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『2つの迷い』と『取り合い』

「ディアお嬢様、起きてください」

「んーっ…もうちょっと…だけ……」

「ディア様の分が冷めてしまいますよ…」

「はっ!!」


 アルセラの言葉であたしは目を覚ます。そう言えば、つい先程まで、あたしはシンリーの膝元を借りて、眠っていたのだ。


「ディア、よく寝れたかい?」

「ディアちゃん、ほら席に」

「………………僕も手伝った」


 既に食卓には豪華な刺身の盛り合わせや海鮮鍋等、ありとあらゆる海の幸が並べられている。


 そんな料理を目の前にすると、寝起きにもかかわらず、不思議と食欲が湧き出てきて、あたしはすぐに用意されていた自分の席へ着席した。


「ふぇっふぇっ……それじゃ食べるとするかえ」

「リアお母さん、少し待ってくれ。初めまして、『ベルンルックの女神』様、僕はシセル、息子のスイレンと仲良くしてくれて感謝している」

「リアお母さんはせっかちですからね。私はスイレンの母親のスイミーです」

「これはご丁寧に、あたしはディア•ベルンルックです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 あたしはスイレン君の両親から自己紹介されたので、いつものように、自己紹介をする。


「私はディアお嬢様の親衛隊の隊長をしているシンリーと申します」

「私はディア様と親友のアルセラです」

「…………………僕はパタリー、ディアお嬢様の専属シェフをしている」


 そして、シンリー、アルセラ、パタリーシェフがあたしの後の自己紹介に続いた。


 その後、リア村長やスイレン君が、アルセラとパタリーシェフのために、改めて、自己紹介をしてくれる。彼等のおかげで、すぐに、アルセラ達はリア村長達と打ち解けることとなった。


 ちなみに、ステラお母様に関しては、あたし達が親睦を深めていた間、常に涎を垂らしていた。


ーーーーー


「ディアちゃん、も、もういいかしら?」


 ステラお母様が待ちきれなくなったのか、あたしの方に尋ねてくる。


「リア村長、いいでしょうか??」

「ふぇっふぇっ……好きにするかえ」

「ステラお母様、食べても大丈夫ですよ!!」


 あたしはリア村長の許可を得たので、ステラお母様に問題ない旨を伝えると、彼女は早速、刺身の盛り合わせの方を取っていた。


 そんなステラお母様を見て、あたしも新鮮な刺身の盛り合わせから頂く。ちなみに、刺身の内容は新鮮で臭みが一つもない鯛がメインで、牡蠣やサザエといった貝類も豊富である。


「………………カニのグラタン」

「パタリーシェフが作ったの?」

「………………うん」

「気づかなくてごめんね?いただくね?」

「…………………ぜひ」


 刺身の盛り合わせや海鮮鍋に夢中でいると、頬を膨らませたパタリーシェフがあたしの前にカニの鋏が見えるグラタンを差し出す。


 だから、あたしは彼女に謝った後、グラタンをスプーンで掬って、口へ頬張る。


「うん!!カニの甘味と濃厚なホワイトソースが絶妙にマッチしてて美味しいよ!!」

「僕も食べるー!!」

「わ、私も食べるわ!!」

「ふぇっふぇっ……わたしゃも頂くかえ」


 パタリーシェフが作ってくれたカニのグラタンはとても美味しく、みんなに彼女の腕を知って欲しくて、あたしは、大きな声で感想を伝えた。


 そうすると、スイレン君とステラお母様とリア村長を筆頭に次々と余っていたカニグラタンの量が減っていくこととなる。


「ふぇっふぇっ…『ベルンルックの女神』様、わたしゃらは血は繋がっとらんが、ベルンルック領の住民は、全員、大きな家族だと思ってるかえ」

「リア村長……??」

「ふぇっふぇっ……わたしゃには詳しく分からんが、何かを迷ってるようにみえたかえ」


 そう言えば、ゾル村長にも、同じような事を言われたことがある。


 もし、あたしに迷いがあるとすれば、それは無意識のうちに、『ハルデア皇大使殿下』と正面から戦う事を避けている事かもしれない。


 実際、『ハルデア皇太子殿下』へ、抵抗しないのは、あたし自身が、『セブン⭐︎プリンセス』の『バッドエンド確定の悪役令嬢』であり、前世では、全敗の『ディア•ベルンルック』に転生した以上、運命を覆せないと決めつけているからだ。


