『自信』『仲間』『温もり』
ガララララ……
「どうして、『イースト村』も『ウェスト村』もあたしなんかのためにそこまで……」
『ベルンルック』の屋敷へ帰る馬車の中、リア村長の言葉を思い出す。
あたしといると、いつ、『バッドエンド』に巻き込まれてもおかしくない。そのため、あたしとしては『イースト村』も『ウェスト村』も普通に接してくれるだけで十分だったのだ。
だから、あたしはウェスト村の別れ際に言われたリア村長の言葉を思い出して、パタリーシェフの膝元に座りながら、小さな声でポツリと呟く。
「ディアお嬢様、小さな声でつぶやいても、しっかりと聞こえてますからね」
「それより、ディア様は平民が貴族をどう思うか、ご存知ですか??」
どうやら、あたしの漏らした小さな声はシンリー達にしっかりと聞こえていたようで、シンリーからジト目をされてしまった。
その直後に、アルセラから唐突な質問を受け、あたしは彼女の質問に対する回答を考える。
「アルセラ、あたしを舐めてはだめだよ!!答えは『畏怖』でしょう?」
少し経過した頃に、あたしは『理不尽の権化』だった自分の姿が頭に浮かんだため、アルセラの質問の回答が『畏怖』だと確信して答えた。
「…………………外れ」
「なっ……!?嘘…!?」
その結果、パタリーシェフから外れと言われ、回答に自信があっただけに、驚きの声が漏れる。
「ディア様、正解はですね…。もちろん、例外はありますが、平民の大半は『憎しみ』の感情を抱いています。そして、私自身もその1人です」
「…………そうだったんだ」
あたしが知っているのは前世で『セブン⭐︎プリンセス』をプレイしていた時の『セブンス学園』の情報だけである。だから、アルセラから聞いて、あたしは初めて知る事となった。
もちろん、彼女が貴族に抱いている感情は理解している。しかし、それがアルセラだけでなく、他の平民も同じだと言う事は知らなかった。
「ディア様、私はまだ『イースト村』と『ウェスト村』しか訪れていません」
「それは、そうだね…」
「でも、きっと『サウス村』の人達も『ノース村』の人達も、ディア様を慕っているでしょう」
慕われているかどうかならば、慕われている方だろう。ただ、あたしの事をよく思わない人もいると思い、彼女の言葉へ首を傾げる。
「ディア様、私はこんなに平民から慕われている貴族を初めてみました」
「それは、大袈裟だよ…」
それでも辞めようとしないアルセラのストレートな褒め言葉に対して、思わず、照れてしまう。
「いいえ。もし、ディア様に自信がないならば、『ディア様が誰よりも素晴らしい貴族』だと、平民である私が何度でも言いましょう」
それでも、アルセラはあたしを逃がさないと言わんばかりに、視線を合わせて褒めてくる。
「俺も護衛対象がディアお嬢様だから、毎日、笑いながら、訓練ができているな」
「あはははは!!本当にきついよねー」
「…………僕も、ディアお嬢様だから支えたい」
「ディアお嬢様、私は生まれ変わっても、ディアお嬢様におつかえしたいです」
ロンとアース、パタリーシェフ、シンリーがアルセラに続いて、あたしの事を絶賛した。
もちろん、絶賛されるのは嬉しいが、あたしは恥ずしさが自分のキャパシティをオーバーしてしまい、みんなの顔を直視できなくなる。
それでも、あたしが認めるまで辞めないつもりなのか、未だにシンリー達が褒め続けてきた。
「わ、わかったから。あたしが悪かったぁぁ。自信を持つからっっ」
結局、あたしが涙ながらに、大きな声で、みんなに懇願した末に、あたしに対する『褒め殺し』はストップすることとなった。
「なんつーか……その、最初のシンリー隊長のディアお嬢様を褒めたセリフ、ずるくね!?」
「あははは!!ロン、またシンリー隊長から怒られるよー??あ、でも、気持ちは分かるなー!!」
「シンリー様のアレは、反則だと思います」
「……………………ずるい」
「な、なにがですか!!」
