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『ステラ•ベルンルックの策略と救済』

「ディブロお父様、特に変わったことは……」

「ディアちゃん、隠し事をしてもバレバレよ」


 そういえば、ロンやアースだけでなく、あたしは『ホープ』と『サクセス』にまで、落ち込んでいたのを看破されてしまったのだ。


 貴族社会を長年歩いている、ディブロお父様達に叶うはずがない。


 あたしは紅茶を飲み干した後、深呼吸をする。


「あたしは『セブンス学園』で『マンドール子爵家のお嬢様』を助けました。しかし、あたしは、彼女を傷つけて遠ざけたんですっ!!」

「ディブロ様、ステラ様、勘違いしないでください!!ディア様は、『マンドール子爵嬢』を助けるために傷つけたんです!!」

「アルセラちゃん、ディアちゃんのためにありがとうね。きちんと分かってるわ」


 あたしが自嘲気味に放った言葉に対して、アルセラが必死に、ディブロお父様達から、あたしを庇おうとした。


 そんなアルセラを安心させるかのようにステラお母様は彼女へ近づき、髪を優しく撫でている。


「……………そんなわけで、ディア、詳しく聞かせてもらうよ」

「あたしが『ハルデア皇太子殿下』と争っている以上、彼女を巻き込めないと思ったから…」

「そうだね。ただ、『ベルンルック公爵家』は『3代公爵家』の中で、最も王族に刃を届き得ると、私は思っている。それと既に当家は………」


 あたしが事情を説明すると、ディブロお父様はこくりと縦に頷きながら話し出す。


 ちなみに『セブンス王国の3代公爵家』とは、その名の通り、『セブンス王国』の公爵の地位を得ている名家を指している。


『ベルンルック公爵家』の他は『アルステア公爵家』、『イシュランド公爵家』だ。


 そして、残念な事に、この2つの公爵家の子息も『セブンス学園』へ入学しているだろう。


 なぜならば、『1年生編』以降に登場する『セブン⭐︎プリンセス』の『攻略対象』達だからだ。


 しかし、今、考えても仕方がない事なので、これ以上考えるのはやめておこう。それよりも、あたしは、ディブロお父様の最後の方に言いかけて辞めた言葉の続きの方が気になった。


「それと既に当家は……??」

「いいや。ディアが気にすることではないさ」


 あたしは首を右の方へ傾げつつも、ディブロお父様から無理に聞く必要はないかと判断して、彼の言葉へ、縦にこくりと頷く。


「ス、ステラお母しゃまぁぁ…」

「はぁい…アルセラちゃんは甘えん坊さんねぇ」


 ディブロお父様と集中して話しているうちに、アルセラの方から腑抜けた声が聞こえてくる。そのため、彼女の方へ視線を向けると、アルセラがステラお母様に骨抜きにされていた。


