グディムカルの黒き戦士との再会
突然ベルが黙り込んでからカッと目を見開いた。
「あっ・・・前の奴らが止まったこっちに気づいたな」
ベルは軽く肩をすくめる、彼女の声は緊急事態にかかわらずどこか他人事の様に聞こえる。
コッキーがつま先立ちして前を眺める、その仕草はどこか子ども地味ていた、北の方角の森の奥を眺めてから首を横に振った。
「わたしにはわからないのです」
「まだ遠いからね」
ルディが背中の大剣を抜いた、無銘の魔剣の黒い刀身が黒く輝く。
「奴らはこっちに向かってくるのか?ベル」
「どうかな、止まっている感じ、あれ・・・南からも何かが来る、強い力を感じるいやな感じだ」
ベルも腰のグラディウスを抜き放った。
「奴らが集まるまでわざわざ待つまでもない、一つずつ潰してやるか」
ルディの単純だが理にかなった作戦に全員が頷いた。
「では東の奴に一気にしかけるぞ!」
「ボクが案内する」
ベルが力を僅かに解放すると東に向かって奔りだす、突風が通りすぎるように彼女の姿が消える、少し遅れて全員が続いた。
黒の戦士アルベルト=グルンダル、彼の名はグディムカル最強の戦士とエスタニア全土に轟いていた、彼はグディムカル帝国内戦末期に歴史に姿を現した、その武勇でトールヴァルド五世の統一戦争に華々しい勲功を立てた、だが彼がどこで生まれ何をしてきたのかその前世は総て謎に包まれている。
そんな彼はドルージュの廃墟の任務を終えて引き上げる途中だった、彼だけなら遥かに早く動けるが、特殊部隊を率いておりどうしてもそれに制約されてしまう。
グルンダルは賢明にも沈黙を守り泰然と振る舞いその内心の思いを表に出すことはない。
今もグルンダルと彼の部隊は北に向かって森の中進み続けていた、彼は長身の大男で見かけは二十代ほどに見える、帝国軍の装備を動きやすく改修した黒い装備を纏っていた、そして巨大な大剣を背中に背負っている。
この姿はルディガーとどこか似ていた、だがグルンダルの大剣は非常識なまでに巨大だ。
ふいにグルンダルは僅かに眉を潜めた、それは耳に付けている小さな魔術道具が突然言葉を発したからだ、
そこから聞こえてきた北の導師の乾いた声は聞き取りにくかった、不愉快げに顔をしかめたがそのまま森の中を歩み続けた。
「なんのようだ?」
彼のささやきは何の感情も現さない、北の導師に対する畏怖も恐れも感じる事はできない、いつもの粗野で豪放な男の声とは思えなかった。
『よく聞けグルンダル、例の奴らガおまえの後ろから接近している』
それにさしもの彼も驚いた、例の奴らと言えば幽界の力を駆使する怪物共の事を指している。
「ああん?俺達を追っているのか?」
周囲を森に潜むように進行していた彼の部下達も指揮官の変化に気付いた。
グルンダルが歩みを止めると部下達も歩みを止めた。
『わしの手の者は今日から結界を護る任務に付いた、そして監視対象がお前達に接近している、奴らの進む先に結界の魔術術式の一つがある』
「偶然なのか?」
『わからぬ、奴らもお前たちに気付いているだろうて』
「おい、奴らの戦力はわかるか?」
『幽界の眷属が三名、上位魔術師が二人だ』
それを聞いたグルンダルは舌打ちする。
「ちっ!厄介だな」
『こちらも急遽、動かせる者を集めた、だが所詮はまがい物』
「ああアレか、外道の技で量産しているらしいとあいつから聞いたよ」
グルンダルの言うあいつとは誰の事だろうか、主君のトールヴァルド五世の事か、他の誰かの事だろうか。
「だがよ、アイツラに通用するのか?」
『及ばぬな、だがとりあえず奴らをぶつける、真の魔界の眷属共もこちらに集結する』
「そうだ、ハイネにいる奴らを使わないのかよ?」
北の導師は僅かに迷ったのか短い沈黙が生まれた。
『セザールか・・・奴には制御魔術陣地の防衛を命じてある、そしてまがい者共の研究を進めさせる、・・・そして』
「闇妖精姫を仕留めるのは俺だ!わかっているだろうな?」
グルンダルは感情的に叫んだ、周囲で静観していた部下たちが動揺したがグルンダルは気が付かない。
『そしてセザールに姫の監視を命じてある』
「くそ!こんな事をしている場合じゃねえ迎撃の準備だ」
グルンダルは北の導師と問答をしている場合ではないと思い直した。
『ふむ、奴らの動きがとまった・・・』
「なんだと?」
『奴らは東に向かって動き始めたその先にまがい物がいる、各個撃破か!包囲網に参加している者共を奴らにぶつける』
北の導師の言葉に反応してグルンダルは命令を下した。
「全員、次の命があるまで待機、おれは一時的にここを離れ敵を撃破する」
部下たちは困惑した表情尾浮かべたが、いつものことなので問い返す事はしない。
「了解!」
副官の応答を聞くと部隊は円陣に移行し周囲を警戒しはじめた。
「いってくるぞ!」
いくぶん高揚気味のグルンダルは、そのまま巨大な体躯を南東の方角に奔らせる。
風が巻くと彼の姿は森の奥に消えた。