第四章 第三部:人の数だけの解釈
数日後、再び村人たちと衛生課員達とのやり取りがあった。また別の生薬が完成したらしい。
その日も宮本は、その様子を、少し距離を置いた場所から静かに見守っていた。
老婦の安藤はるが毅然と前に立ち、村人に向かって知恵を授ける。 傍らに立つ衛生課員がそれを補足し、細かな注意点を添えていく。 村人は真摯に聞き入り、最後には深く感謝の意を示して立ち去っていった。
(やっぱり、何も問題ないじゃないか!)
宮本の胸に、まず湧き上がったのはそんな思いだった。
はると衛生課は、目の前で困っている人々に手を差し伸べた。組織はその行為を是とし、役割を与えた。 そして結果として、村人の命と生活は、わずかに、だが確実に守られたのだ。
(あの場所に立っているのは、本来なら俺だったはずなんだ。俺が主張していた通りにもっと早く動いていれば、もっと早く、もっと多くの苦しむ人を救えていたはずなんだ)
今回、厳しいはずの司令から許可が下りた。
その厳然たる事実が、宮本の中で強固な基準へと置き換わっていく。
(薬草だろうと、現代の薬だろうと、本質は同じじゃないか)
痛みを抑える。
熱を下げる。
感染を防ぐ。
たとえ時代が違おうと、目的は一つだ。それは、目の前の人間をただ生かすための手段にすぎない。
――思考の触手は、医療の枠を超えて広がっていく。
工務課が所蔵する工具。 電動ドリル、グラインダー、タッカー。
あるいは、倉庫に積まれた毛布や防寒具。
それらはどれも、戦うための道具ではない。殺生のための力でもない。過酷な自然の中で生活を支え、凍える冬を越すための、ただの便利な道具に過ぎない。
(武器じゃない)
その言葉が、宮本の脳内で何度も激しく反芻される。
命を奪うことはない。 戦局を覆すような介入でもない。 ただ、困り果てた人間に、手助けとなる道具を貸すだけだ。 老婦と衛生課がやったことと、一体何が違うというのか?そもそもあれだって俺がずっと言っていたことだ。そして、結局俺が正しかった。だったらこれがダメなわけがない。
明確な上官命令違反ではない。禁じられているのは、あくまで“武器の提供”と“武力による介入”なのだ。
(線は……ここだ)
そう思考が辿り着いた瞬間、彼の中で曖昧だった境界線が、明確な形を帯びた。
「やっていいこと」と「やってはいけないこと」。 今回示されたその峻別。自分が引こうとしている線も、そこから決して逸脱してはいないはずだ。
宮本は、村の方角から静かに視線を外し、基地の奥へと歩き出した。
この時点で、彼の中で、彼に必要な理屈は、すべて完璧に揃った。
彼だけの理屈が、疑う余地もなく完全に整った。




