救出~フリル奪還作戦~
いよいよ戦いが始まってしまった。
ざっと見たところ敵が何か罠を仕掛けている様子は見られないけど、油断は出来ない。
テレアとレリスがそれぞれの敵を抑えてくれている間に、俺たちはフリルを何としてでも助け出さないといけない。
うずくまっていたエナが立ち上がったので、俺は急いでエナの元に走り寄る。
「大丈夫かエナ?」
「はい、少々手荒いレジストをされてしまいましたけど、ダメージはないです」
レジストを受けたというエナの手を見てみたけど、特に外傷も見当たらないし本人も痛がっていないので大丈夫なのだろう。
「エナ、あのじじいは何をやってるんだ?」
「あの大柄な男が言っていた通り、フリルちゃんの玄武の力をあの魔法陣に吸い取ってるんですよ」
「そんなものを吸い取ってどうしようってんだ?」
「わかりませんけど、絶対ろくなことには使わないでしょうね」
エナのその言葉はもっともだ。
こいつらが世のため人のために何かするなんて思えない。
「それを止めさせるために干渉してみたんですが……あの人どうやら相当な魔法の使い手ですね」
エナがそう言うなら、間違いなくそうなんだろうな……次から次へと、面倒くさいのが出てくるなぁ。
「フリルを助けるにはどうしたらいい?」
「単純ですよ、あの魔法陣からフリルちゃんを出してあげればいいんですよ」
「現状、その単純なことが一番難しいように思えるよな……」
迂闊にフリルに近づいたら、絶対に何か仕掛けてくるだろうし。
魔法についてどうこうできる知識が俺にはない分、ここは素直にエナの判断に従った方がいいだろう。
「近づくのはまずいですね、あの魔法陣の周りにはいくつもの魔法で張られた罠がありますから」
「物理的に近づいてフリルを救い出すのは無理っぽいってことか」
「最悪魔法陣にいるフリルちゃんを殺すような罠を張ってるかもしれません」
エナのその言葉で、俺の顔から一気に血の気が失せる。
一瞬「大げさな!」と思ったが、そのくらいのことをあいつらは平気でやってくるんだよな……ロイもそういうところあったし。
しかし、もしもそんなトラップがあるなら俺の全裸で無敵になる能力で強引に突っ込むことも出来ないな……フリルを死なせてしまうかもしれないし。
「なんとかしてあのドレニクとかいうじじいを倒すしかないってことか」
「それが一番手っ取り早いと同時に難しいことなんですよね……」
俺たちからみてドレニクはフリルから玄武の力を吸い取っている魔法陣の向こう側にいる。
その魔法陣を迂回していこうにも、ゴルマとコランズはそのあたりを陣取って戦っているので、どうしてもそのどちらかとかち合うことになる。
こちらの最大戦力を抑え込みかつ、自分の元には決して近づけさせない実に理に適った陣形だ……恐れ入るよ。
「なあちょっとええか?」
俺とエナが話し合っていると、スチカが割って入って来た。
「あのじいさんの張ってる罠ってのは魔力に反応して発動するタイプなん?」
「そうですね……この世界の人間はすべからく魔力を持っていますから、魔法で作る罠というのは踏んだ人間の魔力に反応して発動するようにするのが一般的ですね」
「そか……ならうちの出番やな」
スチカの返事を聞いたエナが「どうしてそうなるんですか?」みたいな顔をした。
「そうか!たしかにその原理ならスチカなら大丈夫だよな!」
「シューイチさんまで!ダメですよ、私の話聞いてたんですか!?」
「あーシュウにしか話しとらんかったな……うちな、魔力ないねん」
「……はっ?」
スチカのその言葉に、エナが間の抜けた返事を返す。
「魔力がないって……じゃあもしかしてスチカちゃんは『才能持ち』なんですか!?」
「詳しい詳細は省くけど、そういうことや」
スチカが昨日言っていたけど、生まれつき魔力を持たないこの世界の人間は特別に何か一つ才能を持って生まれてくるらしいな。
「たしかにこの状況ではうってつけですけど、それでも闇雲に突っ込むのはダメです!罠が発動しないという利点があるだけではフリルちゃんを助けることなんてできませんよ!」
「あのじじいがそれを指くわえて見てるとは思えないしな」
とはいえこれで大まかな作戦を立てられるな!