 でも、あたし以外の人でもあたしと同じ立場ならば、億劫になると思う。


 なぜならば、少しの立ち回りでミスれば、あたしにはギロチンが待っているのだ。


「ふぇっふぇっ…わたしゃには『ベルンルックの女神』様が何を思い詰めてるのか分からないが、きっと、何度か失敗したところで、大丈夫かえ」

「それは…どういう意味ですか?」

「ふぇっふぇっ…『ベルンルック領』はあなた様と共にあるって事かえ。だから、とりあえず、前に進んでみる、それもいいと思ってるかえ」


 失敗しても大丈夫

 とりあえず前に進んでみる……


 あたしはリア村長の言葉を聞いて、自分の心の中で何度もつぶやいた。そうすると、なぜだか分からないけど、安心感が増した気がする。


「ふぇっふぇっ……わたしゃの言葉で少しでも、気が晴れたようでなによりかえ」

「はい、ありがとうございます!!」


 今までは一度でも失敗すれば、『ゲーム終了』だと思っていた。それなのに、リア村長の言葉のおかげで、だいぶ肩の荷が降りる。


 だから、あたしは彼女に感謝を伝えた後、目の前のご馳走へ集中することにした。


ーーーー


 現在は、ご馳走をたらふく食べた事もあり、急に動けないという事もあり、暫くの間、リア村長の自宅に休ませてもらえる事となった。


「ディアお嬢様、ご馳走、美味しかったですね」

「うん!!」


 あたしは右隣にいるシンリーから言われた言葉へ、縦にこくりと頷きながら返答する。


「ディア様、私と結婚してくれますか?」

「うん!!って、何言ってるの!?」

「どさくさに紛れたら、行けるかと思いました」

「アルセラも冗談が増えてきたねー」


 今度は左隣にいたアルセラがどさくさに紛れてとんでもない事を誘ってきた。彼女の言葉を理解した瞬間、あたしの頬を中心とした温度の上昇を感じつつも、気軽に彼女へ突っ込みを入れる。


 そして、アルセラと2人で笑っていると、シンリーとパタリーシェフがジト目を送ってきた。


 よく考えれば、この歳で結婚なんていくらなんでも早すぎる。最初こそ、あたしは照れてしまったが、アレはアルセラなりの冗談に違いない。


 それなのに、あたしとアルセラの方を怪訝そうな表情で見つめるシンリーとパタリーシェフは何を誤解しているのだろうかと思い、首を傾げる。


「…………………僕のディアお嬢様だから」


 そうすると、今度は、正面にいるパタリーシェフがあたしの全身に抱きつきながら、アルセラとシンリーに向かって、宣戦布告をした。


「パタリー様のディアお嬢様じゃないです!!」

「パタリー様、私のディア様ですから」

「いや、アルセラ様の物でもありませんからねっ!!私だけのディアお嬢様ですっ!!」


 最初はご馳走の感想を伝え合うのかなって思っていたが、シンリー達はいつものように、あたしを巡る争いに発展して行く。


 そんな愛おしい3人を見て、あたしは自分のどこに魅力があるのかを考える。しかし、自分の魅力が、全くもって思い浮かばなかった。


「ふぇっふぇっ…あの3人の争いが不思議って顔してそうかえ」

「ええ…あたしにはもったいない子達です」


 自分の魅力に悩んでいるとリア村長がいつの間にか、あたしの隣に移動していた。


 そして、そのまま、あたしの心の中を見透かすかのように話しかけてくる。


 あたしはリア村長に見透かされた事に、少し悔しく感じつつも、彼女が言ってる事は事実だったため、彼女の言葉を自嘲気味に肯定した。


「ふぇっふぇっ…それは違うと思うねぇ」

「リア村長……??」

「ふぇっふぇっ…あの3人にとって、ディアお嬢様は唯一無二の存在なんだろうねぇ。だから、もっと愛されたい、その一心だとわたしゃは思うねぇ。それで、3人に回答はしたのかえ?」

「ま、まだです…」

「ふぇっふぇっ…まっ、早めに回答をした方がいいと老婆心から忠告しておくかえ」


 あたし達の関係を完全に見透かしたリア村長はあたしへアドバイスをした後、他へ移動した。


「ディア、待たせたね。そろそろお暇しようか」

「ええ」


 そして、リア村長とすれ違うかのようなタイミングで、ディブロお父様があたしの方に近づき、ベルンルックの屋敷へ戻る事を提案した。


 だから、あたしは彼の提案に賛成して、ベルンルックに帰る準備を始める。


ーーー


「『ベルンルックの女神様』、次もまた来てくれるよね!!」

「スイレン君がスイミーさんとシセルさんとリア村長の言う事を聞いて、きちんと、いい子にしてたら、また来ますからねー!!」

「分かった!!絶対にいい子にして、待ってる!!」


 あたし達の帰りの馬車の準備が整い、出発の直前、スイレン君達が見送りに来てくれた。


「今日は色々とありがとうございました!!」


 そして、スイレン君と別れの挨拶をした後、あたしは、改めて、シセルさんやスイミーさん、リア村長へ感謝の言葉と共に深々とお辞儀をする。


「今回も世話になった。感謝する」

「ふぇっふぇっ、『ベルンルック公爵』様らしくない事言うようになったかえ?」


 ディブロお父様がリア村長に感謝を伝えると、彼女はディブロお父様を揶揄った。


「もし、私にそう感じるのであれば、きっと、ディアのおかげだろう」

「ふぇっふぇっ…まさか、わたしゃも食卓を囲む日が来るなんて夢にも思わなかったさ」


 ディブロお父様がどう返すのかと思ったら、あたしの頭を撫でながら、あたしの名前をリア村長との会話に引き出した。


 その瞬間、恥ずかしくなり、あたしは顔を両手で覆い、2人の顔を直視しないようにする。


 そして、ほんの少しだけ他の隙間から周囲の状況を覗こうとすると、みんなと視線が合い、あたしに生暖かい視線を注がれていた。


「みんなであたしを揶揄わないでくださいっっ」


 そのため、あたしは大きな声を出して、周囲へ抗議したが、みんなに笑われることとなる。


ーーーー


「最後に、『ベルンルック領の女神様』、伝え忘れておった。わたしゃら、『ウェスト』村もあなた様のためならば、戦う準備ができてるかえ」

「リア村長!?も、もうっ…!!」


 馬車が出発すると同時に。聞こえたリア村長の言葉がゾル村長と同じ言葉で驚くこととなる。


 そのため、あたしが戦争を否定する頃には、既にあたし達の馬車はベルンルックの屋敷へ出発しており、リア村長の姿が小さくなくなっていた。


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