理由~大好きな人のために~
ドレニクが高らかにそう叫ぶと、床に書かれた魔法陣から眩いばかりの光が発せられ、思わず目を閉じた。
玄武の力を宿らせる……?そんなことが出来るのか?
「おおぉ……これは素晴らしい……!わしの研究は間違ってなかったか!この力があればカルマ様の復活にまた一歩近づけるぞ!!」
光が収まり目を開けると、そこにはなんだか一回り大きくなっているドニレクが立っていた。
感じられる威圧感と魔力が先ほどの比じゃないな……まじで玄武の力が宿ったのか!?
「うおっ!?こいつが玄武の力って奴か……悪くねえぜ!!」
それはレリスと対峙しているゴルマにも及んだようで、ただでさえ大柄だったのに玄武の力のせいかもはや巨漢と言って差し支えない大きさにまで膨れ上がっていた。
「こんだけ魔力が増加すりゃ……ミラージュ・ボディ!!」
分身魔法を唱えたゴルマが恐ろしいことに五体に増えた。
「なっ!?」
さすがのレリスもこれには驚愕の声を上げる。あれはさすがにレリスと言えどまずいな!
「エナ!ここは俺に任せてレリスのフォローに入ってくれ!あの状況はさすがにまずい!」
「でっでもシューイチさんはどうするんですか!?ドレニクだってさっきまでとは雲泥の差ですよ!?」
エナも驚きを隠せない表情で俺とレリスを交互に見ながらそう言った。
「いざという時のための手段はもう仕込んである!だから今はレリスのフォローに入ってくれ!!」
「……わかりました!」
最後まで納得いかない表情だったものの、結局エナは俺に背を向けてレリスの元へと駆け寄っていった。
「シュウ!うちらはどうしたらええ?」
「スチカはフリルとティアと一緒に転移でここから脱出してくれ!」
「逃がすと思っているのか?」
そう言ったドレニクの魔力が一瞬にして活性化し膨れ上がる。
「アンチ・ポータルフィールド!!」
俺たちのいる教会跡地一体が不気味な圧迫感のある魔力に包まれた。
「悪いが転移の力は封じさせてもらったぞ?これで小癪な真似は二度とできまい」
「余計なことしてくれるぜ……仕方ない!スチカはなるべく離れて、出来る限り二人を守ってやってくれ!」
「わかった!」
後はテレアだが……!
「ん?どうしたコランズよ?なぜ玄武の力を受け取らん?」
そのドレニクの言葉に反応し、テレアたちの方を見るとコランズには別段何か変化が起きてないように見える。
ドレニクの言う通り玄武の力を受け取るのを拒否したということなのか?
テレアも急な事態の変化に疑問符を浮かべながらも、警戒して構えを解かずコランズを見ている。
お互いの様子を見てみると、テレアもコランズも所々傷だらけになっており、互角の勝負をしていたのが見て取れる。
「―――ごめんなさいドレニクさん、僕は僕自身の力でこの子と決着を着けますから」
「玄武の力があればそんな小娘など一捻りだろうに……ふん、まあいい好きにするがいい」
ドレニクの言葉に一礼したコランズが、再びテレアに向き直る。
その様子をなんだか毒気を抜かれたような表情でテレアが見ていた。
「―――さあ続きを始めましょうか?」
「……えっとその前に聞いてもいいかな?テレアたちが戦う必要ってあるのかな?」
突然のテレアのその言葉にコランズが呆気に取れた表情をする。
「―――おかしなことを言いますね?さっきまで怒りに任せて拳を振るっていたというのに?」
「うん……それはフリルお姉ちゃんに酷いことした人たちだから……でもなんだか……えっと、コランズ君は違うような気がして」
そのままコランズをまっすぐ見据えたまま、テレアは言葉を続けていく。
「基本的に卑怯なことをしてこないし、常に正々堂々とテレアと戦おうとしてるから……」
「―――卑怯なことならしてますよ?あなたが攻撃できないように遠くから―――」
「でもそれって戦いにおいて当たり前のことだよね?テレアはそれを卑怯って言うのはちょっと違うと思うの……それに今だって玄武さんの力を受け取るのを拒否してるし」
「―――僕が僕自身の力であなたに勝ちたいと純粋に思っているからですよ?それって変なことなんですか?」
その言葉を聞いたテレアが完全に戦意を引っ込めて、拳を下げてしまった。
「やっぱりテレアたちが今こんなところで戦う必要なんてないよ」
「―――なぜ拳を下げるんですか?あなたは僕が憎くないんですか?」
「えっとね……コランズ君は何のために戦ってるのかな?」
テレアの問いかけを受けて、コランズの表情が固まった。
「―――何のため?僕は世界の平和のために戦ってます。あなたを倒すことでこの世界はまた一歩平和に近づくんですよ?」
「テレアのことを殺したくないって言ったのに?」
「―――だってあなたは正々堂々だから殺したくありません」
なんだろう、コランズの言うことがだんだん矛盾してきているような気がするぞ?
