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撤退戦

 その間もコッキーの周りに敵の召喚精霊が殺到してくる、それに無意識に体が反応し敵を叩き潰した、

森の中の敵は壊滅したはずだがまだ生き残りがいるのだろう。

その間もコッキーの瞳は凍てつき地に伏せているベルから離れない。


『いかん!!』

ホンザの叫びが聞こえてきた、その次の瞬間ベルの姿が消える。


『もう少し敵を食い止めてください!』

続いてアゼルの声が聞こえてくる。


「わかったのです」

コッキーは叫んだ、アゼルに聞こえたかわからなかったが叫んだ。

ルディは無言のまま敵の巨大な戦士と必死の鍔迫り合いをしている。


コッキーの視界の端に何もないところからアゼルが姿を現した、やはり二人はホンザの魔術陣地に隠れていたのだ。

アゼルが何かを詠唱しはじめたが聞こえない、敵の精霊がアゼルに向かった、コッキーは眼の前の敵を蹴り飛ばすと、

そいつに向かって一気に飛んだ、視界に金属の棒を捻じ曲げ人の形にしたような不格好な背中が迫る、

そのまま飛び蹴りを食らわすと体重をかけて地面にメリ込ませる。

小柄の少女のどこにそんな重さがあったのか、重い地響きを立て倒れた。

そして感覚の隅にここに殺到してくる敵の気配を遠くに感じる。


そのままアゼルに迫ろうとする敵を蹴散らす事にした、体の奥から湧き出る熱い液体のような精霊力が腰骨から背骨を登り頭に達し、

からだが痺れるほど熱く気持ち良い、自分でも理解できない言葉を叫ぶ。

素手で巨大な朽ちた大木の様な敵の体を切り裂いた。


その瞬間アゼルの呪文が完成した。

「その理は賢きものほど見失う『ナムソースの賢者の霧』よ」

最後の一句ははぜか頭の芯にまで響きわたる。


その直後に周囲は濃霧に包まれた、そしてコッキーが展開していた探知の網がバラバラに切断され、自分の視界に写る敵以外の気配が消滅してしまった。

「アゼルさん!?」


その直後にコッキーの視界がゆらぐと景色が一変する。


そして静寂な森の中に戦いの姿勢のままいる自分に気付いた、周囲は戦場の森の中だが敵の姿は総て消えている。

慌てて周囲を見回すとアゼルがいる、そして唖然とした様子のルディがいた。

ホンザは地面にかがみこんでいる、そこに背中を切り裂かれたベルがうつ伏せに倒れている。

すでに変異が解けていた、コッキーは慌ててベルの元に向かい名を呼ぶ。


「ベルさん!?」

ルディが彼女のそばに片膝をついて恐る恐る手を伸ばした、手負いの者は慎重に触れなければならないからだ。


「・・・ベル聞こえるか?」


コッキーはルディの顔色が青ざめているのに気付いた。

アゼルもベルに近づくと治癒魔術を行使したが、だがすぐに止めてしまった、コッキーは思わずアゼルを睨む。


「あの何がおきたんです!?」

そのコッキーの疑問にホンザとルディは顔を見交わしたが、それにルディが応えた。


ルディは顔を横に降りながら応えた。

「奴が突然現れベルを後ろから攻撃した、接近してくる気配はない、あればベルが最初に気付いていたはずだ」


「悪いが応急に作った魔術陣地は効率が悪い、すぐに移動すべきじゃ」

ホンザが初めて口を開いた、老魔術師の顔が汗で濡れている事に初めて気付いた、かなりの負担がかかっていた様子だ。

「そうです、わたしの隠蔽術が消える前にはやく」

アゼルもそれに賛同する。


「今後の事は安全地帯に移動してからじゃ、屋敷の魔術陣地が良いだろうて」


「じゃあ私がベルさんを運びます・・・私は硬いから合っています」

コッキーの提案に誰も反対しなかった、変異し魔銀の鱗に護られたコッキーの体は魔法攻撃や飛び道具にめっぽう強い。


四人は軽く打ち合わせをするとアゼルが自分とホンザに身体強化魔術をかけ直す、そしてルディの合図で魔術陣地が解除された、いきなり叫びと喧騒が戻るが深い霧で何も見えない。


「活路を切り開くぞ俺についてこい、離れると見失う」


三人はルディを追従しながら霧の中を駆ける、霧の中にルディの背中がかろうじて見える、すぐに魔術の霧を抜け朝の日が漏れ射す森の中を駆けていた。


すると認知の霧も晴れ遠くの敵の気配を感じる事ができる、ベルが健在ならば詳しい情報が得られたかもしれない。

コッキーが両手で抱えているベルは動かなかった、うつ伏せで顔は見えないがまだ生きているのを感じられる。

それどころか少しずつ人間ではありえない速度で回復している、これが幽界の眷属の人知を超えた力だ。

だが何か説明のできない違和感を感じていた、それは目の前の切り裂かれたベルの背中からだ。


先頭を進むルディは迫りくる包囲網の薄い所に向かっていた、おぼろげな敵の気配を左右の森の奥から感じた。

幸いな事に後方の主力はアゼルの霧の混乱から脱していない、まだ後ろから迫ってくる追撃する敵の気配を感じなかった。


四人は伝令騎兵より早い速度で森の中を驀進していた、コッキーは並走するアゼルの疲労を感じる、強力な上位の魔術を複数使ったのだろう。

敵の気配が遠ざかっても足を緩めなかった、ひたすら人目を避けながらハイネの南の廃村にあるホンザの魔術陣地を目指して駆けた。





そして戦いから半時もかからず廃屋敷の魔術陣地に到達していた。

ベルはルディ達の部屋のベッドにうつ伏せに寝かされている、それにアゼルが魔術道具の治癒魔術を使う、少しでも回復を早める為だ。

ルディは落ち着いていた、ベルもまた幽界の眷属で人とは違う、それでもルディの顔色は青ざめ不安げに見える。


「コッキー、ベルの服を脱がせて包帯を巻いていただけますか?これは貴女の方が良いでしょう、私達は外に出ています」

アゼルの提案に頷くしかできなかった、アマンダがいれば問題なかったのに。

「・・・なんとかやって見ます」

コッキーはベルの服を裂くことにする、煙突掃除の少年のような服は酷使にくたびれ限界に近い、ベルは町人の娘の様な似合わない服と、

華美な使用人のドレスを持っている。

遠慮なく引き裂くことにする。


すると血に塗れた布の下から傷口が姿を現した、白い優美な背中を斜めに傷口が走っているそこまでは想定内だ、だからこそコッキーは思わず叫んでしまった。


「・・・みなさん、ベルさんの背中が変です」




その忘れられた廃村の屋敷の大木の根本が陽炎の様に揺らいだ、そこにアルベルト=グルンダルが姿を現した。


「あーきちーな」

アルベルトは周囲の風景を確認する「こんなところに隠れたいたのかよ、まだマークが外れていないようだな運がいいぜ」

「さてこっちも限界だ仕切り治すぞ、これでまた陛下の元には帰れねーな」

アルベルトは鼻で笑うと姿は北の森に消えて行ってしまった。






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