「ち、ちょっと!!あたしのステラお母様であたしのアルセラなんだからっっ!!」

「そうなの?細かいことはいいの。ほら、ディアちゃんもいらっしゃい」


 あたしがステラお母様とアルセラに抗議していると、ステラお母様に誘われ、彼女と共にあたしも骨抜きにされる事となった。


ーーーー


「明日も『セブンス学園』かぁ…」

「ディア様、明日と明後日は休みですよ」


 ステラお母様を満喫していると、同じように甘えていたアルセラが休みだと教えてくれる。


「え、そうなの?」

「はい。入学式の説明によると、月に2回だけ2連休があり、明日と明後日がその日です」


 あたしが寝ていた入学式のガイダンスでそこまで詳しいことを話していたのか、とアルセラの説明を聞いて、少しだけ後悔した。


「アルセラ、教えてくれてありがとう!!そう言えば、明日と明後日について、アルセラはどこか行きたい場所や予定があったりする?」

「いいえ。私にはございません」


 あたしは嫌な事続きの『セブンス学園』の気分転換も兼ねて、アルセラをベルンルック領が管理している村へ案内したいと思ったあたしは彼女へスケジュールを確認する。


「………………僕も着いていく」

「パタリーシェフも行って大丈夫なの??」

「………………師匠を説得する」


 今回の視察に関しては、いつも同伴しないパタリーシェフもついてくる事となった。


「ディアお嬢様は全部の村に歓迎されていましたし、一度、全部の村へ挨拶へ行きませんか?」

「2日で回れるかなぁ…?」


 シンリーが目を輝かせながら、あたしへ提案する。確かに、あたしにとって、イースト村もウェスト村もノース村もサウス村もどの村も居心地が良いため、全部の村を訪れたい。


「ディア、今回は私とステラもついていくぞ。もちろん、馬車は2台でだ」

「ディアちゃんだけ、美味しい料理を食べるのはずるいと思うわ!!」

「べ、別にあたしは遊びに行くわけでは……」


 当然、ディブロお父様とステラお母様の口論にあたしが叶うはずもなく、2人も明日と明後日はあたし達へ同行することとなった。


「あたしが尋ねるのも変かもしれないですが、ディブロお父様は公務の方は大丈夫なんですか?」

「私の領地は優秀だから割と問題ないよ。各村長や『セントラル地区』を運営する職員達が優秀だからね。私の職務は最終承認くらいかな??」


 実際、イースト村もウェスト村もノース村もサウス村の村長は全員優秀だと思う。


 唯一、サウス村は少し不安があるが、アイリー村長も立派である。


「それでは、明日と明後日はベルンルック領が管理する村に視察へ行く事にしましょうか」


 あたしの言葉へ、その場にいた全員がこくりと頷いた様子をみて、シンリー達と共に自分の部屋へ戻ることとなった。


ーーーー


「ディアちゃん、部屋に戻る前にこれを可愛い3人へ3個ずつあげてちょうだい」

「ステラお母様、もしかして、これはチョコレートですか??」

「そうよー。料理長のジェフルが作った最高のチョコレートの試作品らしいわよー」


 あたし達が2Fの食事場で『セブンス学園』の報告を終え、部屋に戻る途中、笑顔のステラお母様から、9個のチョコレートをもらう。


「…………………師匠の試作」

「ディアお嬢様の分はないんですかね?」

「きっと、ディア様に試作品を出すのは失礼に値するからだと思います」


 別に試作品でもいいから欲しいと思っていた、自分の本音を隠しながら、ステラお母様の指示通り、シンリー達の手のひらに3個ずつ配る。


「それじゃ、ディアちゃん、またね?少ししたら、いっぱい楽しんでちょうだい?」


 なぜか、いつも母性溢れる優しいステラお母様の笑顔に陰りが見えたような気がしたが、あたしの気のせいだろう。


「…………………美味しい。師匠は天才」

「ディアお嬢様、チョコレートの中の方から少し変な味がしますが、美味しいですよ!!」

「ええ。とっても美味しいです。それと、少しだけ身体が火照ってきました」


 シンリー達の方を見ると彼女達は美味しそうにチョコレートを食べている。


 なぜか、チョコレートを食べたみんなの様子が少しだけ変な感じがしたけど、気のせいだろうと思い、そのまま、自分の部屋へと戻る事にした。


ーーーー



 寝るには早く、レベル上げするには時間が足りないもどかしい状況の中、何をしようかと頭を回転させながら、ソファーの方でくつろいでいた。


「ディアお嬢様ぁ……なんだか暑いですね」

「………………暑い」

「ディア様、身体が火照ってちゃいました」

「みんな、ど、どうしたの?」


 あたしがソファーでいつものようにリラックスしていると、右の方から顔を赤く染めたシンリー、左の方から目がトロンとしたパタリーシェフ、あたしの膝の上に乗って上目遣いをするアルセラ、揃いも揃って全員が飢えた獣のようにあたしの未成熟な身体のあちこちを触り始めたのだ。


「ちょ……やめっ……んっ…」


 とりあえず、あたしは3人から強引に抜け出し、チョコレートを包んでいた紙の匂いを嗅ぐ。


「微かに香るウィスキー!?もしかして、3人とも、ウィスキーボンボンで酔ったっていうの!?」


 前世が元アル中だからだろうか、あたしの中では考えられない事態で、身体中に電撃が走る。


 ただ、思い返してみると、シンリーが『変な味』と言ってたり、頬を少し赤くしたアルセラが『火照った』とか言っていたような気がする。


ーーー


「ディアお嬢様ぁぁ…どうひてにげるのでひゅかぁぁぁ。だひひち、わらひのディアお嬢様なんれすから。わーらーひーのです」

「シンリー様ぁぁ、独り占めはやめてくらひゃいぃ!!わらひらって……我慢してるんれす。ほんろはわらひらけのものにしたひんれすー!!」


 あたしが、原因を考えているうちに、シンリーとアルセラは、先程よりも頬を中心に顔を真っ赤にした状態となり、目がとろんとしていて、呂律が回らない状態にまでなっていた。


