告白の返事の行く末/デートの約束?
午前の『座学』を終えた後、あたし達はいつものように、屋上の方でお弁当を取る事となった。ちなみに、今日が特別休暇前の最終日のためか、いつも以上に豪華なお弁当のメニューだ。
まずは、ベーコンレタスサンドイッチ、鯛のポワレ、マッシュドポテト、スクランブルエッグに加えて、デザートのマカロンまで付いている。
だから、あたしはパタリーに心の中で感謝をした後、サンドイッチから口へ運ぶ事とした。
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「シンリー様、ディア様のすごーくだらしない表情を見てください」
「アルセラ様、分かってます…。私達にとってパタリー様は強敵です!!」
これこれ!!
マカロンと言えば、外側はサクサクッとしてて、中から甘さの海が押し寄せてくるんよ〜!!!!
他のメニューを食べ終え、最後のデザートのマカロンを口に入れ、心の中で幸せを感じていると、シンリーとアルセラがあたしの顔をチラチラ見ながら、小さな声で話している。
しかし、あたしはパタリーのマカロンに夢中になっていたため、内容までは耳に入らなかった。
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「「ジークマスター!!分かりました!!」」
「ディアの嫁1号、2号せいぜい励むといい」
あれれ??あの3人って犬猿の仲だったよね??もしかして、あたしがマカロンを食べてる間に寝取られちゃった!?!?
あたしが最後のマカロンを食べ終え正気に戻ると、なぜか、シンリーとアルセラがジークのことをマスターと呼び、やけに懐いていた。
「ちょっと、あたしのシンリーとアルセラに何かしたわけじゃないでしょうね??」
そんな2人の様子に嫌な予感がしたあたしはジークの方へジト目を送る。
「ディアの嫁1号、2号も苦労してんだな……」
「ジークマスター!!苦労しますが、あの天然さもディアお嬢様の魅力の1つです!!」
「ジークマスター!!これからも、『ディア様』の攻略テクニックを教えてください」
あたしがジト目を送っていたはずなのに、逆にジークから呆れられて、シンリーとアルセラはあたしではなく、彼の方へ同意をしていた。
一応、彼女達の言葉から寝取られたわけではなさそうだと分かって胸を撫で下ろす。
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「ジーク、2人に何を吹き込んだのよ」
「何、道端で子犬がお腹を空かせていたら、餌を与えたくなるだろう??」
「確かに、子犬なら餌を与えたくなるね?でも、シンリーとアルセラは子犬じゃないから!!」
しかし、ジークが2人に何かをした事は間違いなさそうなので、彼の方へ問いただす。そうすると、息をするかのように、シンリーとアルセラを子犬扱いしたので、大きな声で彼に抗議した。
「いいや。子犬と変わらない。なにせ、ずっと2人は『待て』の状態をしているのだろう??」
「そ、それはっっ……」
あたしはジークの反論に何も言い返せなくて、言葉が途中で途切れてしまう。なぜならば、彼の意図する事があたしには理解できたからだ。
「ディアお嬢様は『セブンス学園』中の男女問わない生徒達からすごく人気になりました。だから、私達は取られないか不安になっています」
「シンリー様の言う通りです。ディア様が本当に私達を想ってくださるなら、あの日の答えを出してくれないでしょうか??」
心のどこかで分かっていた。
3人の告白から逃げ続けていただけだと。
あたしは、ずっと、3人に甘えていたんだ。
シンリーとアルセラが消え入りそうな声と共に不安そうな表情で、あたしを見つめる。
そんな彼女達の不安そうな表情を見ていると、あたしの脳内に、あの時の3人からの告白が映像として、鮮明に思い浮かびあがった。
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『これが私の気持ちです…。だから、ディアお嬢様の気持ちが固まった時、私に告白の返事を返してくれるのを待ってます』
『ディア様、私は以前に友達からと言いましたが、今、訂正します!!私も返事を待ってます!!』
『………………僕も』
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あたし、何やってんだろ……。
レベルを上げて大事な人を守りたい……??
目の前の2人に、こんな表情させて……??
それと同時に、彼女達をここまで追い詰めていた事に、気づかなかった自分へ自己嫌悪をする。
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パチンッッ
「ディアお嬢様!?」
「ディア様!?」
だから、反省と自戒の意味を込め、あたしは自分の両頬を思いっきり、両手で叩く。
そうすると、先程よりも、更に不安そうな表情になったシンリーとアルセラがあたしの方へ、慌てて、駆け寄ろうとした。
しかし、あたしはそんな2人の前に腕を伸ばすことで制止し、彼女達の正面に自分の身体を向けて大きく深呼吸をする。
「あたしは特別休暇の後半は『交易会談』で忙しくなる!!!だから、特別休暇の前半で、あたしと1人ずつ、デートをしていただけませんかっっ!!!」
あたしは自分のスケジュールをシンリーとアルセラに伝えた上で、まずは目の前にいる2人へ両手を差し出して、デートを申し込んだ。
「は……ひぐっ……ううっ…よがっだでずぅぅ」
「……あっあっ……くぅっ…これは現実でずが」
あたしがデートを誘った事に対して、シンリーとアルセラは最初こそ、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情となっていた。
しかし、その数瞬後、安堵したかのように晴れやかな笑顔と共に、ポタポタと雫が溢れながら、あたしのデートへ了承をしてくれる。
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「返事が遅くなってごめんね……ごめんね」
「いいえ。ディアお嬢様、私達の方こそ、待てなくてごめんなさい」
「ディア様、本当は、私達が返事が来るまで耐え続けるつもりだったんです!!力不足でした!!」
2人が落ち着いた後、改めて、あたしはシンリーとアルセラに抱きつきながら、彼女達へ謝罪する。そうすると、シンリー達の方もあたしへ謝罪してきたため、謝罪合戦が生ずる事となった。
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「ジーク様、わたくしの大事な親友の関係を助けてくださり、感謝いたしますわ」
「なに、見るに耐えなかっただけだ」
少し離れた先では、サラがあたしの代わりに、ジークへ感謝を伝えており、彼はサラの言葉に、ぶっきらぼうに返答する。
だから、あたしはそんな2人の話を耳にしつつ、敢えて心の中で感謝を留める事にした。
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「そろそろ、魔法演習場へ向かう??」
謝罪合戦を経て、シンリーとアルセラと仲直りする事ができた。それに加えて、そろそろ時間も、いい頃合いだと判断したあたしは、みんなに屋上から魔法演習場へ移動する事を提案する。
「そうだな。軽く合格するとしよう」
「わたくし、絶対合格しますわよ!!」
ジークは余裕そうな表情をしており、サラは魔法の発動さえ失敗しなければ、問題ないはずだ。
「サラお嬢様、その意気です!!」
「サラ様、不合格の場合、分かってますね??」
その後、サラが『犬』に成り下がった事により、その場で泣くか、遠くを眺めてばかりのウィスさんが珍しく目を輝かせながら、応援する。その一方で、アルセラがサラに圧力をかけていた。
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「ディアお嬢様、『デート』の時にいい返事を頂ける、それでいいですか??」
「……………うん。《《基本的には》》……ね」
屋上から魔法演習場へ移動する直前、満面の笑みを浮かべたシンリーからあたしに、誰にも聞こえないような小さな声で質問をされる。
だから、あたしは彼女の質問に対して、嘘偽りない言葉で返答した。




