01 こいつ、何回やっても婚約破棄してきますわ!
【ざまぁなし/断罪返しなし/恋愛薄め】
【全7話/完結まで予約投稿済み】
婚約破棄から始まりますが、元婚約者を破滅させる話ではありません。死に戻り×救国寄りです。
なんなんですの!? こいつ、何回やっても婚約破棄してきますわ!
大広間の真ん中で言われたこともあります。薔薇園では花を愛でる間もなく告げられましたし、王城礼拝堂の前では神にまで聞かせました。極めつけは、わたくしが熱で寝込んでいる寝室にまで踏み込んできたとき。
あのときは枕を投げました。
扉に。
殿下ではなく。
そこだけは褒めてくださいませ。
ユリウス・アルディス王太子殿下。
わたくしの婚約者でした。
いえ、元婚約者。
十一回分をまとめて申すなら、毎度まじめな顔でわたくしを捨てに来る、たいへん勤勉な困りものの王太子殿下。
あの方は、わたくしが微笑んでも、叱っても、距離を置いても、距離を詰めても、最後には必ず同じ台詞へ帰ってくるのです。
「ベレニス。君との婚約を破棄する」
聞き飽きましたわ。
ほんっとうに、聞き飽きました。
十一回も同じ台詞を浴びる身にもなってくださいませ。
もちろん、殿下にとっては毎回初めての婚約破棄なのでしょう。ええ、分かっております。分かっておりますとも。
けれど、こちらは十一回目ですの。
言われる場所が変わり、理由が変わり、周囲の顔ぶれまで変わるのに、最後に落ちてくる台詞だけは毎度同じ。
しかもなぜ毎度、婚約破棄の台詞だけは、妙に王太子らしい発声で仕上がっておりますの?
その威厳、国政でお使いになればよろしいのに。
わたくしを誰だと思っていますの?
エーレンフェルト公爵家の長女、ベレニス・フォン・エーレンフェルト。
五歳でユリウス様の婚約者に据えられ、八歳のころから王太子妃教育を受けさせられました。
礼法では背筋を伸ばされ、外交では文言を丸暗記し、古典では眠気と戦い、祭祀では膝を痛め、領地経営の帳簿には数字で睨まれる日々。
扇の角度ひとつで老教師に眉を上げられてきた女です。
いずれ王妃になるはずだった女ですわ。
……まあ。
最初から、涼しい顔でこなせたわけではございませんけれど。
王太子妃教育の話ではありません。
あちらは、泣きながらでも、歯を食いしばれば前に進みました。礼法も、外交も、古典も、祭祀も、帳簿も、覚えれば少しずつ身につきます。
問題は、婚約破棄です。
あれは覚えたところで、向こうからまた同じ顔でやってくるのですから。
一周目のわたくしは、怒鳴りました。恥ずかしいほど真正面から。
二周目は逃げました。靴擦れが潰れて血が滲んでも、廊下を走りました。
三周目では先回りをしたつもりで、今度は別の罠を踏みました。
四周目あたりから、泣く場所だけは選ぶようになりました。人前ではなく、机の前です。
五周目の夜、泣かないかわりに机を叩きました。右手が痛み、翌朝の署名が少し曲がりました。
六周目からは紙に書き始めましたが、最初の帳面はひどいものです。罵倒と涙の染みで、原因など半分も読めません。
ついでに、その夜の冷めきった紅茶の水面には、黒い目をしたわたくしが映っておりました。
何より気に入らなかったのは、そこに映る女が、まだ負けた顔をしていたことです。
七周目で、ようやく紙の端を破かなくなりました。
八周目で、泣く前に見出しを立てました。
九周目で、怒りを赤インクに移すと、思ったより字が読みやすいと知りました。
十周目で、やっと分かったのです。
わたくしは天才だから失敗しないのではありません。
失敗したあと、次のわたくしが同じ罠に足を取られないよう、場所と理由を赤で残す女なのです。
いつ、どこで、誰が何を言い、殿下がどちらへ逃げ、誰が横で黙っていたのか。
痛かったことも、恥ずかしかったことも、見落とした合図も、全部書きます。
忘れてやるものですか。
つまり、たいへん王妃向き。
ええ、そこは譲りません。
十一回も婚約破棄されてなお起き上がり、泣くだけで終わらせず、原因を並べ、殿下の逃げ道を洗い出し、次の対策まで考えている時点で、わたくしは十分に偉いのです。
王国は、せめて小さな銅像くらい建てるべきですわ。
もっとも。
十回分の結末を並べ、十一回目の婚約破棄を受けて、ようやく気づいたことがございました。
婚約破棄の場所も、理由も、周囲の顔ぶれも違いました。けれど、そのあとだけは同じ。
殿下は必ず、わたくしの前から逃げる。そして、戻ってこない。
問題は、殿下がわたくしを捨てることではなかったのです。
本当に面倒なことは、いつもそのあとに起きておりました。




