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捨てられた少女が願った光1(アルセラ視点)

「アルセラ、ごめんなさい……ごめんなさい」

「ううん……」


 凍えそうだった冬のある日、母親から謝罪されながら、私は知らない場所に捨てられてしまう。


 もちろん、それには理由があり、貴族が制定した税の改定が原因である。毎日、夜が訪れるたびに、両親が泣いていたのを知っていたため、私には彼等を恨むことはできなかった。


 まだ3歳の私が年齢の割に、精神がここまで成熟していたのは皮肉にも、残酷すぎる現実が私の成長を加速させていたのだと思う。


 何はともあれ、この先、どんな事に手を染めてても、私は1人で生きていくことを心に誓った。


 

ーーーー


「こらー!!盗むんじゃねぇ!!」

 ———ごめんなさいっ!!

「おいっっ!!クソガキっっ!!」

 ———ごめんなさいっ!!


 しかし、生きることを誓ったのはいいものの、現実は常に非情であり、3歳の私を雇ってくれる場所はどこにもない。そのため、私は生きるために物を盗んだり等、悪事に手を染め続けた。


ーーーー


 生きるため悪事を働いていたとはいえ、私は3歳である。最初こそ、年齢の情で暴力等をされる事はなかったが、景気も徐々に低下の一途を辿った事で、次第に周囲の目も厳しくなった。


 そんなある日、いつものように悪事に手を染めた事で私は周囲の大人たちに捕まる事となる。


「やっと、クソガキ、捕まえたぜ」


 そして、いつものように長時間の説教を受けるのか…と心で呆れながら、視線を上げて私を囲う大人達の方を見た。


 バンッ

「っっぅ!!」


 しかし、私を待っていたのはもっと残酷な結末だった。きっと、周囲の大人達の怒りが私に対して、爆発したのだろう。


 ついに、棍棒のような硬い何かを背中へ振り下ろされてしまい、あまりの激痛に声が漏れる。


「もう我慢の限界っーんだよ!!」

「きったねぇ…!!」

「こいつ、捨て子だろ!!それなら殺しても、大した問題はねえだろうよ!!」


 バンッバンッバンッバンッバンッバンッ


 その結果、まるで今までの鬱憤を晴らすかのように男達は私を殴りつけ続けた。


 そして、殴られるたびに、幼い身体のせいか、骨が軋むような音と瞬間的な痛みが発生するが、それだけでは終わらない。その数瞬後に、まるで全身をを火で炙られたのかと錯覚するほどの火傷のような痛みまで発生するのだ。


 それでも、私は罪悪感からだろうか、他の子供とは異なり、大きな声で泣き喚くことはせずに、ひたすら静かに終わるのを待ち続ける。


「ずっと反応ねえし、もう死んでんだろ」

「それもそうだな」


 その結果、男達は反応がない私に飽きたのか、勝手な事を言い放った後、どこかへ移動した。


ーーーー


 男達が完全にどこかへ移動したのを見計らい、私も移動しなければ……そう思い立とうとする。


 バタンッ


 しかし、思うように身体に力が入らず、地面に突っ伏す形となってしまう。


 ———私、死ぬのかな……貴族に奪われ、家族に捨てられ、死んだら楽になれる??


 襲いかかる過酷な現実に、最初は心が折れそうになった。


 ———違うだろ……!!私は生きると誓ったんだ…!!それにいい貴族だって…


 それでも、あの時の誓いを思い出して、淡い希望を胸に私は意識だけでも保ち続けた。


ーーーー


 ガゴッガゴンッ

 キキィィィン


 そして、私が激しい痛みに耐え続けていると、通りがかった馬車が停止した。


「……こんな幼い子にひどい傷です」


 そして、馬車から1人の女性が降りてきて近づいてくる。そんな女性に対して、最後の気力と言わんばかりに、視線を上にすると、女性は心の底から悲しそうな表情をしていた。


 ちなみに、女性の外見は赤色のリボンが特徴的なフリルと動きやすそうなスカート、頭には白色のベレー帽を被っている。そして、外見から考えると私よりも幾分も年齢が上の女性だろう。


