『仲間』『ドレス』『スピーチ』
「ようこそ、ノース村へお越しくださった。『ベルンルック公爵様』と夫人、それと『ベルンルックの女神』様の御一行」
以前と変わらない様子で、入り口付近へラスタ村長と護衛達が、あたし達を出迎えてくれる。
「ラスタ村長、その呼び方は勘弁してください」
「ディアお嬢様、俺はディアお嬢様を認めてる」
確かに、初対面の時はあたしの事をかなり疑って挑戦的な姿勢を示していたが、今の彼は、あたしに温和な笑みを浮かべている。
「そ、それは嬉しいんですが…」
「他の村でも聞いただろうが、『ノース村』も、『ベルンルックの女神様』のためなら喜んで、力を貸すんだがな??そう言えば、受け取ってもらいたい物があるんだ。ちょっと来てくれ」
ラスタ村長に言われて、あたしはディブロお父様やステラお母様と視線を合わせる。
そして、ディブロお父様達が笑顔で縦にこくりと頷く様子を見たあたしは、ラスタ村長の後に着いていく事となった。
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ラスタ村長の後へ着いていくと、以前に訪れた作業場の方へと招かれる事となった。
「ディアお嬢様を連れてきたぞー」
「「「「おおぉぉぉぉぉ」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチッッッ
ラスタ村長が大きな声を出した瞬間、作業をしていたノース村の人達から大きな歓声と共に拍手が同時に湧き起こる。
「ディア様は本当に慕われてるんですね」
「私たちの愛するディアお嬢様ですからね」
「………………………朝飯前」
なぜか、あたしの後ろで控えている3人がドヤ顔している事が気になりつつも、とりあえず、ノース村の方々へ手を振る事にした。
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「ディアお嬢様、それじゃ、こっちへ来てくれ。アンリエッタ、例のものを」
「ラスタ村長、お待ちを」
アンリエッタさんがラスタ村長から言われて、持ってきたのは、上半分が濃い青色で、下半分が透き通る水色で構成されたドレスだった。
「俺達は『イースト村』や『ウェスト村』と違って、『ノース村』は、中々贈り物がしにくくてな…。でも、ディアお嬢様が『セブンス学園』へ入学したって聞いたから、作っていたんだ」
ほんの少し、ドレスに触れただけで、生地が高級な物だとすぐに理解できる。
だからこそ、こんな素敵なドレスをあたしが貰ってもいいのか、不安になった。
「ディアちゃんだけ羨ましいわ!!ラスタ村長、この素材は『絹』でしょう?」
「ベルンルック公爵夫人、その通りだ。通常、服の材料はノース村に生えてる『麻』や『綿花』だ。ただ、『クワコ』って極秘裏に管理している虫が吐く『糸』からも、服はできるんだ」
てっきり、ステラお母様は食事にしか興味がないと思っていたが、ドレスにも拘るらしい。
あたしがラスタ村長から頂いたドレスを羨ましそうに凝視している。
「やっぱりそうだったわ!!稀に『セントラル地区』でオークションがありますもの。落札しようとする度に、何度も敗北をしましたわ!!」
「かなり希少な物でしてね…。その、今より、『クワコ』の増産が成功しましたら、ベルンルック公爵夫人にも必ず、お渡しいたします」
ステラお母様はラスタ村長の言葉を聞いて縦にこくりと納得したらしい。
「それで、ディアお嬢様、お渡ししたドレスを着て、みんなの前でスピーチをしてくれないか?」
「え?ディブロお父様じゃなくて?」
「『ベルンルックの女神』様の言葉がいいのさ。アンリエッタ、試着室へ連れて行って欲しい」
ラスタ村長の返答に困惑している間に、なぜか、あたしがスピーチをする事に決定し、そのまま、試着室に連れて行かれる事となった。
「とりあえず、シンリー、あたしの着ているドレスを預かって欲しいの」
「かしこまりました。ディアお嬢様、私がきちんとお預かりしますね。すーっっ、はーっっ」
「シンリー様だけずるいです!!」
「……………………僕も」
今、着ている緑色のドレスをシンリーへ預けた後、あたしはアンリエッタさんから頂いた『水色の煌びやかなドレス』へ身を包む。
しかし、あたしが着替えている間に、シンリーがあたしの着ていた服の匂いを嗅いでいた。
「シンリー、アルセラ、パタリーシェフ、お願い。アンリエッタさんの前だけはやめてっ!!」
シンリー達の行動に困惑するアンリエッタさんの表情を見た瞬間、あたしは3人へ涙ながらに、懇願した結果、控えてくれる事となる。
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「苦労してるんだねぇ…」
「……ええ」
試着室を移動する直前、あたしは、アンリエッタさんから、同情されつつ、戻る事となった。
