捜索~ドローン偵察~
フリルがいなくなったという事実に、一瞬頭の中が真っ白になった。
「はっ?……えっ!?」
周囲を見回すが、やはりフリルだけがいなくなっている。
まさかさっきのあの一瞬で連れ去れた……?そんなバカな話があるか!
「フリル!!どこだ!?いるなら返事しろフリル!!!」
「シューイチ様、落ち着いてくださいませ!」
これが落ち着いていられるか!フリルが連れ去れたんだぞ!
ふとエナを見ると、しゃがみ込んで地面に手を触れて何かを探っていた。
「周囲になにか強力な魔法を使った形跡が残ってます……おそらくそれなりの規模の転移魔法を使ったんじゃないでしょうか?」
「転移魔法って……あのコランズとかいう奴が使ったのか?」
「違うと思います。例えあの子が高位の魔法使いだとしてもあの一瞬でこれほどの転移魔法を使うのは不可能です」
「テレアもそう思う……あの子と戦ってる時魔法なんて一度も使ってこなかったし」
となると、あらかじめあいつらの仲間が転移魔法を使うタイミングを伺っていたということか?
「まさかロイの奴が……?」
「違うと思います……もしもロイがいるならこんなこそこそ隠れて魔法を使うような真似はしないと思いますよ」
だよなぁ……これがロイなら姿を現してこちらを煽る発言してから逃げていきそうだし。
「ロイ……?」
「どうしたんだレリス?」
「ああ、いえ!……とりあえず今はフリルちゃんの行方を探るほうが先決ですわね!」
そう言ったレリスが目を閉じ何やら集中すると、レリスの目の前に光が集まっていき、その光の中からミニサイズの朱雀が姿を現した。
『どうやら私の出番のようね!』
「朱雀、フリルちゃんの……玄武の魔力を探ることはできますか?」
『そんなのは朝飯前よ!えーっと……』
意気揚々と宣言した朱雀が高く浮かび上がり周囲をくるりと見回す。
「あれが朱雀か」
「本当じゃ!朱雀がいるのじゃ!」
スチカとティアの二人は少なからず神獣のことを知ってるからか、あまり驚いた様子はないな。
わざわざ説明する手間が省けるのはありがたいもんだ。
そんなことを思っていると、朱雀が降りてきてレリスの肩に止まった。
『ダメね……玄武の魔力が微塵も感じられないわ』
「そんな!それじゃあ一体どこにいるんだ!?」
もしかして国外に連れ去られたのか?そうなったら追いかけるのは絶望的だ。
『まあ落ち着いてちょうだい?玄武の魔力は感じられなかったかわりに、この国全体を探ってみた結果不自然に探知できないポイントが見つかったわ』
「不自然に探知できない……ですの?」
『普通ならどこにでも魔力の流れがあるはずなのに、そこだけあからさまに探知できないのよ。これだけ不自然だと逆にここを探してくれと言ってるようなものだわ』
たしかに怪しいけど、そこにいるだろうと判断するのはまだ早計だ。
「元々そこが魔力を探知できない場所だという可能性もあるんじゃ?」
『それはないわねー。そういう場所もたしかにあるけど普通ならその場所に近づくにつれ周囲の魔力が少しずつ薄くなっていくものだけど、ここはそうじゃないもの。明らかに人為的な力が働いてる証拠よ』
「なるほど、神獣の存在を隠すために高度な隠蔽魔法を使っていることが、逆に仇になっているみたいですね」
朱雀の言葉にエナが納得したようにうなずいた。
話を聞いていたスチカが、顎に手を当ててなにやら考えた後に、口を開いた。
「それって逆に怪しすぎんか?そんなあからさまやと罠かもしれんで?」
「でも現状そこが怪しいのですし、罠だとわかっていても行くしかないと思いますわ」
「せめてそこの様子が少しでもわかるといいんだけど……」
テレアのその言葉を聞いたティアが、何かを閃いたように手をポンと叩いた。
「スチカよ!この前作った例のあれを使うのじゃ!」
「例のあれ?……ああ、ドローンか!」
「そう、それじゃ!」
ドローンって……そんなものまで作ってたのか!?