「どうしてテレアを倒せば世界が平和になるのに一歩近づくのかな?」
「―――だってそうでしょう?カルマ様の復活のためには、それを良しとしない人間は一人でも少ない方がいいに決まってますよ?」
「……ごめんね?テレアはやっぱりコランズ君とはもう戦えないよ」
そう言ったテレアがなんだか悲しそうな表情をする。
段々とテレアの気持ちが俺にもわかって来たな……俺の見立てじゃコランズの奴は……。
「―――なぜですか?そもそも、あなたはなぜ僕と戦っていたんですか?」
「テレアが戦うのはお兄ちゃんの為だよ?」
……なんか急に俺の名前が出てきたんですけど?
いや正確には「お兄ちゃん」は俺の名前じゃないんだけど……ってそうじゃなくて!
「―――それなら僕と一緒じゃないですか?僕はカルマ様の為に戦っているんですから」
「本当にそうなのかな?多分だけどテレアはそうじゃないって思うよ」
小さく首を横に振ったテレアが言葉を続けていく。
「テレアが戦うのはお兄ちゃんがテレアのことを必要だって言ってくれるからだよ。本当は戦うの怖いしお兄ちゃんだって本当はテレアに戦ってほしくないって言ってくれたけど……だからこそテレアはお兄ちゃんの役に立ちたいって思うの」
言いながらテレアが一歩一歩ゆっくりとコランズに近づいていく。
「―――それこそおかしいですよ。戦うのが怖い……あなたが役に立ちたいと思っている人が戦わなくていいと言ったのなら、戦わなければいいじゃないですか?」
「えっとね……テレアが戦う動機って凄い不純なんだよ……だってテレアはお兄ちゃんに「ありがとう」って言われながら頭を撫でてもらいたいだけなんだから」
「―――たったそれだけの為にですか?」
「うん、だってそれが今のテレアにとって一番嬉しいことだから」
今まで決して打ち明けれられることのなかったテレアの本心……薄々思ってたし実際テレアにも言われたけどテレアが戦うのは俺の為なんだよな……。
しかし俺に褒められたいからか……たったそれだけの理由で戦ってくれているとは思わなかった。
「コランズ君は今まで疑問に思ったことないのかな?自分のしてることが本当に正しいことなのかなって」
「―――正しいに決まってます……だって僕がカルマ様や教団の為に手を汚すのは当たり前のこと……でも僕は人をあなたを殺したくは……でも人を殺さないとカルマ様の為に……」
「コランズ?」
少しずつ様子のおかしくなっていくコランズを見て、ドレニクの表情が強張っていく。
「もう一度言うね?テレアが戦うのはお兄ちゃんの為だよ?お兄ちゃんが褒めてくれるから……お兄ちゃんのことが大好きだからテレアは戦うんだよ?」
今なんかさらっと物凄い重要なセリフが聞こえた気がするけど……それはひとまず置いておいて。
「―――好きだから戦う……?」
「うん、そこがコランズ君とは違うところだよ?テレアは大好きなお兄ちゃんの為だったら、怖いのなんていくらだって我慢できる。でもコランズ君はたぶんそうじゃない……戦っててわかったの。コランズ君って本当は何のために戦ってるのかわからないんじゃないかな?」
「―――僕は……あれ?」
そう言ったコランズから今まで感じていた戦意が一気に消失した。
やっぱりテレアも俺と同じことを戦いながら気が付いたんだろうな……。
ロボットのような抑揚のない返答……自分のやっていることに何の疑問も持たない振る舞い……おそらくコランズは……。
「コランズ、余計なことは考えるな。お前は目の前の敵を殺すためだけに存在する機械だ」
「―――僕は機械?……違います……僕はたぶんそうじゃない……」
