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【ギリシャ物語】失恋。  作者: 銀糸雀
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-3-

立ち上がった姿のまま、アポロンは硬直して、それから恐る恐る寝台を振り返った。

「なんだ…と?」

「いや、だから”もしも”の話だよ。…アレスは信じちゃったけどねぇ」

ヘルメスはうつ伏せになって、枕に両腕を付き、その上に顎を乗せてアポロンを見つめていた。

「…ああ、それで貞操がどうとか…」

「そうそう、冗談を信じ込んじゃうのがアレスの凄いところだよね」

口元は笑っているが、深いエメラルド色の瞳は鋭い光を放っている。

「ねぇ、君だったらどう思う?」

そう、彼女と同じ。

「天に名高いポイボスの君(かがやけるもの)が」

砂色の髪と、緑柱石の瞳。

「そんな過ちを犯すなんて、信じられるかどうか」


アポロンの表情を伺っていたヘルメスは、呆然としていた友人の顔が、ふっと緩むのを見た。

「……それほど、ありえないことでもなさそうだな」

「えええっ!」

今、なんつったーーーー!!と逆に焦るヘルメス。

「…何をそんなに驚く。お前、いつも自分でいい男だって言ってるだろうが」

「そりゃまぁ、君程じゃないにしろ、容姿にはそこそこ恵まれていると思うけど」

ふぅ、とため息を吐いてアポロンは寝台に近付く。

「少年から青年に変わる寸前の、危うい均衡を保ったままのしなやかな肢体。瑞々しい象牙のごとき肌に刻まれた、あどけなさと精悍さを併せ持つ容貌。指を通り抜ける砂色の髪は、絹糸のようだ。

なによりも、その輝く宝石のような瞳に若い力に満ち溢れていて、どんな彫刻家もお前の美しさは描ききれまい」

「…い、いつも、そういう感じで口説いてるわけだ…?」

今度はヘルメスが硬直する番だった。

「勿論、私は詩歌の神だよ?こんなのは序の口だ」

しれっと答えた友人に、負けました、と珍しく敗北宣言を出す。

「嘘は得意な方だと自負しているけど、そこまでぺらぺらと美麗辞句は出てこないな…」

「いや、全部本気だが」

エメラルドの瞳をパチパチと瞬いて、ヘルメスは首を傾げる。

「少なくても、僕に関する限りは、そんな感想聞いたことないけど…?」

「それは今まで、お前を口説く機会なんてなかったからで」

「言わなかっただけで、いつも心の中ではそんなこと思ってたわけ?」

呆然と口に出してから、そのことを激しく後悔する。

「い、いや、今の質問はなし…!」

ヘルメスは頭から布団を被った。


「…確かに考えていたな」

「だから、なしだって言っただろう…!」

「もし、そう…お前に出会ったのが赤子の頃じゃなくて、出会いもあんな形じゃなかったら」

生まれてすぐに私の牛を盗むなんて、いい度胸してるよ、とアポロンは笑う。

「お前を口説いたかもしれない」

「いいから!口説かなくて全然いいから!!」

そう言おうとして、顔を出し……ついと、アポロンの手に顎を捕らえられた。

あっけにとられて薄く開いたままの口を、暖かな唇が覆い尽くす。

「……んっ…」

すぐに舌が滑り込んできた。口の中をかき回されてチュクチュクと卑猥な音が耳に付く。

唇が離れて、はぁ、と息を吐いた時には、ヘルメスの頬はすっかり火照っていた。

「さっきの冗談の仕返しだ」

くっとアポロンが笑う。

「…いや、不意打ちは卑怯じゃない?」

「さぁ、いい加減もう寝た方がいい」

ぽんぽん、と布団を軽く叩き、アポロンは寝室を後にした。



「はぁ、本音を話す薬…?」

翌日、ヘルメスはアルテミスから衝撃の告白を受けた。

「ええ、アポロンが何か悩んでいるみたいだったから、貴方にだったら話しやすいかなと思って。

アスクレピオスに調合してもらったのだから、毒ではないと思うわ」

アルテミスは小さな瓶に入った水薬を見せた。

「遅効性だっていうから、昼間逢ったときに飲み物に混ぜたのよ。

ちゃんと効いてなかった…?」

「いや…どうなんだろう…」

あの時のアポロンの話の、どれが本音かそうでないかなんてヘルメスにもよく判らない。

「なんか、変な副作用がある感じなんだよね。ちょっと調べてみるから、残り貰ってもいいかな?」

「ええ、いいわよ。手間取らせちゃってごめんなさいね」

アルテミスはヘルメスに瓶を渡し、それからにっこりと笑った。

「薬を飲ませても変化がないからどうしようかと思ったけど、ようやくアポロンの機嫌が治ったみたいね。今日は久々に楽しそうだったわ」

「ふ~ん、そう…」

嬉しげなアルテミスとは対照的に、ヘルメスは今一癪に落ちない風だったが、とりあえず親友が元気になったことで良しとするか、と肩を竦めた。


オリンポスは今日も平和である。







●あとがき

ギリシャ神話公認(笑)の親友同士である二柱を絡めて見ました。

すみません。本当にすみません。(土下座)

お互い友情以上恋愛未満な感じで…。

(キスは冗談代わりみたいなものです。双方プレイボーイなので)

ちなみに、アポロン様が不機嫌だった理由は、多分お察しの通りです…。

からかわれた上、妬かれたアレス様にしたらとんだ迷惑。


こんなんじゃ全然物足りない!という勇者な方、

一応、ムーンライトノベルの方に裏的おまけがございますので、宜しければどうぞ。

そちらは、ストーリーなどほぼありません。裏ばかりです!(私頑張った?!)

次こそは、この二人で(神なので柱が正しいですが、本文でも二人って書いてます。すみません)何かファンタジーな話を書きたいと思います。

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