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【連載版】死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!  作者: 柚希乃愁
第四章

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及第点の結果

「さ、入りましょう?」

 セレナリーゼの足取りは弾むように軽やかだった。

 久しぶりのデートが楽しいというのはもちろんだが、道中でレオナルドがシドとザンクという友達の話を楽しそうにしてくれたことが嬉しかったのだ。

 悔しいことだが、貴族子弟の多くがレオナルドのことをどう思っているか、セレナリーゼにもわかっているから。

 でも実際はこのとおり。

 レオナルドが学園生活を楽しめているようで、セレナリーゼの心はポカポカと温かくなっていた。


「ああ、わかったよ」

 レオナルドはセレナリーゼに柔らかな笑みで応える。

 セレナリーゼが自分の学園生活を心配していたなんて知らないレオナルドだが、レオナルドもレオナルドでセレナリーゼの学園生活を心配していた。

 しかも、その最大の要因が自分の存在というのを何とも情けなく思っていた。

 だが、道中で、フレイやシルヴィアと親しくなれたこと、特にフレイとはたくさん話をするようになったと聞き、ほっと安堵したのだ。


 互いが自分のことよりも相手のことを考える、何とも似た者同士な二人であった。



 店内に入り、セレナリーゼが店員に名前を伝えると、予約をしていたのだろうか、すごく丁寧な接客でそのまま二階のテラス席―――間隔を大きく空けてテーブル数も室内より圧倒的に少ない、に案内され、席に着く。


