の中に這いずり込むと、中の荷物を確かめる。

「ダンナ、無くなっているものは?」

「無くなったものはないが……あるはずのないものがあった」

 荷物の陰に隠されるように押し込んであった革袋を取り出した。中を床に開けるといくつもの宝石が転がり出る。

「ジーロが盗んだことになっている宝石かな?」

 予想していたのか、ファルトの言葉に驚きはない。

「だろうな」ベルダネウスは宝石の1つをつまみ「……このキズ物は覚えがある。私が先日売ったものに似たものがあった」

「ダンナがジーロである証拠ってやつか。どうする、衛士隊に持っていくか?」

「まさか。迷惑料としてもらっておこう」

 宝石を袋に戻すベルダネウスに向けてファルトが手を出してくる。

「口止め料と治癒魔導代だ」

 ベルダネウスも仕方がないといくつか彼の手に乗せた。どれも傷のない良品だ。それを見たファルトが顔をしかめ

「出来れば現金の方が良いんだけど」

「贅沢言うな。換金手数料ぐらい自分で出せ」

 グラッシェを連れてきたルーラがそのまま車両につなぐ。物音を聞きつけた教会の従業員が2人やってきた。

「こんな時間に出発ですか?」

「急な事態でして」

 お詫びしつつ教会を出る手続を済ませる。夜中にすみませんと2人に酒代を握らせるのも忘れない。

 足の痛むベルダネウスはファルトと共に中に入り、御者台にはルーラが座った。

「ダンナ、治癒魔導は?」

「町を出てからで良い。衛士達に捕まったとき、私が寝ているのは不味い」

 治癒魔導をかけられると、身体が治癒に専念するため、かけられた方は治癒が完了するか治癒魔導自体の効果が無くなるまでほぼ強制的に眠りにつく。足の痛み具合から見て、短くても、4~5時間は眠ることになるだろう。

 グラッシェに引かれて馬車が動き出したとき

「待ちなさーい!」

 大きなボストンバッグを抱えてジュリオネが走ってきた。持てるものは全部持ってきたのだろう。バッグはパンパンに膨らみ、まだ夏の名残が残るというのに、真冬のように何枚も重ね着してめちゃくちゃ暑そうだ。

 馬車を止め、後ろの扉を開けるとバッグを放り込み、続いて自分も入り込む。

「やっぱり来ましたね。お待ちしていました」

「嘘つくんじゃ無いわよ。出発しようとしていたくせに」

 たまらず着ていた服を次々脱いでいく。やっと一息つくと、けだるそうなベルダネウスを見て

「何か具合悪そうね。どっか怪我したの?」

「大したことじゃありません。町を出たら治癒魔導をかけてもらって一休みしますよ」

 再び馬車が走り出す。近くを走る野次馬達が

「またマウス・ジーロが出たってよ」

「またパリック・ハウスだとさ」

「続けて同じとこなんて、何があったんだ?」

 喚きながらパリック・ハウスの方に走っていく。

「この調子じゃ、もうしばらく騒ぎが続くな。逃げるにはちょうど良い」

「衛士には悪いけどね。現場にいた証人がそろって逃げ出すんだから。思いっきり怪しまれるわよ」

「仕方ないでしょう。捕まって事情聴取なんてことになったら、下手すれば数日は足止めです」

「そうね。あんた、盗品も扱っているらしいしね。ブランが言ってたよ」

「向こうの勝手な思い込みですよ」ベルダネウスはしらばっくれて「けれどそれをあっさり信じてくれるとは思えない。そんな危険を冒してまで衛士に協力する義理はありません。あなたもそうでしょう」

「まあね」

 ジュリオネも笑って

「事情聴取に付き合わされちゃ、オーディションに間に合わないわ。ま、衛士も一緒に捕まっていたし、あいつがあたし達の分まで説明してくれるわよ。まさか犯人でもないのに指名手配はしないでしょ」

 その時、馬車が通り過ぎた路地から数人の衛士を引き連れたクロッツェルが飛び出し、

「急げ。あいつらが逃げ出す前に確保するんだ」

 サークラー教会に向かって走っていく。

 その後ろ姿を馬車の中から見送りながら

「さすが、私たちの動きをわかってますね」

「ちょっと遅かったけどね」

 微笑むジュリオネを横目に

「急げ。出入り口を封鎖される前にここを出るんだ」

「了解」

 ルーラが手綱を振るうとグラッシェの足が速くなる。

 それから5分後、ベルダネウスたちの馬車はダロンリグンの門を通過した。

「グラッシェを走らせろ。ダロンリグンの管轄外に出るまでだ! ファルト、灯りだ!」

 ファルトが照明魔導を灯し、ルーラがグラッシェを急がせる。道が悪くなって揺れが激しくなる。たまらずジュリオネが馬車の縁を掴み

「ちょっと、もう門は出たんだから少しゆっくりしても」

「こんな時間に門を出る馬車なんて限られる。クロッツェルならすぐに追っ手を出してくる」

 照明魔導は追っ手にとって良い目印になるから出来れば使いたくないが、月明かりだけで走らせ事故を起こしでもしたらお終いだ。

「もう少しだ」

「ちょっと、あれ追っ手じゃない?!」

 ジュリオネが指さす先、夜空に浮かぶひとつの光点がまっすぐこちらに向かって飛んでくる。飛行魔導で飛んで来る魔導師。光点は杖の魔玉が魔導の発動を受け発光しているものだ。

「ルーラ、灯りを頼む」

 ファルトが照明魔導を消した。かわりにルーラが光の精霊に頼んで周囲を照らしてもらう。

「そこの馬車、止まれ。衛士隊だ!」

 飛んでくる魔導師が叫ぶ。

「止まれって言っているけれど?」

 ジュリオネの言葉にファルトは首を傾げ

「そうか、俺には聞こえねえけど」

「私にも聞こえないな。ルーラ、何か聞こえるか?」

「あたしも聞こえなーい」

 しれっととぼける3人にジュリオネは笑いを堪え

「そうか。じゃあ私の空耳だ」

「聞こえないのか。マウス・ジーロの一件で聞きたいことがある。止まれ! これは衛士隊の命令だ!」

 声を張り上げながら飛んでくる魔導師。それが突然、何かにぶつかったようにはじき返され、地面を転がった。

 ファルトの顔が緩む。そう、衛士の飛ぶコースを推測して魔壁を張ったのだ。

「何、今の?」

 魔壁のことを知らないジュリオネが目をぱちくりさせる。

「さぁ、木の枝にでもぶつかったんじゃないのか。夜道は気をつけないと」

 ベルダネウスがしらばっくれるのと同時に、彼らの馬車はダロンリグンの管轄境界線を示す赤い杭を通り過ぎた。



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