最終話 俺と下種さんのゲスい関係
舞台はデートの日の夕方の喫茶店『フロント・オブ・ザ・サン』。
そこで下種牧舞が出会う人物とは……?
視点が道貞から変わります。
最終話、どうぞお楽しみください。、
カフェ『フロント・オブ・ザ・サン』の二階席。
その一番奥で、俺は携帯の画面を見ながら落ち着かない腰をもぞもぞと動かした。
「お待たせ」
「!」
顔を上げるとトレーを持った下種さんの姿。
その表情は嬉しそうな笑顔に満ちていた。
「ど、どうだった……?」
「バッチリよ」
そう言うと下種さんは、携帯の画面を見せてきた。
そこには千重里が首の後ろを撮る姿が写っていた。
「私が小学校の時の思い出を語った後、首筋を見つめて動揺したフリをしたらあっさり。知恵が回る分行動が読みやすくて助かるわ」
「そ、それは良かったね……」
親友の滑稽な姿に、安堵と共に申し訳ない気持ちが湧き上がる。
千重里、お前はその瞬間何を思ったんだ?
もし黒子があったら付き合うつもりがあったのか?
でもそんなものは幻なんだ……。
だって下種さんは……。
「……そこまで上手くいったら、もう満足じゃないか? そろそろ終わりにしても……」
「まだ駄目。千重里君から告白してくるまで、智也君には協力してもらわないと。最後まで付き合ってくれないなら……、わかるわよね?」
「……!」
下種さんの言葉に喉が詰まる。
……でも、もうこれ以上は……!
「……俺、これ以上千重里に嘘をつきたくない……。前みたいに一緒に話したり遊びに行ったりして、親友に戻りたい……」
「だったら協力して。私との関係は内緒のまま、もっと煽って。千重里君が私と恋人らしい行動を望むように」
その言葉に、背筋を冷たいものが走る。
どれ程の感情が重なればここまでの執念になるんだろう……。
「……君の目的には協力するけど、こんな方法を取らなくたっていいじゃないか……。千重里を騙して、追い込んで……」
「千重里君の、女性に対する警戒心と猜疑心が強いと教えてくれたのは君じゃない。これくらいしないと見破られるわ。目的のためなら甘い事言っていられないのよ」
「……」
「それに智也君は、既に親友より欲望を優先したんじゃない。今更良い子ぶっても遅いと思わない?」
「……う……」
……すまない、千重里……。
俺は、最低だ……。
「そんな顔しないで。ここまで来たらもう時間の問題だから」
「ほ、本当か?」
「えぇ。今はハメられた怒りがあるけど、すぐにあの写真の黒子が偽物の可能性に気付くはず。となれば、ない弱みを探すより作る方にシフトする」
「そうなれば千重里が下種さんに告白してくる、と?」
「えぇ。私を惚れさせてマウントを取ろうとしてね。その時こそ目的達成の時……」
下種さんの顔がにたりと歪む!
「菅野ちゃんと四人でのダブルデートが実現するわ!」
多分俺も同じようなにやけ顔をしている事だろう。
下種さんに紹介してもらって付き合う事になった菅野慈代ちゃんの笑顔を思い浮かべると、千重里への罪悪感が薄れていく。
そうだよ! 経緯はわからないけど、ここまで策を練ってでも千重里と付き合いたいって言うんだから、付き合ったら幸せになれるって!
……若干ヤンデレかなと思う部分もあるけど……。
「月曜日、頬にキスしたように見える写メと、カラオケのデュエット、ボウリングのハイタッチ写メを見せてくるから、これまで通り疑いつつ煽ってね」
「……わかった」
俺と下種さんのゲスい関係は、まだ続くようだ……。
読了ありがとうございます。
ただれた関係だと思った? 残念! 若干重めの純愛でした!
そしてタイトル回収!
道貞の性格が捻くれたせいで、『下種さん』と呼ばなくなったので、途中まで途方に暮れていたのは内緒。
さてネタバラシも済んだところで、キャラ名紹介。
菅野慈代……カンノジヨ→彼女
安直なんて今に始まった事ではありません(開き直り)。
さてこの後、ゲスい思考を洗い流すべく、牧舞サイドからのサイドストーリーを展開しようと思います。
題して『下種さんの種明かし』。
https://ncode.syosetu.com/n8804hp/
どうぞそちらもよろしくお願いしたいところですが、反動で甘くなる可能性が高いので、お気をつけください。




