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クラブ・ジェムノット~エピソード1-少女は全員直感系の家を出る~  作者: (さ)くま
第5章 天空の水鏡

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5‑7 天空の鏡

事務所の外から、

「えーーーっ」 という小杉さんの声が聞こえた。


びくっ、と肩が跳ねた。


なに……?

なにが起きてるの……?


小杉さんの声は、

驚いているというより、

「信じられないものを見た」

という感じだった。


遼叔父さんの声は聞こえない。

でも、静かに、淡々と、

何かを説明している気配がした。


私は、

胸の奥のきゅっとした揺れを抱えたまま、

事務所で待っていた。


しばらくして、

事務所の扉が開いた。


「戻りましたー……」


小杉さんが入ってきた。


顔が、なんというか……

テンションが高いのに、

無理やり抑えている感じだった。


「レーヴちゃん、

 あのですね……

 ウユニ塩湖、レーヴちゃんのブースになるっす」


「……えっ」


心臓が跳ねた。


「伏見さんが言ってたんすよ。

 “レーヴは完全に使いこなしているから、譲りたい”って」


使いこなしている……?


私が……?


「ウユニ塩湖、

 レーヴちゃんが歌ったときの反応、

 聞きました。やばすぎです。

 伏見さんも見たことない演出出てたみたいで」


胸の奥が、ぽわんとした。

でも同時に……

モヤモヤした。


嬉しい。

すごく嬉しい。


でも──

なんだろう、この感じ。


胸の奥で、

昨日から膨らんでいる“何か”が、

また少し大きくなった。


遼叔父さんが、

静かに事務所へ戻ってきた。


「レーヴ」


名前を呼ばれただけで、

胸の奥が熱くなった。


「ウユニ塩湖の件、

 小杉から聞いたか?」


「……はい」


遼叔父さんは、

少しだけ照れたように笑った。


「本当に、

 レーヴが使いこなしていたんだ。

 俺よりずっと。

 ……美しかった」


嬉しい。


でも、その言い方、

なんだかずるいと思ってしまった。


胸の奥で、

何かが爆発した。


私は、

気づいたら遼叔父さんの袖を

そっとつまんでいた。


「……遼叔父さん」


小さな声で呼んだ。


遼叔父さんが、

少し驚いた顔でこっちを見る。


「ウユニ……

 本当に、いいんですか……?」


伏見さんは、

ゆっくり頷いた。


「レーヴが使うのがいちばんいい。

 俺はそう思った」


遼叔父さんの頬が紅潮している。


その言葉が、表情が

胸の奥にまっすぐ落ちてきて、


私の胸の奥で“膨らんだ何か”が、

本当に、大爆発した。


私は、

遼叔父さんのそばに寄って、

手招きをした。


「ん、どうした…?」


身をかがめて、私の顔の

あたりに耳を寄せてくれる。


遼叔父さんの耳も赤くなっているように見えた。


………遼叔父さんが、いけないんだもん。


私は、そっと耳打ちした。


「遼叔父さん……

 私……

 下宿、引き払ってもいいですか……?」


遼叔父さんの顔が、

一瞬で真っ赤になった。


口をハクハクさせてる。


「っ!………

 ……絶対、ダメです」


完全に声が震えていた。

真っ赤な顔で、口元も手で押さえて。


昨日の誰よりも、

今日の誰よりも、

いちばん揺れていた。


胸の奥が、

一気にあたたかくなった。


最高の気分って、こういう感じなのかな。

ウユニで歌い終わった直後のような気分。


私、今ならきっと空も飛べる!


「……ウユニ塩湖、

 大切にします。

 遼叔父さん……ありがとう。

 ……大好き!!」


言った瞬間、

遼叔父さんは完全に固まってしまった。


小杉さんが、

「うわ……」

と小さくつぶやいた。


上京して2回目の春。

1回目の春は、わからないことだらけだった。

新しいことだらけだった。


2回目の春は、

もっともっと新しいことを運んできてくれた!


まるでジェットコースター。

すごい速度でどんどん次々やってくる。

ジェムノットが加わった私の生活は、

どんなものになっていくんだろう。


想像もつかないけど、

きっと、

京都にいたころより、

隙間のない生活になるに違いないと思った。


それが全然、嫌じゃなかった。


ジェムノットで働く日々。

大学生活との両立。

新しい出会い。

新しい揺れ。

新しい自分。


遼叔父さんにもらったウユニ塩湖の光を胸に、

私はレーヴとして歩き出す。









EP1 完


最後までお読みいただきありがとうございました!

エピソード1本編はこれにて終わりですが、1話だけ幕後のお話があります。

エピソード2は、10月ごろ開始予定です。

よろしければ、そちらもお読みいただければ大変うれしいです!

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