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春に奏でる  作者: よっち
1/5

階段下の怪異 1


 トン、トン、トン、木の床に扇子を打ち、拍をとる。静かな空間に床を叩く音が響く。

「そうだ、上手いぞ。」

僕は褒められたのが嬉しくてにぱ〜と笑いながら続けて踊る。

「そうだ。足を踏み下ろせ。」

トン、と足を踏み下ろす。途端に体がゾクゾクした何かに満たされる。

「そのまま手を上へと振り上げろ。反対の手は横に持ち上げろ。」

重い腕を持ち上げて片方は頭上へと、もう片方は床と平行になる様に横へ。途端に先程まで体を満たしていたゾクゾクする何かが手を通して放出された。

「そうだ。なかなか上手いぞ。」

男は女性と見紛う程美麗な顔をニヤッと歪ませ笑う。

(綺麗だなぁ〜。)

僕はたまに遊んでくれる綺麗なお兄さんを喜ばせたくて続けて踊る。

「おい、そろそろ止めた方がいんじゃないか?」

汗がポタポタ流れ落ちるのをそのままに、

「大丈夫!見ててね!」

先程教えられた踊りに自分で拍をとって踊る。綺麗なお兄さんが呆れた様に、でも嬉しそうに今度は綺麗に笑った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……ピピ…ピピ…ピピ…

枕元で鳴っているアラームを止めるとのそりと起き上がり、寝ぼけた頭で窓辺まで歩きカーテンを開け

「今日も良い天気だなぁ……。」

朝の空気を入れるために窓を開けた。


季節は5月。過ごしやすい爽やかな季節だがここ数年、温暖化の影響なのか暑い日が続いている。

(まぁ、湿気がないだけ良いか…。)

梅雨に入ると更に湿度が増し不快指数がぐんと増していく。それを思うと今からうんざりする。


(それにしても懐かしい夢を見たなぁ…。)


小さい頃母に連れられて母の実家である神社によく遊びに行っていた。そこの神社に行くと不思議なもので全く眠くならない為、母から昼寝の時間だと言われると抜け出してこっそり1人で境内やお庭を探検していた。その時によく遊んでくれたお兄さんがいた。綺麗なお兄さんで、最初お姉さんと間違えたら持っていた扇子で頭をパコンと殴られた。綺麗だけど乱暴者で口の悪いお兄さんだった。でも遊びに付き合ってくれたりとそのお兄さんに会うのが楽しみで大好きだった。

(いつからかパッタリと会えなくなったけどまた会えたら良いなぁ…。)

今でも定期的に母の実家である神社には行き手伝いをしている。母や叔父は神社への就職を望んでいるようだが、まだまだ高校生1年生、進路は未定である。



 5月になり、新しい高校にもクラスメイトにも慣れて少しずつ溶け込めてきた所だ。奏多は人見知りの上、引っ込み思案だ。昔は物怖じせず誰にでも話しかける子供だったらしいが、ある出来事がきっかけですっかり人と話すのが怖くなってしまった。

(また嘘つきだとか言われないようにしなきゃ…)

そう思えば思う程、口は固く重く開かなくなってしまった。

(大丈夫。新しい環境だ。俺の噂を知ってるやつなんかそうそう居ないはずだ。今度こそ上手くやるんだ。)




 学校へ着くと教室へ。しかし引っ込み思案である奏多はクラスの人気者の様に皆に笑顔で挨拶なんか出来ない。かろうじて入り口近くのクラスメイトにペコリと頭を下げ、席の周りの顔見知りになったクラスメイトにはおはようと挨拶する程度だ。

(朝の試練はクリアしたぞ。後は昼か…。)

重い溜息を隠しつつ席に着いた。



教室の前の方、クラスメイトの中でも派手な見た目で交友関係が広い、明らかにカースト上位な集団から急な叫び声があがる。

キャアキャアと周りの派手めな女子達が「怖い〜」等と騒いでいる。

(何かあったのかな?)

