第五章 第一部:時を越えた告白
それは、会議と呼ぶほど仰々しいものではなかった。
しかし、その場に集められた顔ぶれは、基地内でもこの転移と歴史変異にかかわりの深い限られた者たちだった。 外山。伊藤。佐野。そのほか、小谷の村民との関わりの濃い数名の隊員たち。
彼らの視線が注がれる先に座っているのは――行き倒れとして保護され、今日までその正体を曖昧な霧の中に隠してきた男、日下部だった。
重苦しい沈黙が部屋を支配する。
誰も急かさず、ただ日下部が自らの意志で沈黙を破るのを待っていた。
「失礼します。――お待たせしました。連れてきました。」
「失礼します……日下部さんに呼ばれていると言われてまいりましたが……いったい何の話でしょうか。このメンバーはいったい。」
橋谷が宮本を連れて入室すると、日下部は破れた沈黙に乗じて切り出した。
「……皆さん、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」
日下部の声には、逃げ場を断った者の覚悟が滲んでいた。
「これからお話しすることは、到底信じがたい内容だと思います。客観的な証明も、今この場ですぐに提示することはできない。それでも――ただ黙って傍観していられる段階を、越えてしまいました」
外山は短く、重厚に頷いた。
「話してくれ」
日下部は深く、肺の奥まで空気を吸い込んだ。
「私は……あなたたちの時代の人間ではありません」
一瞬、室内の時間が凍りついたかのような空気が流れる。 驚愕の色は隠せなかったが、声を上げる者はいない。伊藤の視線は剃刀のように鋭くなり、橋谷は無言で日下部を見据える。宮本は、わずかに眉根を寄せただけで、その言葉の真意を測っていた。
「もちろん、この時代の人間でもありません……私は、未来から来ました。あなたたちのいた時代より、ずっと後の時代から」
再び、深い沈黙が降りる。
「元の時代での私は、研究所の技術員でした。研究内容は……“時間跳躍”。主に転移機器の条件変更と、それに伴う跳躍時間や対象範囲の関係、及びそれらのコントロールでした。私は技術員としてその研究を補助する傍ら、その責務として、時間跳躍による歴史への影響について研究していました」
日下部は、慎重に言葉を選びながら言葉を継いだ。
「ですが、あなたたちの時代にも、この戦国時代にも、目的があって来たわけではありません……事故でした。予期せぬ転移に巻き込まれて現代に飛ばされ、さらにそこで再度の事故が発生した……。結果として、皆さんを、この時代へと引きずり込んでしまったのです」
佐野が、小さく溜息を吐いた。だが、その唇が言葉を発することはなかった。
「今まで沈黙を守ってきた理由は、三つあります」
日下部は、指を一本立てた。
「第一に、自分自身が状況を完全に把握できていなかったこと。事故の全容、歴史への具体的な波及、そして元の時代へ帰還できる可能性。どこまでが事実で、どこからが私の推測なのか。それらを整理し、精査する時間が必要でした」
続いて、二本目の指を立てる。
「第二に……皆さんがこの時代に転移してしまった要因が私達にあること、そして私が“未来人”であることを明かした場合の、身の危険です。卑怯な自己保身であったことは、否定できません。申し訳ありません……」
そして、三本目。
「第三に、あなたたちよりも先の技術、先の知識を不用意に語ることで、歴史への干渉がさらに拡大することを恐れました」
日下部は、そこで一度言葉を切った。
「私は、最後まで身の上を隠して“傍観者”であるべきだと考えていました。事故に巻き込まれた被害者でありながら、皆さんを戦国という修羅場に引き込んだ加害者でもあり……同時に、歴史改変を加速させる“リスク因子”でもあるからです」
彼の視線が自然と宮本の方へと向いたが、そこに責めるような色はなかった。
「ですが――」
声のトーンが、わずかに重みを増す。
「これ以上の致命的な未来改変と、それに伴う甚大な人的被害が発生する可能性が……見えてしまった」
誰も、微動だにしない。
「だから、今、こうして話しています。誰が悪いかを断定するためではありません」
日下部は、真っ直ぐに外山を見つめた。
「ただ、“今、何が起きているのか”を正しく共有しなければ、取り返しがつかなくなると判断したからです」
静まり返った部屋の中で、外山が静かに口を開いた。
「……続けてくれ」
日下部は、深く、静かに頷いた。