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あたしが元の場所へ戻ると、ラスタ村長が立っていた付近に、先程まで作業をしていた100名を超えるノース村の人達が一箇所に集まっている。
「せっかく、俺らの村に訪れてくれた『ベルンルックの女神』様から、スピーチを聞くとしよう」
パチパチパチパチパチパチッッッ
ラスタ村長の提案後、作業場内に、盛大な拍手が湧き起こる。
そして、他人事のように、ディブロお父様やステラお母様、ロンやアース、護衛兵の方達までもが、ノース村の人達に混じって拍手をしていた。
湧き起こる拍手を見て、スピーチから逃げられないと悟ったあたしは、深呼吸をした後、最初に集まったみんなへ挨拶することを決意した。
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「ラスタ村長より、ご紹介に預かったディア•ベルンルックです。あたしは、別に凄い事をした訳ではありません。ただ、単に働いてるみなさんへサンドイッチを振る舞っただけです」
正直、『ノース村』ではやる事がなかったから、サンドイッチを作ったのは事実だ。だから、あたしはそのままの想いを彼等に伝える。
「でも、あたしが必要とされているようで、とても嬉しかったです!!えーと……その、実は最近、あたしは『セブンス学園』で『魔王の生まれ変わり』って呼ばれていて落ち込んでました!!」
挨拶をしたものの、以前の『サンドイッチ』以外の話題が見つからず、あたしは、無意識のうちに『セブンス学園』の出来事を話してしまった。
「戦争だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「俺達の女神様になんてことぉぉ」
「やってやるわ!!」
その後、『しかし、皆様からもらったドレスのおかげで元気が出ました』と続けようとした瞬間、なぜか物騒な事態に発展する。
「ゴホンッ、『公爵令嬢のメイド騎士』のシンリーです。ディアお嬢様は平和を望みます。きっと、皆様が1番よく知っているでしょう??だから、見守っていただけないでしょうか??」
自分で撒いた種とはいえ、この場をどう収めようかと考えていた所、シンリーが咳払いと共に、大きな声で『ノース村の人達』へ問いかける。
「初めまして、私はディア様の親友のアルセラです。ディア様は、誰よりも優しいですが、少し抜けてる所があります。きっと、今回の話もこんな事態になると思ってなかったと思います」
そして、シンリーの後にアルセラが続いた。彼女の話を聞くと、あたし、ディスられてない?と思いながらも、縦にこくりと頷いておく。
「………………初めまして、僕はパタリー。ディアお嬢様の専属シェフ。でも、ディアお嬢様に助けが必要になれば、みんなの力を貸してほしい」
パチパチパチパチパチパチパチパチッッッ
最後にパタリーシェフの願いで締め括られることとなり、盛大な拍手が湧き起こる。
結果から言えば、本来、あたしのスピーチのはずが、シンリー達に出番を全て取られてしまう事となった。ただ、嫌な気持ちはなく、むしろ、あたしは、隣のシンリー達が頼もしく見えた。
「「「うぉぉぉぉぉ、任せろぉぉぉォォ!!」」」
「その時こそ頼って欲しいわ!!」
「あははは!!任せてー!!!」
そして、盛大な拍手の後、護衛兵やノース村の人々を中心に、大きな歓声が生じる。
そんな彼等にあたしも、大きな声で感謝を伝えた後、あたし達はノース村の作業場を退室した。
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「ディアお嬢様、今日は助かった」
「ラスタ村長、あたしはうまくスピーチができませんでした。お礼ならこの3人へ」
あたしの言葉に頷いたラスタ村長が、シンリー達の方へ頭を下げる。
「ベルンルック公爵様、これが俺達、ノース村の回答です。俺達はいつでも『ベルンルックの女神』様の味方ですから」
「ラスタ村長、感謝する」
ラスタ村長とディブロお父様の話を聞いていると、最後に、彼らは握手を交わした。
「それで、ディアお嬢様の事だから、次はサウス村へ行くのだろう?」
「はいっ!!ラスタ村長、ノース村の人達に感謝と、また遊びに来ることをお伝えください」
「ディアお嬢様達ならいつでも歓迎だ」
最終的に、あたし達は見送ってくれるラスタ村長と会話を交わした後、ロンとアースが待つ馬車へ乗り込んだ。そして、そのままディブロお父様の馬車の後、あたし達の馬車も出発した。
それと同時に、あたし達はラスタ村長の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
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視察編、後1話で終了です
明後日にはセブンス学園に戻ります。
お待たせしました…