ロンの言葉を皮切りに、今度は、シンリーが標的になったらしい。
その結果、ベルンルックの屋敷へ戻るまで、馬車内では激論が繰り広げられる事となった。
ーーーー
「「「おかえりなさいませ。旦那様、奥方様、ディアお嬢様、親衛隊の皆様、アルセラ様」」」
ベルンルックの屋敷へ戻ると、あたし達はいつものように、メイド達の挨拶を聞く。その後、ディブロお父様達と合流をして、そのまま、屋敷のエントランスへと入り、自分の部屋へ移動した。
ーーーー
「んーっ……疲れたっ…!!もう寝よう!!」
「今日も私は、優しいのでディアお嬢様の隣をお二方に譲ろうと思います」
「シンリー様、寛大な心遣い、ありがとうございます。しかし、今日は私が譲りましょう」
「………………だめ、僕が譲る」
相変わらず、あたしの寝る場所に命を賭けてるのか?とツッコミを入れたくなるほど、シンリー達の間で歪な『譲り合い戦争』が発生する。
「今日はみんなに褒めてもらえて嬉しかったから、手を繋いで寝ようと思ったんだけどなー」
明日も『ノース村』と『サウス村』の視察が残っているため、シンリー達の『譲り合い戦争』を長引かせたくない。そのため、あたしは『手を繋ぐ』という誰得オプションを付ける事にした。
「ディアお嬢様と手を…!?寝てる間に…!?」
「ディア様と恋人繋ぎで起きるまで…!?」
「……………………うーん、悩む」
その結果、予想外にシンリー達が食いつき、なぜか恋人繋ぎという条件まで、自動的に付与された上で、彼女達はどちらがいいか、悩み出す。
ーーー
「あの…!!明日に備えて、あたしは寝たいの!!だから、じゃんけんで勝った人があたしの下ね!!」
暫くの間、3人の悩む時間が続いたため、痺れを切らしたあたしがじゃんけんを提案する。
その結果、シンリー達の寝る場所が強制的に決定する事となった。
こんな事になるならば、最初からじゃんけんの強行を提案しておけば……と後悔したものの、後の祭りで虚しくなるため、気にしない事にする。
ちなみに、じゃんけんの結果は、パタリーシェフが勝ったため、彼女があたしの下で寝る事となり、シンリーとアルセラが隣で寝る事となった。
「じゃあ、電気消すね??」
カチッ
あたしは3人の頷く姿を確認した後、電気を消して、パタリーシェフの体へ乗っかる。
「あの……重くない…??」
「………………軽くて、柔らかくていい匂い」
「そ、そこまで聞いてない!!」
いつもクールなパタリーシェフが興奮気味にあたしへ伝えてきた。
彼女の言葉を聞いた瞬間、あたしは、恥ずかしくなり、パタリーシェフに大きな声で抗議する。
「ディアお嬢様、手が寂しいです」
「ディア様、まだですか?」
「えっと…その……」
暗闇の中、あたしは、シンリーとアルセラの手を見つけて、お互いの指と指の間が挟まるように、2人の手と恋人繋ぎをする。
2人と手を繋ぐと、いつもよりも温かく感じると共にあたしの中で安心感が芽生えた。
「ディアお嬢様、これも悪くないですね……」
「ディア様、最高ですっ!!」
「悪くないかも…」
「……………………羨ましい」
最終的に、あたしは、パタリーシェフを下に、アルセラとシンリーと恋人繋ぎしたまま寝るというラブコメ漫画でも、なかなかお目にかかれない状態のまま、夢の世界に堕ちる事となった。
ーーーーー
「おはようございます。ディアお嬢様」
「天使……?」
「もうっ!!」
まずは、目を覚ますと、あたしの顔を上から覗き込む天使がいる。この世界に来て、通算64回目のやり取りだ。その後、あたしがシンリーに抱きついて甘えるまでが朝のセットである。
「ディア様…私の方にも」
「ん……ゅ……」
「…………………僕も」
ちなみに、アルセラとパタリーシェフが来てからは、シンリーに続いて、彼女達にも、抱きついて甘えるまでがセットだ。その後、あたし達は3Fのドレスアップルームの方へ移動する。
ーーーーー