「試作品やからあまり長いこと稼働できんけど、まあ緊急事態やからな」
スチカがそう言いながら腰に付けたポシェットから小さな箱を取り出した。
どこかで見たことあるそれは、レリスも持っている魔道式収納ボックスだった。
蓋を開けたスチカが、中から十字の形をしてその先に四つのプロペラの付いたミニドローンと、小さなモニターの付いたコントローラーを取り出した。
もう見たまんま、俺の知ってるドローンだった。
「お前はこの世界の文明崩壊でも目論んでるの?」
「失礼なやっちゃな?逆やで逆!うちはこの世界の文明の発達に貢献しとるんや!」
ドローン本体の電源をオンにしながら、スチカが俺に反論してきた。
「スチカお姉ちゃん、それはなに?」
「これはドローンいうてな?……まあ説明するより実際に動かして見せた方が早いわ」
ドローン本体をそっと地面に置いたスチカが、手に持ったコントローラーを操作すると、風を巻き起こしながらドローンがふわっと浮き上がった。
「うわっ!?なんですかこれ!」
「簡単に言うと、うちの乗って来た飛行機を小さくしたようなもんやな!カメラを搭載しとるからこのドローンを通した映像がこのコントローラーについたモニターに映し出される仕組みやから、偵察するにはもってこいやな」
「かめら……?」
「……もにたー?」
聞きなれない単語を耳にし、エナとテレアが首を傾げた。
俺も色々とツッコミたいところだけど、今はフリルの捜索が最優先なのでグッと堪える。
『便利な物作ってるのね……じゃあ私が指示するから言う通りに飛ばしてちょうだい』
「よしきた」
レリスの肩から離れた朱雀がスチカの手元に飛んでいき、モニターに映し出された映像を見ながらスチカに指示を出していく。
その光景を俺たちは固唾を飲んで見守る。
朱雀の指示を受けたスチカの手によって、ドローンは上空へと飛び上がっていき、いずこへと飛んで行った。
『そこをもうちょっと右に……あの建物のある付近を目指してちょうだい』
「あの建物か?よーっし」
モニターに映し出された映像が、一つの建物を映し出してそこへどんどん近づいていく。
見たことある感じの建物だけどどこだったかな?
「お兄ちゃん、ここってこの国の教会の跡地じゃないかな?」
「教会の跡地……ああ、そういやギルドの依頼で教会の跡地周辺の魔物討伐やったな!」
この教会の跡地は城下町の外れにある古い建物だが、この国的には歴史ある建造物らしくわりと当時の状態を保ったまま残されている。
なんでわざわざ街の外れに……と思ったが、この教会を使っていた当時はこの周辺の方が栄えていたとのことだが、どういうわけか魔物が発生しやすいポイントらしく、次第に人が離れていき過疎化が進んで今の現状になったと聞いたことがある。
今でも度々ギルドに魔物の討伐依頼が来るらしく、俺たちが依頼を受けて行った時は死霊系の魔物が出てきたな。
物理攻撃が通じなかったので結構厄介だったな。最終的にはエナの浄化魔法で一掃されたけど。
「中に誰かおるみたいやな?」
『もうちょっと近づけないかしら?』
「あんまり近づくと気が付かれるんやけど……まあもうちょっとだけなら……」
スチカがドローンを操作し、大きめの窓が見える場所に固定すると、教会の中の様子がモニターに映し出された。
「さっき戦ってたコランズってのがいるな」
「もう一人誰かおりますわね……後ろを向いているので顔が確認できませんが」
「あっ!あそこにさっきレリスさんが倒した男が寝かされてますよ!」
エナがそう言ってモニターを指さした途端、後ろを向いて顔を確認できない人物が寝かされているゴルマに手をかざすと、ゴルマの身体が光に包まれて傷が塞がっていった。
ほどなくしてゴルマが起き上がり、なにやら激高した様子で拳を床に叩きつけていた。
相当おかんむりのようだな。
「どうやら相当優秀な魔法使いがいるみたいですね」
「顔はわかんないけど、あいつが転移魔法を使ったのは間違いないみたいだな」
後ろ姿から確認したところ、どうやらロイではないようだ。
もしもロイだったらリンデフランデの一件を利子つけて返してやろうと思ってたんだけどな。
「フリルお姉ちゃんの姿が見えないね……奥にいるのかな?」
テレアがそう呟いた瞬間、モニターの中のコランズがこちらをまっすぐ見ているのに気が付いた。
「あかん気が付かれた!あいつ勘が鋭いな!ここらが限界やな……離脱し……」
その瞬間、顔のわからなかった魔法使いがこちらを向いて手を向けたと思ったら、一瞬の閃光の後モニターの映像がノイズへと変わった。
どうやらドローンは撃墜されてしまったようだ。
「あーくそ!なんてことするんや!!弁償させたる!!!」
コントローラーを地面に叩きつけたスチカが、悔しそうに地団太を踏んだ。
床に叩きつけた衝撃でコントローラーとモニターが分離したけど、それはいいんだろうか?