 ダッ


「…………………ひくっ…逃さなひ」

「パタリー!?ち、ちょっとまって…」


 そんな2人を見て、巻き込まれないように、逃げようとすると、今度はあたしの首元を両手で挟んだパタリーシェフが強めに抱き寄せてくる。


「パタリーしゃま…抜け駆けはらめれふー」

「しょうれす!!ディア様、わらひのほーへ」


 どうしようかと悩んでいたところ、あたしの予想に反して、シンリーとアルセラがパタリーシェフからあたしを解放してくれることとなった。


 そして、そのまま自分の部屋から退室して、3人の酔いが冷めるまで、扉の前で待機する。


「ディアちゃん…その様子だと3人の誰にも手をつけてないみたいね」

「ステラお母様、良くも…!!」

「ディアちゃん、あの3人の事、好きでしょ?」


 あたしはステラお母様に初めて、怒りを示す。しかし、次のステラお母様の言葉にあたしは、ハッとさせられ、言葉を詰まらせる。


「ええ。多分、あたしは友人としても恋愛としても大好きですよ…。でも、気持ちだけでは、恋愛なんて、成り立たないんです!!」


 3人があたしの側に居続けるならば、あたしとしては嬉しい。


 ただ、それは同時に、あたしに襲いかかる『バッドエンド』に巻き込まれる可能性もある。


 好きになればなるほど、あたしは3人を失いたくない、その想いが強まっていく。


 自分の中で起こるジレンマを八つ当たりするかのようにあたしは、ステラお母様へぶつける。


「ディアちゃんは優しい子だものね。でも、絶対に後悔がないようにね」

「ステラお母様、分かってますよ…」


 ステラお母様はあたしを抱きしめながら、あたしの耳元で囁く。そして、彼女が発した『後悔』という言葉にあたしは意識をしてしまった。


 このまま、3人と何も進展せずに、寿命を全うする未来を思い浮かべると、涙が出そうになる。


 ただ、『セブン⭐︎プリンセス』の『バッドエンド』はあたしが『ディア•ベルンルック』である限り、離れてくれることはないだろう。


 だからこそ、あたしは彼女達の告白の回答を保留にしているのだ。


「ディアちゃん、私はあなたを心から誇らしいと思うわ。それと同時に、昔のままのあなたが育っていたならば、私は『ベルンルック公爵家』から逃げ出していたかも知れないの」

「え?」

「だから、改めて、言わせてちょうだい。私の娘になってくれてありがとうね??」


 あたしはステラお母様の言葉を聞いた瞬間、前世で疑問に思っていた『ディア•ベルンルック』の情報を思い出す。


 大前提として、『セブン⭐︎プリンセス』の『ディア•ベルンルック』の顛末を語る上で父親の『ディブロ•ベルンルック』の存在は外せない。


 しかし、『ステラ•ベルンルック』の情報は『ディブロ•ベルンルック』よりも少ないのだ。


 情報の格差の答えは彼女があたしに話していた通りなのだろう。


 つまり、『ステラ•ベルンルック』は『ディア•ベルンルック』が成長する前に、『ベルンルック公爵家』から逃げ出した、これが答えだ。


「ステラお母様………あたしはっっっ!!」

「その分、ディアちゃんは、昔より泣くようになってしまったけどね」


 ステラお母様の言葉を聞いたあたしは、本当の『ディア•ベルンルック』じゃない事を言いかけた瞬間、彼女の見た事ない満面の笑みを見て、あたしは、言いかけた続きの言葉は消え失せる。


 なぜならば、『セブン⭐︎プリンセス』では救えないように設定された『ステラお母様』をあたしは、救う事ができた。その事実だけで、あたしが本物の『ディア•ベルンルック』かどうかなんて考えは、どうでも良いと思ったからだ。


「ゴホンッ、ディアちゃん、ごめんなさい。焦ったい様子を見て、つい、お節介をしちゃったの。でも、今回は少しやりすぎたみたい」


 あたしは首を横に振る。ステラお母様があたしの事を思ってくれていた事は分かった。


 それだけではない。ステラお母様を救えた事、これは、何よりもあたしにとって嬉しかった。


「さっ…もう、そろそろシンリー達もアルコールも切れている頃よ」

「ステラお母様、あたしもディブロお父様とステラお母様の子供になれてよかったです!!それじゃ、もう戻りますね!!おやすみなさいっ!!」


 あたしは、『バッドエンド確定』の『悪役令嬢』でおまけに死亡率も高い。状況だけならば、最悪のキャラクターに転生したと言っていい。


 でも、あたしはディブロお父様とステラお母様の子供になれた事を心の底から誇りに思った。


 だからこそ、ディブロお父様とステラお母様を救えた事がこんなにも嬉しいんだろう。


ーーーーー


「ディアお嬢様……も、申し訳ございません」

「ディア様…ごめんなさい」

「………………ごめん」


 ステラお母様と話を終えて、自分の部屋へ戻ると、3人は土下座の姿勢をしながら謝罪する。


 3人ともアルコールの存在を知らなかったかもしれないし、何よりこの状況を作ったのはステラお母様だったので、責めることはできない。


「3人とも、あたしは気にしてないから!!」


 あたしは彼女達に微笑みながら、許す。


「良かったです。ディアお嬢様のあの未発達の蕾の感触が、とっても柔らかくてまだ手に…」


 うん?


「ええ。ディア様のあんな所を触ってしまうなんて……この手は洗えません!!」


 うーん?


「…………………ハラショー」


 なぜ、唐突にロシア語!?


 全くもって謝罪するどころか、記憶を思い出してだらしない表情をする3人を呼びつけて、長時間に渡り説教をすることにした。


ーーーーー


「はぁ……。じゃあ今日は寝ましょう」

「ディアお嬢様、今日は鬼でした…」

「ディア様は怒ると怖いです…」

「………………正直、舐めてた」


 あたしの長時間に渡る説教で、やっと3人共、懲りた様子を見せたので、あたしは彼女達の正座を解放して、寝る事を提案する。


「今日も2人にディアお嬢様の隣を譲ります」

「…………………させない」

「いいえ。私が譲ります!!」


 そうすると、いつものようなベッドの場所争いに発展しかけたので、反省の意味も込めて、3人を右端に、あたしだけ左端の方で寝転がる。


 もちろん、3人から何やら文句ありげなジト目を受けることとなったが、先程説教をしたばかりのため、心を鬼にして目を瞑った。

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