三角関係?
ガララララ………
「変な噂を修正できると思って頑張っ……ひぐっ…うわぁぁぁぁぁぁぁん………」
「ディアお嬢様、泣き顔が天使です!!」
「結局、ディアお嬢様はこうなるんだよな…」
「あははは!!そうだねー」
完璧に練っていたはずのあたしの作戦が不発に終わった結果、帰りの馬車内でシンリーに抱きついて、号泣する羽目となった。
なぜか、シンリーと目を合わせると彼女の呼吸が荒くなる時があったが、きっと気のせいだ。
「きっと、噂に脚色が付いたのは、ディアの人柄が魅力的だった事が原因だろうね」
「ディブロ公爵様の言う通りだろう」
「あはは!!本当にその通りですねー」
「ディアお嬢様は人間を超えて、天使です!!」
なぜか、シンリーだけ微妙に間違えている気がしたが、あたしは、涙を流し続けた。
ーーーー
どうやら、あたしは、ベルンルックの屋敷へ到着するまで、シンリーの胸の中で泣き続けていたらしい。とりあえず、いつまでも馬車にいても仕方がないので、降りることにした。
「「「「ディブロ公爵様、ディアお嬢様、親衛隊の皆様、お帰りなさいませ」」」」
いつものようにメイド達に見守られながら、屋敷へ帰宅する。そして、そのまま4Fにある自分の部屋へ移動して、ふて寝をすることにした。
ーーーーー
「ディアお嬢様、おはようございます」
「天使……?」
「もうっ…」
いつものシンリーとのやりとりも通算59回目で、あたしはいつものように彼女に抱きついて甘えることにした。
ちなみに、サウス村のショッキングから日数が経過しており、今日は『セブンス学園』の入学式の前日である。
それまでの間、あたしは『セブンス学園』で『バッドエンドによるギロチン』を回避して生き残るため、自分のレベル上げに勤しんできた、改めて、あたしは自分のステータスを確認する。
『Lv50
名前:ディア・ベルンルック
称号:3年以内に90%死亡/父親泣かせ/ベルンルック領の次期女傑
HP:3500
MP:8000
扱える闇魔法:ダークフレイム(大)、ダークヒール(大)、ダークシールド(中)、ダークセイバー(中)、ダークガードロス(小)、ダークアタックロス(小)、デストロイダークハンマー(小)
通り名: 小麦叩きの公爵令嬢
引きこもり令嬢
感謝の令嬢
皇太子殿下の恨みを抱かれる令嬢
3枚卸の公爵令嬢
正義の悪役令嬢
料理人の公爵令嬢
ヘタレの公爵令嬢
大号泣の公爵令嬢 』
どうやら、レベル上げの結果、あたしのレベルは、『50クラス』になっていた。このレベル『50クラス』は『セブンス学園』の最上級生である3年生の上位レベルであり、あたしは、入学前からかなりの強さに位置するはずである。
それと、『ベルンルック次期女傑』と言う新たな称号のおかげか、死亡率が90%にまで下がっていた。これは大変嬉しい誤算である。
ちなみに、新たに覚えた魔法の3種類を含め、改めて、あたしの魔法の効果を整理しておこう。
『ダークフレイム』…1人を対象に闇の炎。
『ダークヒール』…1人に闇の回復魔法。
『ダークセイバー』…周囲に漆黒の剣を出現。
『ダークシールド』…周囲に漆黒の盾を出現。
『ダークガードロス』…敵の防御力ダウン。
『ダークアタックロス』…敵の攻撃力ダウン。
『デストロイダークハンマー』…物理範囲攻撃。
効果は基本的に魔法名のままであるが、習得できた魔法は優秀だと思った。そして、ステータスの(小)(中)(大)は魔法の効果を表しており、(大)に近づくにつれて、魔法の威力を増していく。
「ディアお嬢様?朝食に行かないのですか?」
「シンリー、ごめんね。今から行くよ!!」
相変わらず、元ゲーマーのあたしは、自分のステータスを分析して考え込んでしまう癖がある。
これはもう、不治の病として受け入れるしかないだろう。
そして、そのままシンリーに手を引かれ、4Fの階段を降り、2Fへ足を運び、ディブロお父様とステラお母様が待つ食事場へ移動した。
ーーーー
「ディア、シンリーおはよう」
「ディアちゃん、シンリーおはよう」
「ディブロお父様、ステラお母様おはようございます」
「旦那様、奥方様、おはようございます」
いつもの挨拶をしてから自分の席へと座る。
「……………ディアお嬢様、おはよう」
自分の席に座ると、パタリーシェフがあたしの近くにきて挨拶にきてくれた。
「パタリーシェフ、おはようございます。もし、よければ、今日の朝食でパタリーシェフが作った料理を教えてくれませんか?」
「…………僕はメインのミネストローネとデザートのショートケーキを担当させてもらいました」
直近の変化として、朝食の時にパタリーシェフと挨拶の後、軽く雑談するようになった。
「じゃあ、このミネストローネとショートケーキから頂きますね?パタリーシェフの料理は空腹時のスパイスと一緒に楽しみたいですからね」
「……………っっ!!その笑顔は反則」
「え?」
「…………………ディアお嬢様を抱きしめたい」
「あっ…じゃあどうぞ?」
最初の言葉が聞き取れなかったので、聞き直すと、顔を真っ赤にしたパタリーシェフが珍しく、あたしのことを抱きしめたいと言った。
パタリーシェフの外見は15歳くらいで、あたしより幾分か年上だ。要は、彼女のあたしを抱きしめたいと言うのは、大きな人が小さい子を抱きしめたくなるような物だと思い、恥ずかしいと感じながらも、パタリーシェフへ快諾する。
「よくありませんー!!旦那様と奥方様がおられますのでそういう行為は控えてください!!」
「んじゃ、あたしからパタリーシェフに抱きつくから、問題なしだねー」
シンリーが正論を唱えたので、あたしの方からパタリーシェフに抱きつく事にした。あたしはこういう時だけわがままでいたいんだ!!