何となく話す人もいないので聞き耳を立てていると、この学校の怪談話のようだ。どこの学校にもあるありふれた七不思議。ただし、その内の1つ、校舎の裏手にある物置として使われている2階建てのプレハブ。そこの階段の登り口。そこの空気が異様なのだと…。

曰く、肩が重くなるだの、頭が痛くなるだの、挙句の果てには幽霊を見たという噂まである。

(なんだ…、あそこの話か…。あそこには絶対に近寄らないから俺には関係ない。)

俺は危ない所には近づかないと決めているのだ。

それにあそこにいるのは幽霊ではない。触手のように有象無象に沸き上がる何十年何百年と溜め込まれた悪意だ。人格などとっくの昔になくなっている。

しかし危険な訳ではない。奏多達が存在している次元と違う次元。同じ様で違う、違う様で同じ。違う次元でも、ふとした時、例えば逢魔ヶ刻と言われる様な一瞬、次元が交差する時がある。そんな時に敏感な人が何かしらを感じたのだろう。何も刺激しなければ何も問題ない、奏多はそう判断していた。



 昼休み、席の近くのクラスメイトと共に弁当を食べる。当初、ぼっちだったらどうしよう…、と心配していた俺だったが声をかけてくれた優しき男がいた。隣の席の智輝君。その男の好意にありがたく乗せてもらって、それからは智輝とその友達達と共に食べていた。男子高校生の話題と言ったら誰々が可愛いだの誰それと誰それが付き合っただの…。奏多は名前と顔が一致せず聞き役に回っていた。

その時ふと、

「そう言えば、例のプレハブの七不思議。慎吾達が肝試しするって騒いでたな。」

「うわっ!悪趣味〜!俺そういうの苦手!」

「大丈夫だ、誘われねぇよ!きっとあの人気者達で行ってキャッキャするんだろうよ!」

吐き捨てるように大貴がもてない男の言いそうな事を言う。

「奏多は?ああいう話は大丈夫な方?」

「ガチで危ない所なら止めた方が良いけど学校の七不思議なんて大抵その場の思い込みじゃない?楽しければ仲も深まって良いんじゃないかなぁ。」

後半実感を込めて言う。

(俺も皆と仲良くなりたい…。)

「あぁ…、奏多らしいな。」

皆が笑って受け入れてくれた事にホッとする。

そのまま話題は部活の事に移っていった。




 週が明けて月曜日。今日も緊張しながら挨拶をして席に着く。

(今日も上手く溶け込めたかかなぁ…。)

周りを見ると笑っているので大丈夫なのだろうとホッしていると、教室の中に暗い雰囲気の集団がいる。クラスでも人気の奴らだ。その中でもリーダー格の慎吾を中心に顔を引き攣らせボソボソと何か話している。

(何かあったのかなぁ…?)

よく見るといつも一緒にいる女子の1人が休みなようだ。

奏多が話かけられるわけもなく、聞き耳を立てても聞こえないので、(まあ、いいか…)と智輝に話しかけられて興味を反らした。



 昼、弁当を食べていると大貴が、

「あいつら、肝試ししたらしいぜ。土曜日の夜に忍び込んでプレハブに行ったらしい。」

「マジか…!良くやるよな…。」

「あぁ、でもそれで話は終わらない。今日響子が休んでるだろ?当てられたって話だ。」

「マジで!?」

「あぁ、急に悲鳴をあげて暴れたってさ。慎吾達が押さえて宥めて帰ってきたけど、一緒に行った女子達は泣いたり頭が痛いだのパニックになって凄かったらしいぞ。」

「はぁ〜…、あるんだな、そういう事。」

「それ以来、響子の様子がおかしいらしい。家でも泣き喚いたり、家を抜け出そうとしたり…。んで、慎吾達に何があったのかって、家とか学校とか巻き込んでこっそり大騒ぎになってるらしい。」

「何だよ、こっそり大騒ぎって……。」

脱力したように智輝が机に突っ伏す。

「まぁ、でも…、女の子だし、そういう噂が広がると戻って来づらいだろうからあんまり大きな声で言わないほうが良さそうだな。」

こういう所が智輝の尊敬出来る所だ。そういう智輝に助けられた俺にとって彼女が無事に戻って来るのを智輝の言う通り静かに待とうと思う。



 あれから1週間経ってもその女生徒は学校を休んでいる。日に日に慎吾達の様子がおかしくなってきた。ある者は言葉少なめに、ある者は空騒ぎする様に空虚な笑い声をあげては眉を潜められている。その中の1人、瞳と呼ばれている女子の様子が明らかにおかしい。何かに怯えるように後ろを気にしている。

(何か拾ったのかな…?俺には感じ取れないけどなぁ…。でも…、何だろう、あれ…。)

奏多には瞳に絡みついている細い糸の様な物がみえた。

(怪異の元には見えないけどなぁ…?)

