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アウデンリート城の支配者

 「ええい!」

美しい壮年の美女が枕をベッドに投げつけ使用人を呼ぼうとして諦めた、そして首を激しく横に降る。

彼女はエルニア大公妃テオドーラその人で彼女の容姿はアラティア王に似ている、義理の姪のカミラ姫とどこか面影に似ている処があった。


「何がどうなっておる?ルーベルトは何を考えているのか」

そこにドアがノックされたのでエルニア大公妃テオドーラは僅かに震えた、だがすぐに心を落ち着かせた。


「良い、入るが良い」


彼女のその言葉と同時に鍵が鳴る音が聞こえ扉が開かれた、そして腹心の侍女が入ってくる、彼女はテオドーラがエルニアに嫁入りしたときから従って来たベテランの侍女だ、彼女は本国アラティアとの極秘の連絡係を果していたが。

だが今は彼女を見るテオドーラの瞳は冷たく緊張を孕んでいた。


「大公妃さま何かございましたか?」

「何でもない心配するな・・・妾はもう休む・・・」

侍女が背後の使用人達に命ずると二人の使用人が入って来る。


「お召し物を変えますのでこちらへ」

テオドーラは逆らわず従う、寝室で彼女達の世話で着替えると、使用人は下がって行った。

しばらくすると鍵が鳴る音が聞こえる、それは自分が監禁されている事を宣告する音だ。


彼女はベッドの側の小さな机の上の閉じられた扇に手を伸ばすともう片方の手のひらに打ち付けた。

「どいつもこいつもおかしくなっておる、何が起きたかわからぬが、アヤツが関わっているのは間違いあるまい」

一人言を言う女性ではないが、監禁され普通では無くなっているのだろう。


テオドーラは高価なガラス張の窓の向こうのアウデンリート城の主郭をにらみつけた。

そこは大公の居住区で今は暗愚な夫と異国の貴婦人がいるはずだ。

そして最悪な想像をして吐き気を覚えた、もしかすると息子のルーベルトもいるかもしれないと想像したからだ。


「だが、妾だけでは動きがとれぬ、まともな奴はおらんのか?ギスランは何をしておるのだ?」

ふたたび扇をもう片方の手のひらに打ち付ける、乾いた音がエルニア風の重厚な寝室に響いた。

宰相のギスランがこのような事態を放置するはずがなかった、彼女と政敵になる事もあるが表向きは礼節を軽んじた態度を示した事はなかった男だ。


「妾と同様動きがとれなくなっておるやもしれぬ・・・やはり・・・」

その先を考えたくはなかった、長年の腹心の侍女達の異変を考えると答えは明らかだ。

もはやあの切れ者のギスランはおらず木偶人形になっているやもしれなかった。

だが聡明で行動的な彼女だが深窓の高貴な女性なので一人でできる事に限界がある、どうすれば良いかさすがの彼女にも思いつかなかった。


「はあ、今は耐えるしかないかの・・・」

忌々しげにつぶやきベッドに横たわると窓から主郭が見えた。


「いまいましい!」


舌打ちすると窓辺に近づき自らカーテンを力強く引く、そのままベッドに身を投げた。

それはどこか昔のお転婆と言われていた頃の姿に似ていた。


大公妃テオドーラが軟禁されている後宮は城の一番西側で、テオドーラが嫁入りする時期に増築された建物だ。

アウデンリート城は東ほど旧い様式の建築となっている、外郭に囲まれた中心に大公の住まう主郭が聳え立つが、主郭はエルニア直後に建造された物だそれはもう70年程前になる。

全体としてアウデンリート城は統一性が欠け奇怪な外観を擁している。


この城は旧い東エスタニア様式が残りテレーゼのような優美さが欠けていたが素朴で重厚で実質本位だ、アラティア建築と良く似ていると言われていた。

だがその城の主郭は今や心ある者に不気味な不快な何かを感じさせる、だがそのような者はこの城には僅かにしか残っていないのだ。






その大公宮の客用の一角が異国の貴婦人に割り当てられている、大公の寝室はその先の短い廊下の先にあった。

先ほどまで大公はここで酒色に浸っていたが先ほど寝室に引き上げた、そして昼まで起きてはこない。

小さな灯りが部屋を薄く照らし出している、部屋に酒気が残り何か得体の知れない薄い煙が立ち込めているそれは霧の様だ。

その部屋の中央の西エスタニア風の寝台の上に、壮絶なまでに美しい全裸の女体が伏せていた、痩せていたがどこか人間離れした美しき肢体で、それが暗闇に僅かに浮かび上がる。

彼女は浅黒い肌をしていた、日に焼けただけなのかもともと浅黒いのかは誰にもわからなかった。


彼女は身じろぎすると上半身を起こす、その美しい背中が丸見えになった、だが薄い上掛けで体を覆ってしまった、その仕草はどこか恥じらうようでいてどこかわざとらしい、それが逆に艶かしさを際立たせる。

顕になった長髪は銀と言うよりも白に近くその髪を腰まで垂らしている。


そして上半身をひねり向き直った。

そのアーモンド型の目がどこか揶揄するように細められる、やがてその形の良い唇が動いた、何か言葉を発したがその言葉はエスタニアの人間には理解できない。


闇の中から今度は壮年の男の声が聞こえてきた。


「ケラ様、ルーベルト様をお連れいたしました」

そこにギスランが現れ言上を述べ一礼する、ギスランが異国の麗人を見る目は異様な光を讃えどこか陶酔するような異様な熱がある。


今度はギスランの後ろから一人の若者が現れた、それはエルニア大公子ルーベルト公子その人だった。


「ケラ・・・」


熱に浮かされた様にゆっくりと彼女に近づいて行く、そしてギスランは一礼すると闇の中に下がり消えてしまった。

異国の麗人は妖しい微笑みをうかべると両の手を広げてルーベルトを向かえ入れた。





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