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クラブ・ジェムノット~エピソード1-少女は全員直感系の家を出る~  作者: (さ)くま
第4章 レーヴ──歌姫誕生

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4‑2 魔法に落ちる

端末を操作する遼叔父さんの指先は、

私の気のせいじゃなければ、少し震えていた。


叔父さん――

緊張してる?


けれど、

操作が終わった瞬間──

ブースの空気が、 ふわりと変わった。


「……これが、俺だ」


遼叔父さんが静かに言った。

照明がすっと落ちた。


次の瞬間、

ブースの壁面が、天井が、

黒い静けさの奥からゆっくりと光を帯びた。


一面の星だ。


壁一面に、

天井いっぱいに、

足元にまで──

星が広がっていく。


「これ…」


ネットで見たことある―――


「ウユニ塩湖だ」


雨季の鏡のように、

空と地面がひとつになっている。


「これが……遼叔父さんの、ブース……?」


声が自然と小さくなる。

こんな…こんな美しさが、

こんなにしっくりなじむなんて。


「通常時は夜だ。

 俺の影は、静けさのほうが落ち着くし、

 俺自身、俺らしい気がする」


遼叔父さんの声は、

星空の中に溶けるように柔らかかった。


音はない。

風もない。

ただ、静寂だけがある。


「音は……ないんですね」


「ああ。音は入れないことにした。

 ここに、ウユニ塩湖に必要な音はないと思ってる」


その言葉が、

星空の中でゆっくり沈んでいく。


遼叔父さんが、

ほんの少しだけ息を吸った。


その瞬間── 星が、揺れた。


ほんのわずか。

けれど確かに。


「……揺れた……」


「よく見つけたな。

 影が揺れると、星が揺れる。

 これが俺のブースの“反応”だ」


遼叔父さんは、

星空の中で静かに言った。


「イヴ。

 さっきの……“伏見支配人”ってやつ。

 ここでもう一度言ってみてくれ」


胸の奥がドクンと揺れた。


「えっ……ここで……?」


「ここが一番分かりやすい。

 俺がどれくらい揺さぶられたか。

 ジュエルがどれくらい丸裸にされるか。

 全部、空が教えてくれる」


星空が、

静かに待っている。


胸の奥が熱くなる。


私は、 ゆっくりと息を吸った。

表情は、叔父さんには見えないんだと思う。

でも、あの時のように、満面の笑顔で。


「……伏見支配人。」


その瞬間──


星空が、

一気に昼になった。


夜が、

青空に弾け飛んだ。


足元の水鏡も、

天井の空も、

すべてが眩しいほどの青に染まった。


「えっ……!?」


「……こうなるんだよ」


遼叔父さんは、 少し照れたように笑った。

でもそのまなざしは真摯で―――


胸が痛い。


「こういうことだから、“今後禁止”。

 ……イヴを揺らしすぎるのは、俺の本意じゃないんだ」


胸の奥が、熱くて、苦しくて、

どうしようもなく揺れた。


叔父さんが、何か言ってる。

でも私の頭と心で、

ぽわんっ、ぽわんっ、と、なにかがずっと爆発してる。


ちょ、ちょっとまって。

ほんとうに、まって。


無理、無理…!!


なにこれ、こんな、こんな…!

全身沸騰したみたいにドキドキしてる。

こんな…!!!


ここまで丸裸になってしまうの…?

こんなこと、私に本当にできるの……?


この、包み込むような静けさを。

この、魔法のような瞬間を。


あのきらめく星空と、この雲一つない青空を。


「…イヴ。」


遼叔父さんに

ものすごく優しく名前を呼ばれて、

私は、ぱんっ、と意識が戻った。


遼叔父さんは、

青空の中でゆっくりと視線を落とした。


「これが俺の本質だよ。

 すまない、驚かせたな。

 …けどな。

 イヴ、忘れないでくれ」


その声は、

星空よりも静かだった。


「影だけが、

 人間のすべてじゃない」


胸の奥が、

ぎゅっと掴まれたように揺れた。


「人には、理性があるんだ。

 影に揺さぶられても、

 心や本能がぐらついても、

 それだけが俺の全部じゃない」


青空の中で、

遼叔父さんの影が静かに揺れた。

…青空に、少し雲が出てきた。


「イヴの笑顔で、

 俺の影が180度ひっくり返る。

 大きな出来事だ。

 けど……それは俺の“全て”じゃない」


その言葉は、

青空の中でゆっくり沈んでいく。

そして、ゆっくり、ゆっくりと

茜色が差し込んでくる。


「本質は、

 影の奥、揺れの奥にある。

 …理性のほうにある、と、

 俺は信じてる」


遼叔父さんの影に呼応するように、

少しづつ、夕焼けが訪れて―――

そして、

再び夜空に覆われていった。


星がきらめき始める。


私は、

胸の奥が熱くて、

苦しくて、

どうしようもなく揺れていた。


遼叔父さんの影。

遼叔父さんの揺れ。

遼叔父さんの理性。


その全部が、

この空間に映っている。


「イヴ」


遼叔父さんが私を見た。


「これが……俺の影だ」


星空が、また静かに揺れた。


これが―――

ジェムノットの世界なんだ…―――。


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