 店内は上品で落ち着いた内装で、人気店なのだろう、一階も二階も、一定間隔で並ぶテーブル席はほとんど埋まっており、女性客が多い。中には学園の生徒もいた。


「ここは最近できたお店なのですが、昔、レオ兄様が言っていた栗を使ったケーキがあるんですよ」

 この世界に栗の木はある、というかクルームハイト公爵領では商業目的の栽培が行われているのだが、主な用途が建築や家具に使う木材としてだった。

 栗の実は、常温保存が難しい関係で栽培地域周辺でしか食べられておらず、だからか、簡単な調理法くらいしか知られていなかったのだ。

 これを知ったとき、レオナルドは勿体ないと思った。

 前世で一番好きなケーキがモンブランだったこともあり、栗のケーキがあったらなぁといった話を昔フェーリスとセレナリーゼの前でポロリとこぼしたことがあったのだ。


「え!?マジで?」

 驚きに目を見開くレオナルド。


「はい。ミレーネといいお店を探していたとき、偶然見つけたんです」

 このような店を見つけてくれたセレナリーゼ達はもちろんすごいが、店主のことも素直にすごいとレオナルドは思った。

 ただでさえ高価な少なくとも冷蔵保存ができる魔道具、しかもそれの大容量版でもなければどれだけ美味しいものを作れても王都の店として成立しないだろうから。

 顔も知らぬ店主の並々ならぬ熱意を感じた気がした。


「マジかぁ。めちゃくちゃ楽しみだな。ありがとう、セレナ。でも栗のケーキなんて俺も忘れてたのによく覚えてたな?」

「当然です!レオ兄様の好みを忘れる訳がありません!」

「はは、そっか。本当にありがとうな、セレナ」

 自分ですら忘れていたことなのに、まさかそれを覚えていてくれたなんて……。

 セレナリーゼの想いが照れ臭いやら嬉しいやらで何とも言えない気持ちになり、レオナルドは照れ笑いを浮かべながらお礼を言うことしかできなかった。


 実はこのお店には裏事情がある。

 出資者はムージェスト王国のとある公爵家。主導したのは公爵夫人なのだとか。

 つまりは、まあそういうことだ。

 そして、それがようやく形となり、子供のことをよくわかっている公爵夫人が密かに侍女へとお店のことを伝えていたのだ。


 当然、二人の子供達はその事実を知らない。そしてこれからもわざわざ教えられることはないだろう。



 それから、レオナルドはコーヒーをセレナリーゼは紅茶をそれぞれ注文した。


 そして飲み物と一緒に運ばれてきたのは、正しく前世知識にあるモンブランだった。

 それも、見た目はその当時流行っていた生搾りモンブランそっくりだ。

 レオナルドの期待値は否が応でも上がる。


「レオ兄様、お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう、セレナ」


 セレナリーゼのお祝いの言葉で、早速二人は栗のケーキを食べ始める。

 幾重にも重なったクリームは口の中でほどけ、しっとり滑らかとしており、栗の優しい甘みと香りが口中に広がった。

 控えめに言ってもめちゃくちゃおいしかった。


 二人して、感想を言い合いながら食べ進めていく。


 すると、その途中でのこと。

「本当はフレイさんのように自分で作りたかったのですが、ケーキは難しくて……」

 ケーキを食べていたら思い出してしまったのか、口角は上がっているが、眉尻が下がっている。

 本気で残念そうだ。

「いや、すごく嬉しいよ。まさか栗のケーキが食べられるなんて思ってなかったからさ」

「ありがとうございます」

「セレナさえよければさ、また別の機会に作ってくれないか?セレナが今まで作ってくれたの全部おいしかったし、俺はセレナの手作りケーキ食べてみたいなって」

「は、はい!任せてください!」

 控えめだったセレナリーゼの笑顔がぱあっと明るくなった。

 つられてレオナルドも笑顔になる。


「ありがとう。楽しみにしてるよ。ってか、フレイが俺の誕生日を知ってたのってやっぱりセレナが?」

「あ、はい。勝手に教えてしまってすみません……。ちょっと悩み事があって、それが顔に出てしまっていたのか、フレイさんが気にかけてくれまして。そのときに成り行きで……」

「なるほど?まあ、昼休みに突然来たからちょっとびっくりしただけで、謝る必要なんてないよ。それよりその悩み事はもういいのか?」

「はい。そちらは大丈夫です!」


 そんな会話を挟みつつ、二人は楽しくケーキを食べ終えた。


 今はそれぞれコーヒーと紅茶を飲んでいる。


 落ち着いた雰囲気だが、セレナリーゼの緊張感は最高潮に高まっていた。

 セレナリーゼにとってはこれからが本番だからだ。


 セレナリーゼが誕生日プレゼントを袋から取り出す。

 この誕生日プレゼント、買ったのは直前の休日だったりする。

 それまでどうしようかずっと悩んでいて、先週末そんな自分の態度を気にかけてくれたフレイに声をかけられた際に、レオナルドの誕生日が近いと話すことになったのだ。

 だが結果として、このときのフレイとのやり取りがセレナリーゼに決断させた。

 ただ、準備期間もほとんどなかったはずなのに、まさかフレイが手作りケーキを作ってくるとは思いもしなかったが。


 セレナリーゼは緊張を逃がすように一つ息を吐く。

「レオ兄様、これを。気に入っていただけたらいいのですが……」

「ありがとう。開けてもいいか?」

「はい」


 レオナルドがプレゼントの包装を丁寧な手つきで開けていく。

 その様子をセレナリーゼは緊張した面持ちで見つめていた。

 そうして箱を開けると、中に入っていたのは、銀製の懐中時計だった。

「っ!?」

 レオナルドがそれを見て息を呑む。

(これは……。いや、でも、そんな……だって……)

『どうしましたか、レオ?銀時計(それ)が何か?』

 レオナルドの混乱の大きさを感じたステラが尋ねる。

(……ステラ。………これは、銀の懐中時計は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ)

『なるほど?ですが、何をそんなに驚いているのですか?それとも、ゲームと同じだから嬉しくないのですか?』

(嬉しいよ。嬉しいに決まってるだろ。ただ……ゲームでセレナは独白してるんだよ。懐中時計にこめられた意味を……。これは、アレクに対して変わらぬ想い、永遠の愛を誓ったものなんだ)

『ああ、なるほど。そういうことですか』

 レオナルドの受けた衝撃に対し、なぜかステラの反応はひどくあっさりしたものだった。

(それをなぜ俺に?今のセレナは意味を知らない、のか?単に俺へのプレゼントを探してるときに目についただけ?)

『……はぁ。本当にそう思っているのですか?だとすれば、少々幻滅ですね』

(でも……、俺とセレナは兄妹なんだぞ?)

『ですが、血の繋がりはない、ですよね?』

(セレナがそれを今の時点で知ってるはずがない)

『本当にそうでしょうか?本人に聞いてみたらいいのでは?』

(そんなことできる訳ないだろう!?)