ようはあのじじいにスチカに魔力がないということを悟らせないようにしつつ、スチカにフリルを助け出してもらえばいいんだ。
そのためには魔法陣を安全に回避してあのじじいのもとへいき気を引く役目を負った誰かが必要なるが……。
「どうしたのじゃ皆の者!早くフリルを助けに行くのじゃ!!」
現状を話し合う俺たちに向けて、急かすようにティアが口を挟んできた。
そこで俺はピーンときた。
「ティア!お前の力が必要だ!」
「はっ?何を言っておるのじゃシューイチ?」
「そうですよ!こんな危険なことにティアちゃんを巻き込むなんて!」
「大丈夫だって!主に危険な目に遭うのは俺だからさ!」
みんなを宥めながら、俺は作戦を伝えていった。
「またシューイチさんはそんな危険な作戦を立てて……!」
「でもこれが一番確実性があるし、俺はどんな状態になってもわりとなんとかなるからさ?」
どの道悩んでいる時間は俺たちにはない。
テレアもレリスも見たところそれぞれの相手に苦戦しているようだし、フリルだって一刻も早く助けてあげないといけない。
「……わかりました!ここでうだうだ悩んでいても状況は好転しませんし」
「じゃあ決まりだな……それじゃあティア、頼むぞ」
「任せておくのじゃ!」
そうして俺たちは手早く作戦に必要な準備を完了させて互いに頷きあった。
俺は腰の剣を引き抜き構えを取りながら、魔法陣越しのドレニクを睨みつけてじりじりと迫っていく。
「なんの策も労せずにわしに向かってくる気か?」
「まあそうやって早計せずに見てろよ……!」
「何をするつもりか知らぬが、そう簡単にやらせはせんよ」
ドレニクの魔力が活性化し、なにやら魔法を唱えた。
すると俺たちの周りに何やら半透明の人影みたいなのが4体出現した。
「この教会はうまいこと死霊のたまり場となっておるな。わしがこうやって魔力を与えるだけでこうして簡単に使役できる」
「こんな死者を冒涜するような真似を……!?」
エナの顔が怒りに染まる。
「あなたたちカルマ教団は本当に……!」
「……そうか、お前はロイの言っておったあの亡国の……まあわしには関係のないことだ。お前たちよ、そいつらで己の恨みを晴らすがいい」
ドレニクが死霊たちに指示を出すと、一斉に俺たちに襲い掛かって来た。
「スチカちゃん!ティアちゃん!私の傍に来てください!!」
「おお!」
「ゆっ幽霊はダメなのじゃ!」
二人が自分の周りに来たことを確認したエナが、魔力を活性化させて魔法を唱える。
「フル・ピュリフィケイション!!」
エナを中心に浄化の光が発生し、その光をもろに受けた死霊たちは何の抵抗も出来ずに消えていった。
以前この周辺の死霊討伐に来た時使った浄化魔法だ。
「せめて安らかに……」
「浄化魔法を使えるか……わしには及ばんだろうが中々の魔法の使い手のようだな」
「褒めてくれてありがとうございます。ちっとも嬉しくないですけどね」
お返しとばかりにエナがドレニクに手を向けて何やら魔法を放った。
「シャイン・グレイブ!!」
ドレニク真上に光球があらわれ、そこから光の槍が出現しまっすぐにドレニクに向かい落ちていく。
「フル・プロテクション」
だがその光の槍はドレニクの張ったバリアによって防がれて消えていった。
「無駄なことを」
「まだまだ行きますよ!」
魔力を活性化させたまま、エナは別の魔法を唱えた。
「フレア・サークル!」
ドレニクの周りに炎が巻き起こり一瞬にしてドレニクを包み込むが、その炎はバリアによって防がれてしまい、ドレニク本人は届かないようだ。
「こんなものが効くと思っておるのか?」
「思ってませんよ!!ドルク・バレット!!」
