性同一性障がい
「こんなところにやって来る人はいないのですか? 禁断の愛。禁断の果実。それをしたことがない人は逆に少ないんですよ。胸に秘めているだけで……みんなやりたいんです。だからもっといっぱい愛を語り合いましょう!」
アキヤは手を広げ、空を仰ぐ。
誰もいないので好き放題やっているのだ。
「虚しいです……」
がっくりと項垂れるアキヤ。
暇を持て余しすぎて、仕事をする気が起きないらしい。
今日はもう来ないかと思われたその時、一人の男性がやって来た。
「エクスキューズミー」
「これはこれは……アメリカンな方ですね。日本語は話せますか?」
「オーケー。ニホンゴ、ハナセルゥ」
「テンションが微妙に高い方です。どうぞ、座ってください」
「センキュゥ」
アキヤは洗礼の儀式を執り行う。
「今ここで汝の罪は洗い流されることになろう」
「ムツカッシイ……」
古き良き日本語がわからないアメリカ人女性は、眉根を寄せた。
「そこは泣いて喜ぶ場面ですよ。ありがとうと」
アキヤはそう言って、クスクスと笑った。
「ヒトワラウ。ヨクナイ」
「ふふ。日本語は難しいでしょう」
アメリカ人に咎められても、アキヤは特に気に留めることなく笑い続けた。
アメリカ人の話はさして長くもなく、意外にも簡潔にまとまっていた。
言葉はいまいちだが、話し上手であったのだ。
「あなたのお名前、教えてください」
「マルク・シーザー」
「わかりました。私はアキヤです。では、マルクさん。また何かあれば来てくださいね」
「ワカタ。アリガァ、トゥ」
マルクは両手をぶんぶん振って、投げキッスをしてから去っていった。アキヤは思わず苦笑い。
「……マルクって……女性の名前?」
アキヤの疑問は正しかったようで、のちに連絡して話を聞いてみれば、マルクは元々男性だったようだ。
自身のことを女性と信じて疑わなかったと言っていた。
しかし恋愛対象は女性だそうだ。
女装をして女性らしくしているだけで。
それらの情報で、ぴんと来た。
「なるほど。性同一性障がい……ですね?」
アキヤはそれから長々と持論を語る。
「しかし、障がいという言葉はおかしなものですね。現代では、受け入れる姿勢が増えてきましたよ? それでもまだ障がいという言葉が残っているとなると……。誰かに迷惑をかけているわけではないではありませんか。少なからず私はそう思いますけれどね」
アキヤはそう言いながら自室に行った。
「今日のお話はちょっと危ないですね。昔ならば戦争になってしまうかもしれませんよ」
ドアを開いて、アキヤは間を置いた。
「白人と呼ばれた人と……黒人と呼ばれた人の……愛なんですからね」




