木目の渦 ⑳村を守る巨腕
それから1時間ほど応戦が続いた。防壁が破られては作り直し、怪我人が次々に増えていき、より村民が教会に集まる。野盗はほぼ制圧出来たが村の存在は秘匿しなければならない。この村に対して今回のような襲撃がまた起こる。進んで殺生をしてはならないが、村と祈祷術のためにはやむを得ずこの村に収容し処刑しなければならないため誰一人逃すわけにはいかないのだ。とはいえ、野盗の別動隊であろう集団は避難所になりつつある教会の非常口を抑えていて村人たちは脱出することも出来ない。表面上は戦闘終了が見えているが実際は今準備しなければ今度こそ村を焼き払われてしまう。外の様子を把握しているメンバー数人は皆を落ち着かせなければならないながらも、教師陣を集めて次の野盗を迎え撃たなければならない状況でもあった。
「はい。この野盗たちは恐らく一枚岩ではなく、本体と使い捨てのような関係なのかもしれません。非常口を抑えられている以上、集まっている全員を守りながら抵抗しなければ村の存続すら危ぶまれます」
「だったらなんで同時攻撃をしなかったのか分からないわ。コレシス先生、まさか祈祷術が本当の狙い? 」
「だとしたらこいつら連携取れて無さ過ぎじゃない? それとも村の抵抗が想像以上で攻め込めなかったか、あるいは別の目的があるのか……」
コレシスが説明してもあまり納得いかない教師たちだが、コレシスの情報も確かな物だったためいつまでも警戒しなければならない。しかしいつまでも村を危険に晒すわけにもいかないため、一刻も早く準備をしなければならないのだ。そこに割って入ったのは野盗の成敗から帰って来たテストロだった。
「恐らく、非常口を抑えている方はこちらの様子も分かっているはずよ。あの狼煙を見てみなさい。逃げてきた村民に何かするのであればわざわざ目立つように狼煙を上げることは無いわ。ということは野盗同士で何かのメッセージを伝えるための手段。村の外でも先人たちが仕掛けている祈祷術が島のあちこちに仕掛けられているのだから、それらを突破してここまで来ていることになるのよ」
「先生方! お戻りになられたのですね! 」
「ありがとう。でも何人かは重症よ。シスターちゃんたち、早く治療をお願い。コレシスちゃん、大体のことは分かったわ。まだ囲まれているのであれば速やかに対応が必要よ」
前線に出向いていたテストロをはじめとする教師陣が野盗を捕縛し撤退してきた。軽傷の教師たちは治療もそこそこに野盗をさらに締め上げて気絶させてから教会内部の牢屋へと収容する。テストロは戻ってくるまでに治療を優先的に受けていたためか服の破れや汚れが激しくとも肉体はほぼ治療済みだった。
「しかしどうしたらいいのですか? 向こうが私たちの様子を監視できるような能力の持ち主がいるとしたら、次の手も見透かされてしまいます」
「確かにそれは厄介だわ。でもそれを解決するには……出口の数だけ潰していくしかないわ。それも地上と地下の二段構えで挟み撃ちにするの。相手はどこか別の土地で継承されていた祈祷術に触れる機会があったからこそ、先人たちが仕掛けた祈祷術の罠を破り侵入することが出来た。魔術が使えない利点はまだあるにしろ相手もそれは承知の上で来ている。それなら私たちが出来ることは地の利を活かした予測不能な祈祷術による相手の無力化が有効よ」
「分かりました。だとすれば地上と地下の2班に分ける必要がありますね」
「いいえ、地下の封鎖をする班は必要になるけど、地上の方は必要ありませんわ」
テストロの作戦の説明を聞いてコレシスはテストロを引き留めることはできなかった。この作戦はテストロに全てを頼るしかなく、その説明を他の教師たちにするにも心が痛む。それでも誰かがやらねばならないとなればテストロしか遂行できず、コレシスは出かかった言葉を飲み込んで教師たちに作戦を伝えることにした。
教師やシスターたちからは反対意見が当然出てきたが、コレシスは今はこれしか出来ないと説得して回った。無茶だという声もあるがテストロをサポートできるように自分たちが今動くしかないのだ。
「ということで皆さん、これから非常口に入ります。私たちが非常口を突破されてしまった場合のことも考えて非常口の複数回に及ぶ封鎖と偽の通路作成、それから教会の防御と迎撃をお願いします」
「分かりました。ご武運を」
コレシスを筆頭に教師たちは非常口に潜入し、目的地となる出口へと密かに移動する。後方では移動しながら祈祷術によって土壁を作成して自らの逃げ道を塞ぎ、野盗を決して逃がさないように決心する。暗くて狭く、長年のメンテナンスである程度の強度がある土壁が続く。その壁から生えてくる土壁と同時に生成される偽の横道。少しでも生き残るための準備は怠らないようにしつつ進む。そして到着した出口。はやり外には男が複数人いる。対してこちらは女性のみで構成された祈祷術師たちだ。真正面から挑めば力負けしてしまう。ただ一人を除いて。
「そぉいやあ!! 」
「始まりましたね。こちらも開始します! 」
地上で聞き覚えのある掛け声が聞こえた。テストロが単独行動で地上の真正面から野盗を襲撃していたのだ。掛け声に合わせて地下で祈り始める祈祷術師たちは非常口の変形やテストロの回復を開始する。魔術はもちろん能力を使う間もなく木の幹に打ち付けられる野盗たち。テストロが確実にひとりずつ倒して抵抗できないようにしていた。
「この役割は私じゃなければ出来ないわ。みんなで行けば誰かが捕まった時に取り返しが付かなくなる。それなら私が全部の出口に地上から移動してみんなが地下で私の支援をする。地上で暴れる私を優先している相手は地下にいるあなたたちに構う暇はない。だから私が一人で行くわ」
奇襲を始める前の作戦会議にてテストロはこのように伝えていた。コレシスをはじめ教師たちは反対していたがテストロの言う通り誰も物理的についていくこともできず足手纏いになる可能性の方が高い。だが教会を中心に四方八方に広がる脱出口全てを制圧し返すには無理がある。それでもテストロは自分以外が捉えられるリスクを考えて1人で行くことを決めた。数でも物理的な力でも負ける可能性が高いのであれば、狼煙を消さないで野盗には異常なしと誤情報を伝えつつ丁寧な逆襲をするほかなかった。
「……制圧出来たようです。次の脱出口へ移動します! テストロ先生、ご武運を」
コレシスが対応した脱出口は解放されたが、まだ島に野盗がいるため教会に籠城している方がまだ安全だった。コレシス達は来た道を戻り、祈祷術で再び通路の作りを変えながら次の脱出口へと向かった。地上ではテストロがコレシスの向かった逆側の脱出口へと向かい、既に地下で控えている教師たちのサポートを受けながら物理的制圧を開始する。地鳴りのような衝撃が、土の奥深くに伝わってくる。コレシスは愛用の棒を土壁にガリガリと押し付けながら地中の通路を進み、後ろにいる他の教師が通路の偽装をする。先ほど、ひとつ目の脱出口の奪還に成功し、地下の祈祷術師たちとともに、次の出口を目指していたところだった。