「ちっ……!シルクスの娘め余計なことをしおって!」
ドレニクが少し焦った様子でコランズへと一歩踏み出す。
「やっぱりカルマ教団ってのはクソだな。あんなコランズみたいな子供ですら洗脳して戦闘マシーンにしてやがるんだからな」
「ほざくがいい……我らの悲願であるカルマ様の復活の為なら手段など選んでおれぬのでな?」
思った通りだ、やはりコランズは教団に洗脳されているんだ。
そしてその洗脳がテレアの言葉で揺らいで解けようとしている。
「コランズ!お前は機械だ!目の前を敵を殺すためだけの!思い出すがいい!!」
「違う!僕は……っ!?」
そう叫んだコランズが突如うずくまり、苦しみ始める。
「ううっ……ぐっ……がっああああああああああ!!!」
「コランズ君!?」
たまらずテレアが駆け寄ろうとするが、突然立ち上がったコランズがテレアに向けて手を振ると、そこから衝撃波が発生しテレアを大きく吹き飛ばした。
「ううっ!!」
「テレア!!」
その光景を見て、俺もたまらずテレアの名を叫んだ。
見たところダメージはないようだ……しかしコランズのこの変貌は一体?
「殺せ!!神獣の力をもってその娘を殺せ!!お前の惑わす人間は全てが敵だ!これは偉大なるカルマ様の意志だ!!」
「―――コロス―――カルマさまのテキはすべてコロス―――」
恐らく洗脳と共に玄武の力を注ぎ込まれたのだろう、コランズから異様な気配が漂ってくる。
何がカルマ様の意志だ!手前の勝手でコランズをいいように洗脳しやがって!!
「コランズ君……」
そのコランズを見たテレアが驚愕すると共に、悲しそうに顔を伏せる。
テレアの必死の説得も全てが無駄になってしまった……いや?本当にそうなのか?
「テレア!コランズを助けてやるんだ!!」
「お兄ちゃん?」
俺の叫びに反応して、テレアが顔を上げてこちらを見た。
「今までテレアには戦ってほしくないって思ってた……けど今は別だ!今この場でコランズの奴を助けられるのはテレアしかない!戦ってくれテレア!!」
「お兄ちゃん……」
「頼むテレア!テレアの力でコランズを助けてやってくれ!!」
思えばテレアに「戦え」と言ったのはこれが初めてだ。
いつだって俺は遠回しにその言葉を避けながらテレアに指示を出していた。
だって俺の本心は何時だって「テレアには戦ってほしくない」だったのだから。
そしてテレアも俺の本心をわかっていたからか、本当の意味で本気で戦うことがなかった。
俺が「戦え」と本気で言わない限りテレアは絶対に本気で戦わない。
でも……今だけは違う。
「わかった、テレアは戦うよ!!」
今までにない力強いテレアのその言葉。
この子は何時だってそうだ……いつも俺の為に前に出て戦ってくれる。
何て健気な子なんだろう……いつだったかテレアは俺に「お兄ちゃんの役に立ちたい」と言った。
だからこそ俺はそのテレアの強い意志に答えてあげなければいけなかったのだ。
だってテレアは本当は俺の為に本気で戦いたいと思っていたはずなのだから。
「ふん!お前があのシルクスの娘だからと言って、今のコランズ相手に何が出来る!」
「お前さん、テレアがシルクス夫妻の娘だって知ってるくせに、あの子が天才だってことは知らないのな?」
「なんだと?」
一見するとドレニクの言う通り、今のコランズを相手にしてテレアが勝てるだなんて思わないだろう。
でも俺は全然心配なんかしてない。
だってそうだろう?テレアはあの英雄シルクス夫妻の娘であると同時に、俺たちの仲間なんだからさ?
「行け!テレア!!」
「うん!!」
俺の声を合図にテレアがコランズに向けて飛び出した!