今度はエナの手から魔法で作られた土の塊が形成されて、勢いよくドレニクへと打ち出された。
結構な威力がありそうなその魔法だったが、それでもドレニクのバリアを破壊するには威力が足りず、バリアに激突して粉々になって消えていった。
「……何を企んでおる?」
さすがに何かおかしいことに気が付いたのか、ドレニクが怪訝な表情でエナに問いかけた。
だがその問いに答えることなく、エナは再び魔法を放つ。
「アイシクル・フォール!!」
ドレニクの頭上に巨大な氷の塊が出てきて、さきほどのシャイン・グレイブと同じようにドレニクへとまっすぐに落ちていく。
さすがにこれには耐えられなかったのか、ドレニクの張ったバリアがついに音を立てて粉々になった。
「まだまだー!フラッシュ!!」
すかさずエナが次の魔法を放ち、ドレニクの視界を光によって奪った。
さっきから色んな魔法を次々と放っているのに、エナの魔力が全然尽きる様子がない。
魔法の威力から見て手を抜いてるわけでもなく相当の魔力を消費してるはずなのに……俺が同じ事したら今頃魔力切れでぶっ倒れてるはずだ。
「ぬうっ!?こざかしい真似を……!」
「今です!」
「よしきた!」
エナの合図を受けて、スチカがフリルの倒れている魔法陣へと向けて走り出した。
だが視力が回復していないにもかかわらず、ドレニクは魔法陣へと向かったスチカに気が付いたようで、まるであざ笑うかのようにエナに対して口を開いた。
「これを狙っておったのか?だが甘いぞ!!その魔法陣周辺には罠を張っておる!」
「そんなことは百も承知だよ」
そう言って俺は、手にした剣でドレニクを背後から全力で斬りつけた!
ドレニクの背中から鮮血がほとばしる!
そのドレニクが苦痛に顔を歪めながら、俺の方に振り返った。
「なっ……どうやってここまで……!?」
「転移魔法を使えるのが自分だけだと思わないほうがいいぜ?」
「なんだと……!?」
続けざまにドレニクに対し、俺は剣で横薙ぎに斬りつけるが、辛うじてバックステップでかわされてしまった。
もう一撃くらい入れておきたかったけど、俺たちの目的は達成できたので上出来だな。
「シュウ!フリルは無事やで!」
その声に振り返ると、フリルをおんぶしたスチカが俺に向けてサムズアップしていた。
「でかしたスチカ!」
「馬鹿な!?なぜ罠が発動しないのだ!?」
「教えるわけないだろ、自分で考えろよ!ティア!!」
「任せるのじゃ!!」
俺の合図とともにティアの魔力が膨れ上がり、魔法陣の上にいるフリルをおんぶしたスチカを、転移させて自分たちと元へと出現させた。
「そういうことか……小癪な真似を!!」
俺の立てた作戦とは、エナが出来るだけドレニクの注意を引き付けて、その隙にティアに俺を転移させる準備を完了させて、隙をついて俺をドレニクの真後ろに飛ばすという単純な物だった。
まあ正確にはティアが……というよりも青龍なんだが。
青龍が素直に言うことを聞いてくれるかどうか心配だったが、エナがお願いするとあっさりと協力してくれた。
ていうか、エナの合図でスチカが飛び出して行ったのは予定になかったんだが……まあそのおかげで完全に隙をつくことが出来たけどな。
「どうやらお前たちを少々侮っておったようだな……まあよい、すでに十分な量の玄武の魔力を徴収できた」
「人の力を奪い取ってんじゃねーよ!さっさとフリルに返しやがれ!」
「そういうわけにはいかんよ……手始めにお前に見せてやろう、この素晴らしい力を!」
ドレニクがそう言いながら自身の羽織っていたローブを脱ぎ去り魔力を活性化させていく。
膨れ上がっていくドレニクの魔力に、俺は嫌な予感をひしひしと感じた。
「玄武の力よ!我らに宿りその力を存分に振るうがいい!!」