「ディアお嬢様、そうですね…。今日は緑色のドレスにしましょう」
「分かった!!いつもシンリー、ありがとう」
あたしはシンリーに感謝を伝えながら、彼女の用意してくれた緑色のドレスへ身を包む。
「シンリー様、私はどれがいいと思いますか?」
「アルセラ様は黄色のドレスでいいかと…」
「いいですね…!!ありがとうございま!!す」
前回は、シンリーが、アルセラのドレス選びに迷っていた様子だが、今回はすんなり決まったらしい。そして、相変わらず、パタリーシェフはメイド服で視察に着いてくるつもりのようである。
その後、ロンとアースが待っているであろう馬車の方へ移動するため、あたし達は、そのまま、ベルンルックの屋敷を出る事となった。
ーーーー
「『ホープ』、『サクセス』、体調は大丈夫?それといつもありがとうね?」
「『ホープ』様、『サクセス』様、いつもありがとうございます。よろしくお願いしますね?」
「「プルルルルッッ」」
あたしとアルセラはいつものように『ホープ』と『サクセス』へ挨拶をした後、彼等の頭や首やタテガミを存分に堪能する。
そして、一通り堪能した後、ロンとアースが待つ馬車の方へと乗り込んだ。ちなみに、昨日と同様、あたしはパタリーシェフの膝元へ座った。
ーーーー
ガララララ……
「ロン、アース、待たせたかな?それと、いつもありがとうね。昨日と同じように、ディブロお父様の馬車について行ってくれるといいよ」
「ディアお嬢様、もちろんそのつもりだ。それよりも、いつも、俺達や馬達に感謝しているが、別に俺達はしなくても、気にしないぞ?」
「あははは!!確かに、気にしないねー!!」
ロンとアースはあたしの事を思って言ってくれてるのだろう。確かに、あたしは、常に周囲へ感謝を伝えている自覚がある。でも、感謝を辞めてしまったら、極論ではあるが、この世界の『ディア•ベルンルック』が死ぬのと同じ意味だ。
「ううん。あたしはそう言う風に生きるって決めたの。だから、心配してくれてありがとう」
「まぁ、俺達も悪い気はしないけどよ」
「あははは!!そうだねー」
だから、ロンとアースにあたしなりの考えを伝えた後、気遣ってくれた事に感謝をする。そうすると、彼らもすぐに、あたしを理解してくれた。
「ディアお嬢様は誰よりも優しいですから」
「…………………その通り」
「だから、ディア様の事が大好きなんです」
ロンとアースのやりとりの後、シンリーがあたしを褒める。次に、パタリーシェフがシンリーに同調して、最後にアルセラがあたしへ最後に告白するという謎のコンボが発生した。
ちなみに、シンリー達は、連携が決まったと言わんばかりに、笑顔で頷き合っている。
しかし、彼女達の告白の回答を保留にしているあたしとしては、笑えない状況である。
「うっ……その決まったら答えを言います」
あたしは恥ずかしさを隠しながら、3人へ伝えた。そうすると、彼女達が頬を膨らます。
「ディアお嬢様、私達はいつまでも、待ちますが、告白が1度だけとは言ってませんから」
「………………それくらい大好き」
「ええ、ディア様を誰よりも愛してます」
「グハァァァッッッ」
デ、デジャヴ!?
2度あることは3度ある!?
またもや、同じようにシンリー達があたしへ告白してくる。しかし、もし、仮にあたしが彼女達と付き合うならば、まず、『ハルデア皇大使殿下』の問題解決は欠かせないだろう。
もちろん、それだけではない。きっと、あたしも彼女達もハッピーエンドを迎えるためには、『障害』を乗り越えなければならないはずだ。
だからこそ、シンリー達へどう説明しようかと頭を悩ませていると、ロンが吐血する。
その瞬間、みんなの意識がロンへ行き、あたしは彼のおかげで難を逃れる事となった。
当然、この好機を逃さまいと考えたあたしは全力で雑談の方に、全力で話を切り替える。
その結果、『ノース村』へ到着するまでの間、あたし達は、雑談に華を咲かせる事となった。




