パーティーを終えて3ヶ月後……
「ディアお嬢様、おはようございます」
「天使………?」
「もうっ…!!」
『祝勝パーティー』を終えてから、約3ヶ月の日々が経過した。色々と変化した事はあったが、変わらない事もある。
それは、あたしの顔を上から覗き込むシンリーの満面の笑みであり、この世界に転生してから通算150回目のやり取りだ。当然のように、あたしは、いつもの如く彼女へ抱きついて甘える。
「ディア様、私にも来てください!!」
「次はアルセラに行くねー」
そして、シンリーに甘えていると、アルセラが自分の両腕を差し出して、あたしの名前を呼んできたため、流れ作業のように、彼女にも甘える。
「………………ディアお嬢様、僕の方も」
「はーい。パタリーシェフもね」
「………………ダメ。僕はパタリー、やり直し」
「パ、パタリー…」
「……………よろしい」
アルセラに甘えた後、扉の方からあたしの名前を呼ぶパタリーの方へ移動して彼女にも甘える。
ちなみに、『祝勝パーティー』の日以降、あたしはパタリーシェフから、『パタリー』と呼ぶようにお願いされていた。しかし、3ヶ月経っても、なかなか癖が治らないままである。
その度に、パタリーからやり直しを受ける羽目となっていた。
他に、朝のやりとりで変化した点でいえば、アルセラもパタリーもあたしの名前を呼ぶようになった事だろう。以前は、シンリーに甘えているあたしをアルセラ達から凝視されていたため、以前よりも幾分と彼女達へ甘えやすくなった。
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もちろん、この3ヶ月間、休みの日にはイースト村、ウェスト村、ノース村、サウス村を視察したり、平日ならばセブンス学園が終わった後、シンリー達の手を借りつつ、闇魔法も鍛えていた。
『Lv93
名前:ディア・ベルンルック
称号:3年以内に70%死亡/ベルンルック領の次期女傑/ヒロインルート/主人公闇愛/派閥結成/運命逆転
HP:7000
MP:15000
扱える闇魔法:ダークフレイム(特大)、ダークヒール(特大)、ダークシールド(特大)、ダークセイバー(特大)、ダークガードロス(特大)、ダークアタックロス(特大)、デストロイダークハンマー(特大)、ダークバインド(大)、ダークサモン
通り名: 小麦叩きの公爵令嬢
引きこもり公爵令嬢
感謝の公爵令嬢
皇太子殿下の恨みを抱かれる令嬢
3枚卸の公爵令嬢
正義の悪役令嬢
料理人の公爵令嬢
ヘタレの公爵令嬢
大号泣の公爵令嬢
狙われた公爵令嬢
馬に愛され公爵令嬢
ハーレム公爵令嬢
コミュ障解決の公爵令嬢
友達想いの公爵令嬢
道化師から脱した公爵令嬢
手のひらクルーの悪役令嬢 』
その結果、あたしのステータスはとんでもないことになっている。
ちなみに、基本的に覚える魔法はレベル50台でほぼマスターしていたようで、それ以降に覚えた闇魔法は2つしかなかった。
『ダークバインド』…自分よりレベルが下の相手の行動を一定時間封印
『ダークサモン』…闇の力を持つ者と契約成功で行使が可能
そのうちの『ダークサモン』は扱いに困っていて、覚えたはいいものの、放置している。
それにしても、せっかく93レベルにまであげたものの、どうやら、レベルは死亡確率に直結しないらしい。
一応、3ヶ月前と比較すると10%減っているように見えるが、それは『称号』のおかげだろう。
ただ、あたしがレベル上げに尽力したのは『ハルデア皇大使殿下』の時のような大事な人達を守るためだから、気にしないことにした。
「…………………ディアお嬢様、朝食、冷める」
「ああっ、パタリーごめんね。今行く」
「…………………うん」
またもや、あたしは、自分のステータスの分析に夢中になっていたらしい。
結果、パタリーから注意されてしまい、慌ててあたしは2Fに移動して朝食を取ることにした。
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2Fに移動してテーブルの方を見ると、どうやら、今日の朝食のメニューはホットドッグとオニオンスープとサラダらしい。
そんな当家のシェフ達が用意した贅沢な幸せを心の中で感謝をする。
それと同時に遅刻しないように、時間を気にしながら、急いで口へと運んでいった。
「……………ディアお嬢様、お弁当とクッキー」
「うっ……パタリー、いつもごめんね」
「……………夜、楽しみ」
あたしは朝食を食べ終えると、パタリーからお弁当と大量のクッキーの袋を受け取る。
その後、シンリー達と3Fのドレスアップルームへ移動する事となった。
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「ディアお嬢様、今日は桜色にしましょう」
「うん。お願い」
そして、いつものように、シンリーにドレスを選んで着せてもらった後、アルセラ達を待ち、ベルンルックの屋敷へと出る事となる。
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ベルンルックの屋敷を出た後、アルセラと共に、愛馬の『ホープ』と『サクセス』の挨拶をしながら、彼らの毛並みを堪能する。
その次に、あたし達はロンとアースがいる馬車へと乗り込む事となった。
「ディアお嬢様、おはよう。また、遅刻ギリギリかよ。まっ、俺達に任せてくれ」
「あははは、ディアお嬢様、任せてー」
あたしがロンとアースの馬車に乗り込むと、いつものように彼等から呆れられてしまう。
