グルンダルとの会敵
グルンダルは森の中を東南の方角に向かってまっすくに驀進する、下草や茂みを踏み潰し灌木をなぎ倒し、大木はギリギリの間合いですり抜けながら風の様に奔る。
彼はそれほど感知能力に長けてはいなかったが、漠然と進行方向の先に仲間の北の導師の言うところの「まがい者の」の気配を感じていた。
知らされなければ気づくことも無かったはずだ、仲間と言っても顔も名前も知らない、僅かな気配として認識の上に存在している。
突然振り返りもせず足を緩めずに舌打ちした。
「ちっ!こっちにもきやがった、二人か!?」
右手後方から強い気配が近づいて来る、背中が焼け付く様な力が迫る、グルンダルはそれを小さな光り輝く二つの光点と感じた。
ならば「まがい者」の処には奴らの残りの者達が向かっている事になる。
「まあ、そうなるよな」
グルンダルは足を止めると、背中の巨大な剣を抜き放ち敵を迎撃する体制を整えた。
僅かな間の後、何か銀色に煌めく物体が視界に飛び込んでくると、大木に激突し跳ね返って他の木にぶつかり跳ね返った、木々の枝葉がちぎれ飛び視界が覆われた。
だがグルンダルは全く慌てない、その物体の動きを読みきり動じなかった、そして彼の口は薄く笑っている。
「おうよ!」
そう叫ぶと大剣の先を真上に突き上げた。
凄まじい金属と金属が激突する音が響くと銀の光の粒子が舞う。
その光の渦が去ると大剣の先がコッキーの腹に食い込んでいる、彼女は真上から襲撃をかけたのだ。
全身に草や葉をこびりつかたまま、露出した肌は白銀の鱗に覆われている、そして手の指の先に青く濡れ輝く爪が伸びている。
グルンダルを見下ろす瞳は黄金色の光を放ち、その口は横に裂けていた、恐ろしい容貌だが美しい面影を残しているのがなおの事恐ろしかった。
「イタイのデスよ、オマエしんだんじゃないノですか?」
だがグルンダルはコッキーの呟きに応えず素早く周囲に視線を動かしている。
「おいもう一人はどこだ!?」
それに答える代わりに地面から無数の蔦の様な植物が生えグルンダルに絡みつく、だがそれを簡単に足の力だけで引きちぎる。
だがそれで終わるはずもない、周囲の大木から無数の蔦の様な植物が生えるとグルンダルに絡みつく。
グルンダルは剣で切り裂こうとしたが、コッキーが剣にしがみついていた、おまけに剣の表面を青白く輝く液体が垂れ下がってくる、本能的にそれに危険を感じる。
「くそ!」
そして上からも地面からも得体のしれない植物が生えると絡みつく。
その時の事だった、森のある方向に巨大な力の集中を感じた、それほど遠くではないグルンダルの感覚はそれを光の塊と捉える。
グルンダルは姿を見せない敵の一人の仕業と察した、何か大きな事をしようとしていると。
蔦に絡まれつつ剣を大きく振り回した、凄まじい風を切る音と共にコッキーの体が近くの大木に叩き付けられる。
返す刃で自身に絡みつく蔦を切り裂きはじめるが、切り裂かれても際限なく伸びてくる。
その瞬間の事だった前方の景色が揺らぐ、景色が陽炎のように揺らぐとその中心に暗黒が生まれる、それが瞬時に迫り暗黒の向こうに側に何かが見えた様な気がした。
それも一瞬の事で総て暗黒の中に消えて行く。
だがグルンダルの口元は最後に薄い笑みを浮かべていた。
「コッキーブジ?」
ベルがコッキーが現れた反対側の森から飛び出してきた、彼女は少年の様な動きやすい服を身にまとっていたが、肌が露出した部分が艷やかな漆黒の毛に覆われ、頭に三角形の耳が乗り後ろに細長い尾を靡かせている。
そして黄金色の瞳でコッキーを見つめる。
コッキーは予想の反対側からベルが現れたので少し驚いたがすぐ微笑んだ、ベルが出てきた場所は森が切り抜かれトンネルのようになっている。
コッキーは大樹の表面を流れるように地面に落ちると、少しふらつきながら立ち上がった。
彼女のドレスの腹部が大きく裂け青い液体で染まっている、魔銀の鱗の強靭な護りが彼女を護ったがまったくの無傷ではすまなかったのだ。
「ワタシはだいじょうぶデスすぐ治りますヨ、あいつは間違いなくベルさんの攻撃を喰らいまシタ」
二人は改めて周囲を力で探査した。
「完全に消えた、前は調べるのが甘かったんだ」
二人はお互いに頷きあった。
「さあルディ達と合流しよう、敵が集まってくる、コッキー動ける?」
「うごけるノデス、走りながら治すのデス」
二人はいそいで敵のいる場所に向かって走り始める、その先にルディ達の気配も向かっている。