もしもあのプレハブの悪意だとしたらもっとドロドロと腐臭を放ちすぐに気づくはずだ。

(でも俺には関係ない。俺は平和に生きていくんだから。)



そんな奏多の決意を無にするように智輝が弁当を食べながら口を開く。

「なぁ…、ちょっと俺達でプレハブ見に行かねぇか?」

大貴も他の友達も弁当を食べるのを忘れてポカンと智輝を見る。もちろん奏多もだ。

「……、お前、何言ってんの?見ただろ?あいつらの顔!シャレにならねぇよ!」

他の奴らも、

「今回は止めておこうぜ。ホント、ヤバいよ。」

「でも何があったのか気にならねぇ?それに、何かしら解決したらあの子達もまた学校楽しく来れるかも知れないだろ?」

「何、お前、響子か瞳か好きなの?」

ニヤッとからかうように大貴が言うと、

「いや、俺、他校に彼女いるし。」

「おいっ!聞いてねぇぞ!何だそれ!裏切り者かよ!」

皆がプレハブの話題から離れたいのか大貴に乗っかる。

「そうだぞ!羨ましいぞ!」

「どうりでお前なんか余裕あるもんな!この裏切り者め!」

「けしからん!罰として俺たちにも出会いを!」

「可愛い子を紹介しやがれ!」

俺は紹介されても話せる自信がないので黙って皆を見守っていると智輝が、

「なぁ、奏多、お前も止めたほうが良いと思うのか?」

いきなり名指しされてびっくりするが、

「うん。止めた方が良いよ。もしも本当に何かあったら?智輝が、大貴が、悠も翔太にも何かあった俺嫌だよ。俺、このままずっとお前達と笑っていたい。」

皆がしんとして俺を見る。

あれ?何が恥ずかしい事言ったかも…?

急に恥ずかしくなって慌てて付け加える。

「それに彼女さんの為にも。危ない事はやらない方が良い。智輝に何かあったら彼女さん悲しむよ。」

顔が赤くなってきたのを自覚しながら、下を向いて顔を隠して言い募る。

「きっと本当にオカルト的な何かがあったのなら俺達じゃ役立たずだよ。専門家に任せるしかない。」

後半、ドキドキしながら、

(変な事言ってないよな?!普通の事だよな?!)

皆に引かれてないかチラッと伺うように見る。

「…そうだよ。奏多の言う通りだ。皆でずっと高校生活楽しく行こうぜ!」

智樹も、

「そうだな、変な事言って悪かったな。つうか、あの子達を建前に俺達5人で何か楽しい事がやりたかったんだ。でも、そうだよな。楽しい事は他にもたくさんあるからそれを皆でやろうぜ。」


その後はいつもの様に笑いながら、奏多は聞き役に回りながら昼休みが終わった。


この時俺は関わる気は全くなかったんだ。

この中の誰かが巻き込まれない限りは…。




 あれから数日たった。響子は学校を休んでいる。最近瞳も学校を休むようになった。クラスメイトの異変に皆が何かしら感じているが鉛を飲み込んだように誰もが彼女達の名前を口にしない。


そんな日が日常になりつつあるある日、智樹の顔色が悪い。朝に心配して声をかけるも何でもないと言いはるが、頻繁に携帯を見ている。

皆で顔を合わせて頷く。そして昼休み、誰も来ないような階段の踊り場に智輝を無理矢理連れ出した。

「おい、何があった?言え!」

「そうだぞ、俺達には言えない事か?」

智輝は暫く黙ったまま携帯を見てから、

「……付き合っている彼女が…、最近おかしいんだ…。瞳と同じだ。後ろを怖がるんだ。最近ずっと誰かに見られてるって…。もちろん誰も見ていないのは確認した。部屋で2人でいる時もずっと怖い怖いって震えてるんだ…。」