「アース、ロン、いつもありがとう!!」
ただ、そんな状況なのに、『任せて』と言ってくれた彼らに感謝を伝える。
ガララララ……
その後、あたし達の馬車は『セブンス学園』へ向かうこととなった。
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「到着だな…」
ロンがポツリと呟いた後、いつものように『セブンス学園』の校門付近に馬車が止まる。
きっと、『祝勝パーティー』以降で変わった点があるとすればここだろう。なんと、あたし達の乗る馬車が停止すると、周囲には『セブンス学園』の生徒達が集まってきたのだ。
「ディアお嬢様、本当に貴族ってのは……」
「あははは、これに関してはロンに同意だねー」
ロンとアースが毎度の如く、呆れたかのような視線を周囲の生徒へ向けている。
「ロン、アース、ごめんね。んじゃ降りるよ」
あたしは、そんなロン達に謝罪した後、シンリー達と共に馬車から降りる事となった。
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「「「「ベルンルック公爵令嬢様、ご機嫌よう」」」」
馬車から降りてくると、あたしの方にクラスや学年問わず、生徒達が集まり、挨拶をしてくる。
「皆様、ご機嫌よう」
3ヶ月前までは、陰口等が言われ放題だった。それなのに、『ハルデア皇大使殿下』が休暇し続けている事も相まって、『ベルンルック』派閥に取り入ろうとする貴族達が続出したのだ。
このような事態が生じた理由として、大きな要因として幾つかある。
その中で、最も大きいのは身分差を気にせず、サラを守ろうとした事らしい。
そのため、子爵家や男爵家の生徒達を中心にあたしの人気が上昇したそうだ。
ただ、あたしから言わせてもらえれば、あたしの親友の『サラ』だから守ったのである。そこに、彼女の出自は全く関係ないと強く言いたい!!
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「フランソワ伯爵嬢、以前、頂いたチョコレートのお礼として、このクッキーを渡したいんですけど、受け取ってくれるかしら??」
「ベルンルック公爵嬢の専属シェフ様が作ってくださったのでしょうか??」
そんな中、あたしの付近に集まっていた生徒の中から、たまたま用があったフランソワ伯爵嬢を発見した。だから、彼女にクッキーの袋を渡す。
あたしがフランソワ伯爵嬢にクッキーを渡した理由は、ほんの少し前に彼女から美味しいチョコレートを貰ったたからである。
もちろん、あたしはフランソワ伯爵嬢と絡んだ事もなければ、クラスも異なっている。
それなのに、あたしが彼女からチョコレートをもらえた理由として、当家の『祝勝パーティー』以降、なぜか『セブンス学園』中でパタリーの料理が美味しいと、広まる事となったのだ。
だから、あたしがクッキーの袋を渡したフランソワ伯爵嬢も噂を聞いた1人だったのだろう。
「ええ…」
そんなフランソワ伯爵嬢に、パタリーのお手製だと伝えると彼女は目を輝かせて喜んでいた。
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「フランソワ伯爵嬢が羨ましいですわ」
「わたくしも何か贈り物を贈ろうかしら」
「当家の名産はワインか……くっ…」
フランソワ伯爵嬢が喜んでる姿を見た他の生徒達が羨ましそうな表情をする。
「えっと……その、数に限りはありますが、よければどうぞ…」
その結果、あたしはパタリーにあらかじめ多く作ってもらっていたクッキーをあたしの付近にいた生徒達へ配っていく事となった。
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「そろそろあたしは、教室へ行かなければならないので、お先に失礼致します」
「まぁ、もうそんな時間ですか?」
「ベルンルック公爵嬢様の良さをもっと早くに知っていれば……マンドール子爵嬢が羨ましい!!」
「あんな王子に現を抜かしていたなんて……」
あたしはクッキーを配り終えた後、近くにいるシンリーとアルセラから漆黒のオーラを感じとり、即座に切り上げようとする。
正直な事を言えば、『ベルンルック』の派閥はジークやサラ達以外入れるつもりはないし、陰口を無視していた彼等なんて興味もない。
ただ、彼等に敵対行動を取ると面倒なことになりそうなので、ご機嫌取りをしているだけだ。
だから、あたしは彼等から逃げるかのように、人気のない場所へと移動をした。
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「「ジー………」」
移動した先では、シンリーとアルセラからジト目を受ける事となる。最近は毎日のように、このやりとりが続いているような気がした。
「シンリー、アルセラ、ごめんね。でも、いつも説明してるでしょ??」
だから、あたしは謝罪をした後、シンリー達の方へ確認を取る。
「ディアお嬢様、頭では理解できても、絶対に納得はできません!!正直に言いますが、私は彼等にされた仕打ちを絶対に許しませんから!!」
「私もシンリー様と同じく、正直に言いましょう!!あんな奴らにディア様の愛らしい笑顔が少しで向けられると思うと気が狂いそうです!!」
あたしだって、陰口のことを許してないし、シンリー達の気持ちは1番わかるけども……!!
シンリー達に心の中で同意しつつ、嫌でも、貴族社会で歩んでいかなければならない歯痒さを感じながら、2人を全力で宥める事となった。