「ともかく……あいつらの居場所はわかったな」
「同時に向こうにも気がつかれちゃいましたけどね」
しかしそんなに遠くない場所にいるうちに発見できたことは幸いだ。
フリルも間違いなくそこにいるだろうし、逃げられる前に今すぐ現場に急行しないと。
「行くなら急いだほうがよさそうですわね……また転移魔法で逃げられたら、今度こそ完全に見失うことになりますもの」
「絶対許さんあいつら!ドローンの制作費全額請求したる!!」
一人だけ目的が違うぞ。
「場所が分かったのなら早く行くのじゃ!」
「あー……悪いけどティアは俺たちの拠点に帰ってもらえないかな?」
俺がティアにそう言うと、心外といった表情で俺を見てきた。
「なっなぜじゃ!?わらわもフリルを助けに行くのじゃ!!」
「いや、ここはシュウの意見に賛成やで。さすがに危険だとわかってる場所にティアを連れていけん」
スチカの正論に一瞬ティアがたじろいだが、すぐに持ち直し口を開く。
「わらわも行くぞ!フリルはわらわのせいでこんなことになってしまったのじゃ……それなのにわらわ一人だけ安全な場所で指をくわえて待つなど、アーデンハイツ王族として末代までの恥じゃ!!」
「おっ……おう?」
ティアの気迫にスチカが意外な表情をしながら気圧されながらも、俺の耳元に顔を寄せてきた。
(ティアの奴なんかあったんか?)
(まあなんというか……少し大人になったんだよ)
(そっか……!)
そう言って頷いたスチカが、少し嬉しそうな顔をした。
「わかった……もしかしたらティアの力も必要になるかもしれんしな」
ティアの力……?もしかして青龍がらみだろうか?
フリルもレリスも神獣の加護を受けたおかげで、色んな力を使えるようになっているし、ティアもそうなんだろうか?
「よし!それじゃあ教会の跡地に行くぞ!恐らく戦いになるだろうけど、みんなまだいけるか?」
「テレアはまだいけるよ!」
「私だってまだまだ戦えますよ!」
「先程の戦いでそれなりに消耗いたしましたが、戦闘の継続は可能ですわ」
最悪なんとか隙をついて全裸になれば、俺の体裁を犠牲に勝つことは可能だ。……あんまりやりたくないけどね。
「スチカとティアは……?」
「さすがにレリスみたいにはできんけど、うちも自衛する手段くらいはもっとる」
「わらわはなんとかするのじゃ!」
スチカはともかくティアが危なっかしいことこの上ない。
まあ最悪、青龍の力を使うのだろうけど。
「目的はフリルの奪還だ!行くぞみんな!」
「「「「「お―――!!!!!」」」」」
俺の掛け声を合図に、俺たちは町はずれの教会跡地へ向けて走り出した。