「………、お前もしかして…、あそこに行ったのか?」

智輝は青い顔をして首を振る。

「あそこには行ってない。そもそも皆で行けば良い思い出になるかな、位の気持ちだったからな。お前達と一緒じゃなきゃ行っても無駄だ。」

「お、お前!いきなりデレるなよ!」

ひとしきり、皆で照れていると、智輝の持っている携帯が震えた。

ラインを見ると、”もう無理“”限界“”怖い“”助けて“と何度も入っている。


「…一度会わせてもらえないかな……。」

言ってしまった…。もう後戻りは出来ない…。

「どういう事だ?奏多、何か出来るのか?」

「…母の実家が神社なんだ。俺達が見てどうにも出来ない時はそっちに頼もう。」

「それはお祓いとかか?」

「あぁ。気休めかもしれないが気分が落ち着くかもしれない。」

嘘だ。叔父さんの力は本物で祓いや清めを求めて県の内外から救いを求めて人が来る。

「もしかして奏多も出来るのか?」

気味悪がられるかもしれないと、緊張する。目を合わせることが出来ずに下を向いたまま、

「…俺は…、まだまだだよ…。」


昔の記憶が蘇る。気持ち悪いと遠巻きにされた記憶。嘘つきだと笑われた記憶。困ったように笑う大人。異物を排除しようと物を投げつける友達だと思っていた子供達…。


突然、肩をガシッと掴まれる。

「ありがとう!ありがとう!頼む!あいつを助けてやってくれ!」

智輝が真剣に、何処かホッとしたように言う。大貴も悠も翔太もポカンとした後、俺の肩を叩いて、「やるじゃん。」

「早速今日行く?」

「俺達も行って良いんだよな?」

皆の顔に嫌悪や疑いの色が見えない事に安心して深く息を吐いた。




 放課後、皆で智輝の彼女さんの家に行く事になった。いきなりであちらの家族も戸惑っていたが神社の家系だと知って受け入れてくれた。

(俺は神社の家系じゃないんだけどな…。)

嘘をついた様な後ろめたさがありつつ、彼女さんの家へ向かう途中、変な物に気が付いた。

(あれ?あの糸…。瞳さんにもあったような…?)

あの時、俺が見た時には彼女の手首に黒い糸が絡まっていた。それ自体に悪意はなかったように感じたが、智輝が案内する途中から同じ様に黒い糸が道の先に続いていた。嫌な予感がして気が逸り、早足で糸を辿っていく。後ろから智輝達が呼ぶ声がする。


糸が辿り着いた先には一件の白い家があった。

後ろから追ってきた智輝が青い顔で、

「どういう事だ?奏多、俺の彼女の家…、知ってた訳じゃないよな…?」

「…多分…、ガチ目に神社案件かもしれない…。」

皆の顔が一斉に引きつった。



チャイムを鳴らすと彼女さんのお母さんらしき人が疲れた顔でドアを開けてくれた。

「智輝君、いらっしゃい。いつもありがとうね。」

「おばさん、急にごめんね。綾は変わらず?」

「えぇ、怖がって泣いてるわ。」

おばさんは途方に暮れた顔で俺達にも入るように促した。

家に入ると、智輝はすぐに彼女さんの部屋へ。俺達は下で出されたお茶を飲みながら待っていた。


家には不穏な空気はない。彼女さん、綾さんをピンポイントで狙ったものだ。


暫くすると、智輝と一緒に綾が下りてきた。酷く怯えて顔色が悪い。碌に寝れていないのだろう。

綾さんを真ん中に右におばさん、左に智輝が座る。

その前に座って綾さんを見る。

やはり右手首に黒い糸が絡みついている。

俺はカバンからルーズリーフを何枚か取り出しカッターで正方形へ。1枚は人形に、他の数枚で鶴を折る。人型に綾さんのフルネームを書き、右手首に擦り付けてもらう。その後息を深く吹きかけてもらう。