『そうですか……。まあ、私には関係ありませんが』

(…………)


 万が一セレナリーゼが知らなかったら自分から今の関係を壊してしまうことになる。だからこちらから確認することなんてできるはずがない。

 だって、これまでセレナリーゼは妹なのだと、妹として愛するのだと、()()()思ってきたのだ。

 それに本当にただの贈り物という可能性だってある。というか、その可能性の方が実際高い。

 下手にゲーム知識があるせいで、変な意識をしてしまっているだけだ。

 ……けれど、もし今後セレナリーゼから打ち明けられたら?

 そのとき、自分は……。


 これまで自身の死を回避する、そのことを最優先にしてきたレオナルド。

 自分の恋愛なんて考えてもいなかった、……いや、考えないようにしてきた。

 しかし、この日より、レオナルドは自分の気持ちと向き合っていくことになる。

 そしてそれは、セレナリーゼに対してだけではない。


「セレナ、ありがとう……。本当に嬉しいよ。絶対に、ずっと大切にする」

 宝物を扱うように、銀時計を手に取って微笑むレオナルド。

 嬉しい気持ちは本当だから。


「気に入っていただけたならよかったです」

 セレナリーゼは安堵の息を吐いた。


 彼女は、懐中時計を贈る()()をちゃんとわかっている。

 というか、理解した上でレオナルドへのプレゼントをこれに決めた。

 自分はレオナルドに愛してもらえている。その実感はある。でもそれはあくまで家族として、だ。それもわかっていた。

 レオナルドが自分と同じ気持ちだなんて思い上がっている訳ではない。

 けれど……、これから頑張っていきたいから、少なくとも自分のことを一人の女の子として見てほしい。意識してほしい。

 そんな想いがこめられていた。


 レオナルドの様子を窺うが、意味に気づいているかは正直わからなかった。

 銀時計をそっと手に取って、しばらくの間、微笑みながら優しい手つきでその表面をなぞっていただけだったから。


 でも、レオナルドがその意味に気づかなくても問題はない。

 なぜなら、これから直接言葉で伝えるのだから。

 自分が直前で逃げてしまわないように、ミレーネにも今日伝えると宣言してきた。


 幼いとき、誘拐犯からレオナルドが助けてくれたあの日から、自分達に血の繋がりがないとすでに知っていたこと。

 そして、レオナルドのことを―――。


 心臓の音がバクバクとうるさい。

 そのまま爆発してしまうのではないかというくらいだ。

 顔も熱くなっているのがわかる。


「レオ兄様、今日は私から少しお話したいことがあるんです。聞いてくれますか?」

「っ、どうした?あらたまって」

 セレナリーゼの緊張感がこちらにまで伝わってきて、直前の思考もあり、今後、などではなく今なのかと、つい考えてしまったレオナルドの表情が硬くなる。


「昔、私が攫われたときのことを覚えていますか?あのとき、レオ兄様が助けてくれましたよね」

「ん?ああ、そんなこともあったな」

「実はあのとき……、私、途中まで意識があったんです」

「うん。……ん?」

「そこで私は知りました。私とレオ兄様に血の繋がりがないことを」

「なっ!?」

「お父様にも確認して、真実だとわかって……。ふふっ、お父様はどうしてレオ兄様が知っているんだってひどく驚いていました」

 セレナリーゼの話はある意味予想していたとおりだったが、予想外過ぎて、レオナルドは固まったまま言葉を発することができない。

 だって。それはつまり……。ここでもゲームと違う展開になったのは……。


(俺のせいってことじゃねえかああああ!!!!?)

『案の定、レオが原因でしたね』

 ステラの呆れたと言わんばかりの声が頭の中に響く。

「当時は私も戸惑いましたが、今ではあのとき知ることができて良かったと思っているんです」

「え……?」

「だって……、だって私は……」

 いよいよセレナリーゼが今日一番の勇気を振り絞って伝えようとしたまさにそのとき―――、


「おや?おやおや?知った顔がいるかと思えばやっぱり!こんなところで会うなんて奇遇だね~」

 間の抜けた声がテラス席に響いた。


「「っ!?」」

 聞き覚えのあるその声に肩をビクッと反応させたレオナルドが顔を向ける。

 それに倣ってセレナリーゼも顔を向けた。


「はあ……。なんでこの人は……」

 そこにいたのは、ニヤニヤ笑いのアリシアと頭に手をやって首を振るヘスティだった。

 ずかずかと無遠慮に近づいてくるアリシア。

 その後を渋々といった様子でヘスティが続く。


「なんだ、セレナリーゼと一緒だったのかい?キミ達は本当に仲が良いんだね」

「なんでここにアリシア先生とヘスティが?」

(アリシア!?ヘスティ!?)