「……………ゃっ!!」
「パタリーシェフ、爽やかでいい匂いだねー!!」
「ディアお嬢様ぁぁぁ!!」
普段から、お願いをしている人ならば別だが、パタリーシェフからお願いを聞いた事がない。実際、彼女はシンリーを助けた時も欲がなかった。
だから、あたしがパタリーシェフの願いを叶えたかったのも大きいだろう。
あたしがパタリーシェフへ抱きつくと、彼女から変な声が漏れた。それと同時に、シンリーが掻き消すかのように大きな声をあげていた。
ーーー
「ディアお嬢様は強引すぎますっ!!」
「あたしは元『理不尽の権化』だよー?」
「いいえ。私のディアお嬢様は『感謝の公爵令嬢』様の方です」
「「ぐぬぬ……」」
顔を真っ赤にして動かなくなったパタリーシェフから離れた後、シンリーvsあたしの口論が繰り広げられることとなった。
「ゴホンッッッ!!」
「「失礼しました…」」
しかし、その口論もディブロお父様の大きな咳払いで終わる事となった、
「ディブロお父様、今日は『セントラル地区』を訪れる予定であってますか?」
「その通りだよ。ディアの馬と馬車を見繕わなければならないからね」
「ディブロお父様、ありがとうございます」
「ディアちゃん、良い馬に会えると良いわね」
あたしは頭を切り替えて、今度はディブロお父様へ今日の予定を確認する事にした。そして、馬と馬車が手に入る事を密かに、胸の中で喜んだ。
それ以降はいつもの雑談が溢れる朝食となり、平和に朝食を終えることとなった。
ーーー
「シンリー、怒ってる?」
「つーん…」
バッ
「ッ…ディアお嬢様!!」
「シンリー……ごめんね…」
「も、もうっ…これ以上はだめです………。理性を失い、ディアお嬢様を襲いそうになります…」
3Fのドレスアップルームへ移動中、シンリーに話しかけると、彼女は拗ねていた。恐らく、朝食のことを根に持っていたのかもしれない。
だから、あたしはパタリーシェフにした時と同じで、シンリーへ抱きつき、彼女の耳元であたしは囁くように謝罪する。そうすると、顔を真っ赤にしたシンリーから引き離されてしまう。
ーーーー
「ゴホンッ、ディアお嬢様、今日は黒色のドレスを着てください」
「よかった!!いつものシンリーだっ!!」
その後、黒色のドレスを着替えたあたしは、いつもの調子に戻ったシンリーと手を繋いで、1Fのエントランスへ移動した。
そして、エントランスでは、ロンとアースがあたしとシンリーを待っていた。
「「(あははは)ディアお嬢様、シンリー隊長、お待ちしておりました(ー)」」
「2人ともありがとう。さっそく、ディアブロお父様の元へ行きましょう」
あたしの提案に親衛隊の3人はこくりと縦に頷く。その様子を見てあたしも屋敷を出る。
ーーー
「ディア、こっちだよ」
「ディブロお父様、お待たせいたしました」
ディブロお父様の声が聞こえたので、その方向に移動すると、いつものお馬さん2匹と護衛兵の方々が待機していた。
今日の目的地は『セントラル地区』の交易が盛んに行われている商店街である。ちなみに、あたし達が住んでいるベルンルックの屋敷も『セントラル地区』にあるため、ほぼ近所である。そのため、護衛兵の方々の数はいつもより少なかった。
あたしは、ディブロお父様に返事をした後、何よりも先に、赤茶色のお馬さん2頭達に挨拶するため、馬車の前方へ移動する。
「あたし達のためにいつもありがとう!!今日もよろしくお願いします!!」
「「「よろしくお願いします」」」
「フッシュブルルル」
「ヒヒーン!!」
お馬さん達の元気そうな鳴き声を聞いた後、後ろへと振り返り、護衛兵の方々へ向き直る。
「あたし、明日から『セブンス学園』に通います。皆様、本当にいつも護衛の仕事をしていただき、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
「「「「うおおおおおお」」」」
「気にするなー」
「俺たちに任せとけー」
人数は減っても、いつものように元気をくれる護衛兵の方々には頭が下がらない。
そして、あたし達一向は馬車へ乗り込み、あたしの未来の愛馬と馬車のため、『セントラル地区』の商店街へ向かう事となった。




