000話 「プロローグ」
数ある作品から選んでいただきありがとうございます!!
今年で大学三年生になる俺は、所謂巻き込まれ体質、という厄介な体質を持っていた。
何か行動を起こすたびにトラブルが発生し、平穏な日常生活すらままならない。
仲の良い友人は居たし、決してボッチというわけでもなかったが、先程言った通り俺の運の悪さは筋金入りだった。
例えば友人とカラオケに行けば、店員が足を滑らせて運んできたドリンクのトレイを俺の頭上にぶちまけるのが日常茶飯事。
そんな有様だから、ただ自宅へ帰るだけの道程であっても、俺は常に細心の注意を払って生きてきた。
——いつもなら。
自宅への帰り道に、いつものコンビニエンスストアがある。
どこにでもあって非常に便利だ。
肌をジリジリと焼く真昼の直射日光に当てられ、俺は額に滲んだ汗を拭いながら、オアシスのように輝くその看板を見上げた。
お目当ては期間限定のコラボアイス。
そう、冷たいアイスが食べたくなるのは真夏の生理現象だ。
いつもなら我慢して家にストックしてある安いアイスを食べるのだが、今日ばかりは俺の足は自然とコンビニへ向かっていた。
気分は上々。
冷え切ったアイスを買って、店を出た瞬間――俺は気づかなかった。
『どけぇっ!!』という、男の切羽詰まった声に。
「邪魔なんだよおぉーっ!!」
血走った目をした中年の男とすれ違うと思った瞬間――腹部に、焼け焦げるような強烈な痛みが走った。
それと同時に、全身の感覚が麻痺していくような鈍い熱がどっと溢れ出す。
———どういう事だ?
壊れたディスプレイのように、視界が音を立てていくように歪んでいく。
プツンと糸の切れた操り人形のように体の制御を失い、俺は熱いアスファルトの上へ無様に倒れ込んだ。
「あ……ぁ、っ……」
気づけば、俺のすぐ横には生温かい血溜まりが出来ていた。
通行人が悲鳴を上げながら救急車を呼んでいる声が聞こえるが、それも次第に遠のいて行く。
俺を刺した通り魔の足音は、喧騒の中に紛れてすっかり遠ざかっていた。
アイスなんて買わなかったら、今頃はクーラーの効いた部屋でゴロゴロしながら、ストックしていたアイスを食べていただろうに。
コンビニになんて寄らなければ、通り魔に刺されることもなかったかもしれない。
そう思うと、じわじわと悔しさと後悔が滲み出てくる。
もっと自由に生きたかった。温泉巡りに行って、友人とバカ笑いして、楽しくのんびり過ごしたかった。
あぁ、なんだか急激に寒くなってきた。
そう言えば、友人達は今頃カラオケで盛り上がっている時間か。
どうせなら、断らずに行っておけば良かった。
理不尽な後悔が、俺の薄れゆく意識を埋め尽くしていく。
いやいや、まだ死ぬって決まったわけじゃない。必死に意識を保とうとするが、気合や根性だけではどうにもならない絶望がこの世にある事を、俺は酷く痛感した。
やがて救急車が到着したのか、サイレンの音が耳に入ってくる。
「大丈夫ですか! 聞こえますか、今から病院に向かいますから、あと少しの辛抱ですよ!」
声はノイズが混じったかのようにくぐもってよく聞こえなかった。
もう視界は真っ暗だった。縁起でもないが、もし来世があるのなら――今度こそ、ゆっくり、のんびり楽しく生きたい。
「意識レベルが低下! しっかりしてください!」
「やばいっ、横からトラックが! うわぁあああ!」
「「「うわぁあああああ!!!」」」
――ドォオオン!!!