 二人を名前呼びするレオナルドに驚愕するセレナリーゼ。


「最近流行っていると耳にしたからね。レオは今日研修室に来れないと言っていたし、せっかくだからヘスティを誘って来てみたんだよ。私は甘いものも大好きだからね。ただ、そこでレオがセレナリーゼとデートしているとは思ってもいなかったけどね?」

「まったく……いい迷惑だ。私がこんなところに付き合わされたのはお前のせいだぞ、レオ」

「な、なるほど……?」

(レ、レオ!?)

 二人がレオと呼ぶことにも驚愕するセレナリーゼ。


 すでに、先ほどまで築かれていた空気感は見事に霧散してしまった。


「ん~~、しかしこうなってくるとセレナリーゼにも加わってほしくなってくるね」

 セレナリーゼをじろじろ見ながら、アリシアは何を考えているかわからないニヤニヤ笑いを浮かべている。しかし、その目は真剣そのものだった。


「え?わ、私、ですか?」

 アリシアの視線の強さにセレナリーゼは若干気圧されるが、

「ほら。そんな話はまた今度だ。今はケーキを食べにきたんだろ?行くぞ、アリシア」

 そこに、ヘスティが助けに入った。

「あ、ちょっと!?押すなよ、ヘスティ!押すなって!わかったから!」

「ふん。……邪魔をして悪かったな」


 こうしてアリシアとヘスティは嵐のようにやって来て、嵐のように去っていった。


 レオナルドとセレナリーゼは呆気に取られる。

 加えて、セレナリーゼの覚悟も決意も、この遭遇によりすでにガラガラと音を立てて崩れ去ってしまっていた。

 ただ、それを気にする余裕は今のセレナリーゼにはない。

 と言うか、もう訊かずにはいられなかった。

 いつの間にそんなに仲良くなったというのか。

 ついこの前は家名で呼んでいたはずだ。

 フレイだけでも危機感を抱いていたというのに、レオナルドの周囲にはどうしてこんなに魅力的な女性が次々現れるのだ。


「あの、レオ兄様?」

「え?っ、な、何?」

 レオナルドはセレナリーゼの顔を見た瞬間、肩を強張らせる。笑顔が怖い。

 これは、あれだ。逆らってはいけないときのセレナリーゼだ。

 レオナルドはこれまでの経験からそれを悟った。

 自分達に血の繋がりがないことを互いが知っているという事実がいきなり判明して、もう少しその件を話したいとか、セレナリーゼが続けようとした話は何だったのかとか、話したいことは色々とあったが、もうそれらについて話せる雰囲気ではなかった。

 というか、セレナリーゼに今ここで続きを話す気がもうない気がする。


 その後、セレナリーゼから、ヘスティとアリシアに関して、そして研究の手伝いをしているとわかるとその詳細についての質問が延々と続くこととなった。

 そして、そんなセレナリーゼに若干気圧されながらもレオナルドが答える内容をセレナリーゼはずっとニコニコしながら聴いていた。

(いずれはフレイさんも参加するなんて……。私も何とか研究のお手伝いに加われたらいいのですが。幸いワーヘイツ先生は私のことを嫌がってる訳ではないようですし……)

 内心でそんなことを考えながら。


 こうして、全体的に見れば、楽しい時間を過ごした二人。

 セレナリーゼとしては大本命の話をできなかった悔しさが残ったが、伝えたかった半分は伝えられたため、及第点だということにしたのだった。

お読みくださりありがとうございます。

ご満足いただけない読者様もいらっしゃるかもしれませんが、レオナルドの誕生日イベントにおけるセレナリーゼのターンはこのような結果となりました。

そして、次は皆様予想どおりかもしれませんが、年上お姉さんの登場です。

彼女のターンもお楽しみいただけたら幸いですm(__)m


面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!

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モチベーションがとんでもなく上がります!

何卒よろしくお願い致しますm(__)m

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恋愛に関しては早目に決意表明したほうが、読者(俺)にとっては方向性が分かりやすい。認知させたから、セレナはこれからかな 義妹じゃなく一人の女性として見てね!もあるが、公爵家としては息子と義娘で婚姻すれ…
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