簡易的な身代わりだ。

智輝に窓を開けるように頼み鶴の腹をを膨らませるために息を吹き入れる。すると、息を入れた鶴がスーと滑るようにゆっくりと窓から飛び立っていく。


一連の作業を皆がポカンとして見ている。

「おいおい…、今の何だよ!なんで折り鶴が空を飛ぶんだよ!」

「…奏多、説明を頼む。」

すると綾さんが、

「すごい…、あんなに怖かったのに今は大丈夫。もう見られてない!怖くない!」

泣き出した綾さんの肩を智輝がそっと抱き寄せた。



少しして綾さんも落ち着いたので、今回の事を説明する事にした。っと言っても今回は対処療法で俺には何も分かっていないんだけど…。


人形に綾さんの身代わりをさせた事、黒い糸が絡み付いていた事、鶴がその元を辿っている事、今はそれしか分からない事。


「奏多、お前…」

皆が戸惑っているのか分かる。気持ち悪いと思われたか……。皆の俺を見る目が変わったのを見るのが怖くて下を向く。

隠し通しておけば良かったのか?智輝の彼女さんを見捨てて?そうすれば今まで通り受け入れられただろうなぁ…。でも…、友達が困っているのを見捨てられない…。


ぐるぐると思考回路がスパイラルに下へ下へと落ちていく。


「お前…、凄えじゃん!!俺、感動した!お前、格好良いじゃん!!」

大貴が俺の肩をバンバン叩きながら大きな声で言うと、他の奴らも、

「だな!俺、初めてああいうの見た!すっげぇ!」

「あぁ、お前格好良かったぞ!」

智輝が静かに俺を見て、

「奏多、本当にありがとう。お前、本当はその力隠しておきたかったんじゃないか?それを、俺達のためにありがとうな。」

綾さんとお母さんと一緒に頭を下げてくれた。

俺は慌てて、

「まだ!まだだから!まだ何も解決してないから!これからだから!」

頭を上げてもらう。


皆が変わらなくてホッとした。まだ俺は受け入れて貰えるんだ…。

下を向いて湿った目を隠した。



一周回って落ち着いた所で今後の方針を立ててみた。まずは綾さんはお祓いに行く事。俺がやったのは応急処置で、いつ身代わりの人形が壊れるか分からない。ルーズリーフから手作りしたやつだからな。今は人形が身代わりになってくれているが壊れた途端、再び綾さんに糸が絡まり元通りだ。正式な人形で守られた方が良いだろうと話すと、明日にでも叔父の神社へ行く事になった。

問題は糸の元だ。パッと糸の元にたどり着けば良いのだが、なんせこれも元はただのルーズリーフ、そんなに力はないのだ。明日か明後日あたりにでも、のんびりたどり着くんじゃないかなぁ…。


「この糸は燃やせないのか?」

「燃やせない事はない。でもそれをすると元となっている人間に何倍もの報いとして返ってしまう。下手をすると命を取られるかもしれない。悪意を持って意図的にやっている様には見えないんだ。

それに…、この糸が瞳さんにも絡み付いていたのを見たんだ。」

「…どういう事だ…?」

「分からない…。瞳さんが関係してるのか、また別なのか…。」

そこで、ハッとしたように綾さんが、

「待って!瞳って阿部瞳ちゃんの事?」

「知ってるのか?」

智輝が強く綾さんに聞き返す。

「同中。最近も帰り道ばったり会ってちょっと話したよ。体調悪そうだったから心配してたんだ。」

「すいません、どんな話をしたか教えてもらえますか?」

「え〜と…、確か…、新しい高校どう?とか彼氏出来た?とか…。」

「……もしかして、綾さん、彼氏いて幸せだとか言った?」

「うん。幸せだもん。」

「………。」

「………。」

「………。」

「………。」

「…おい、そこ…、何ニヤけてんだよ!そういうのは2人の時にやってくれよ!」


大貴の叫びに俺と悠と翔太は心の中で心からの喝采を送った。



 明日、神社に行く約束をして俺達は心に傷を抱えて、智輝達と別れて帰った。


 帰り…、皆…、無言だった…。



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