鼓膜を破るような凄まじい轟音と衝撃が全身を貫き、妙な浮遊感と共に俺の意識は闇へ消えていった。
テレビ画面に映っている女性ニュースキャスターが、渡された原稿を淡々と読み上げる。
『速報です。昨日午後5時半頃、通り魔に刺された男性を乗せた救急車が、交差点でトラックに衝突されました。搬送されていた男性一名が死亡、残りの救急隊員三名とトラック運転手は幸いにも軽傷だったとのことです。警察は、現場で起こった通り魔事件と今回の救急車の衝突事故に関連性はないとして捜査を進める方針です。』
▲
視界がぼやける。
———確か俺は、通り魔に刺されて。
そうだ、救急車に乗せられて、その後多分事故ったんだ。救急隊員の人は大丈夫だっただろうか。
というか、ここは何処だ。
順当に考えれば病院のベッドの上だが……。
段々と鮮明になってきた視界に意識を向ける。
「ーー・ー・・ー」
彫りの深い整った顔立ちの西洋人が、俺を覗き込んでいるのが見えた。
透き通るような純白の髪に、晴れ渡った空のように澄んだ碧い瞳。
そして、ゆったりとしたバスローブの様な服の胸元からは、男の浪漫たる二つの谷が豊かに主張していた。
紛れもない脂肪の塊である。
「おぎゃ!?」
と言うか今、俺の口から出た間抜けな声は一体……。
混乱に陥りながらも、俺は状況を把握するために周りを見渡した。
視線を巡らせると、そこは中世ヨーロッパの王宮と見紛うほど豪華な部屋。
繊細な彫刻が施された調度品に、高い天井で輝く黄金のシャンデリア。
周囲には、身長ほどもある木の枝のようなものを持ったローブ姿の老けた男と、ピシッと整えたらメイド服に身を包んだ女性たちが十人ほど控えていた。
そんな全員の視線が、俺一点に注がれている。
え、なんか俺したっけ?
改めて状況を確認するためにもう一度自分の体を見る。
先ほどの女性にすっぽりと抱え込まれる程度の、極端に小さな体躯。すぐ横の棚に置かれた花瓶が、やけに大きく見える。
そして、部屋の至る所に刻まれた、見たこともない家紋のような紋章。
やることもなく、家でゴロゴロとネット小説を読み漁っていた俺の脳みそは、すぐにある一つの結論を導き出した。
——もしかしてだけど俺、異世界転生したのかもしれない。
▲
――それから数年の月日が流れた。
何故だか巻き込まれ体質の俺は、異世界のファリンクス王国という国の公爵家に転生したらしい。
物心ついて、周囲のメイドや親たちの会話、家庭教師から教えられたことによると、ウィリアス公爵家六女、ルシア=リィ・ウィリアスが今の俺の名前だ。
悲しい事に、前世では確かに存在していたはずの俺の男の尊厳は、綺麗さっぱり天に召されてしまったようだ。
すまない息子、お前を大人にしてやることは出来なかった……っ。
まあ、男も女も生まれる確率は五分五分なのだ。こればかりは仕方ないだろう。
六女などと言っているが、上には七男もいるらしい。
余談だが、俺の御父上はかなりの剣豪ならぬ性豪だとか。
って言うか子供作りすぎだろ! と心の中でツッコミを入れたのは言うまでもない。
女に生まれてしまったからにはハーレムは築けないが、まだ百合の道が……おっと、これ以上踏み込むのはやめておこう。
父であるライアムス=リィ=ウィリアスには三人の妻がおり、俺は一番新しい第三夫人の子供だ。
幸いにも俺は六女という末端の立場なので、面倒な政略結婚とかは多分関係なさそうである。
前世では、巻き込まれ体質のせいで好きなように生きられなかった。
文字通り、心からのんびりしている時間などひと時もなかったのだ。
だが今世ではどうだ。公爵家という権力に莫大な資産、将来は安泰である。
よしっ、決めた。
そうだ、自分に誓おう。俺はこの世界で、全力でのんびり気ままなスローライフを謳歌してやる。
もう二度と、あんな理不尽な後悔はしないように。
全力で、のんびり気ままに生きてやるっ!
———ってね。ちょっと主人公気取りしすぎか?
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひ上のブックマーク、下の評価★★★★★を星よろしくお願いします!
ログインしていなくても感想を書けるようになっておりますのでぜひ感想を書いてくれると嬉しいです!
最後まで読んでくれてありがとうございます!!