「……………い……き……た………い」


 そんな女性を前にして、命の灯が消え失せそうな今の私でさえ、目の前の女性が私とは掛け離れた別世界の人間だと、瞬時に理解できた。


 それと同時に、これが人生の最後のチャンスだと思い、様々な事情を話そうと試みる。


 しかし、皮肉にも掠れた声しか出ずに、縋り尽くしかできなかった。


 あまりにも醜くて情けない醜態を晒す自分に自然と涙が溢れ落ちる。


 それでも、私は是が非でも生き残るため、周囲を気にせず、私は今の自分の願いをなんとか言葉にしながら、女性の靴へ手を伸ばした。


ーーーー

 

「アリスお嬢様、捨て子とはこういう者です。特に、この貴族の領地は…………」

「じっくりと見てください。薄く淡い純白の光がこの子を生かそうとしています」

「た、たしかに。光を纏ってますが…………」


 その結果、私の前でアリスお嬢様と呼ばれた女性と彼女の行動を止めようとする黒色のタキシード服の男性の執事の口論が勃発する。


 一方で私は自分の身体が限界に達したのか、悔しくも、自分の意識を手放すこととなった。


ーーーーー


「……………やっと、目が覚めましたか」

「あれ、わた……いたっ!!」


 目を覚ますと、意識を失う前に倒れていた私を心配そうにしてくれていた女性の笑顔があった。


 そんな不思議な状況に思わず、戸惑ってしまう。しかし、それも束の間、突如として私の全身に激痛が走り、大きな声を出してしまった。


「……自己紹介がまだでしたね。私はアリスです。そして、今日からここがあなたの家です」

「っっぅ!?…………………それよりも」


 アリスさんの話を聞いて、周囲を見渡すと私のいる部屋は木製で作られており、年季も経過しているみたいだ。しかし、皮肉な事に以前の私が暮らしていたボロボロの家よりもましである。


 そして、私はアリスさんに色々聞きたい事があるため、彼女へ話しかけようとした。


「まだ、痛みが引いていないようですね…。色々と疑問があるかと思いますが、まずは治すことだけに専念してください」


 しかし、咄嗟の言葉が思い浮かばず、そんな私の思惑を見抜いたのか、アリスさんによって、強制的に話が切り上げられてしまう。


 挙げ句の果てに、そのまま何も言わずに部屋から立ち去ってしまい、私は怪我を治るまで、色々とアリスさんからお世話になることとなった。

 

ーーーーー


 そして、アリスさんに危ない所を助けられた日から3ヶ月の月日が経過した。


 既にあの時の怪我は完治しており、現在はいつもの日課の掃除等に励んでいる。


 ちなみに、3ヶ月経過してから変化した事といえば、まずは『アリスさん』を『アリス姉様』と呼ぶようになった事だろう。


 それと『アリス姉様』の家が『セブンス王都』に拠点を置く大きな商会だったことくらいだ。


 もちろん、私が平和に過ごせているのも『アリス姉様』の紹介のおかげである。


 そんな大きな商会が資金を援助してくれるのは、才能の原石へ投資するためらしい。


「アルセラ、ここの埃が残ってます」

「アリス姉様、今行きます!!」


 現在は、いつものようにやり残しを指摘され、私はアリス姉様の元へ移動して埃を取る。


「完璧です。………そうですね。少し早いですが、買い物へ行きましょうか」


 そして、埃を取るとアリス姉様は私の頭を撫でながら、顎に手を当て買い物を提案した。


「アリス姉様、今日の晩御飯はなんですかー」

「さぁ…秘密です」


 そのため、アリス姉様が作る夕飯が楽しみなわたしは彼女に質問すると内緒にされてしまう。


 その結果、唇を尖らせながらも外出する準備をして、『セブンス王都』へ行く。


 そして、戻った後に彼女の料理を手伝い、一緒に寝転びながら夜を過ごす。


 きっと、将来は彼女の下で働くんだろうと勝手に思い描いていた。


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