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アラティアの危機感

 アマンダが秘湯を嗜んでいたエドナの山麓から遥か北東の地はアラティア王国の占め下ろす地だ。

その周囲を山々に囲まれた平地の西寄りに王都ノイクロスターが築かれている、人工的に建設された計画都市は幾何学模様のような美しさで知られていた、ある者はエスタニアでもっとも美しいと讚える者もいるほどだ。


そんなノイクロスターに夜の帳が降り、まだ戦禍を知らないかの様にオレンジ色の灯火が地上の星空の様に輝き美しい。

反対に戦禍が近いハイネは死んだ様に暗闇に沈んでいる。


その輝かしい王都も緩やかな丘陵に取り囲まれている、その西端に南北に走る長城と一体化した王城クロスター城があった、この王城から西に三日程で西の国境の護り要塞都市ベステルだ。


そのクロスター城の奥まった一室で国王ルドヴィークは執務を終え一息ついていた。

赤を基調とした壁の色と分厚い赤い絨毯が魔術道具のオレンジの光を受け鈍く輝いている、それがまるで炎の海の中にいるかのような錯覚を見る者に与える、その部屋にいるのは若き宰相チェストミールだけだ。


ルドヴィークにどこか面影がにている青年は優雅に足を組んで椅子にかけていた、非公式の場とは言え国王を前にして少々無礼だがルドヴィークは気にしない。


ルドヴィークはもともと親政を敷いていたが、グディムカル軍の南侵を契機に、宰相を置き一族の流れを汲むチェストミールをその任に置き内政を任せたのだ。


「こんな時間にどうした?」

国王ルドヴィークの言葉は僅かな疲れを感じさせた、宰相を置いたとは言えここ三ヶ月は激務が続いていたからだ。

チェストミールはゆっくりと答える。


「は、最初は海軍からの報告、リエクサ軍港司令部から『北海でグディムカル海軍の活動が活発化している』との事」

ルドヴィークは微妙な表情を浮かべる「最初は」と言う言葉にいやな物を感じたのだろう、だが国王は先を促す。


「『グディムカル海軍の小艦隊が複数活動している』との事です」

ルドヴィークは皮肉な笑みを浮かべる。

「だがグディムカル海軍に大した力は無い、奴らは内戦で海軍に投資できる状況ではなかった、こちらへの牽制だろうよ・・・」

「ですが通商航路の妨害を警戒する必要があります、エスタニア北回り航路は事実上封鎖されていますが、

彼らが東進する可能性を考慮しなければなりません、エメロールの海軍司令部に命令を発するべきでしょう」

王都を東に流れるベーネル河を下ると東方絶海に面した要塞都市エメロールに至る、今はここに海軍総司令部が置かれていた。


ルドヴィークは頷いたが何かを思いついた様子だった。

「敵が小部隊を北海岸に上陸させる可能性はあるか?」

今度は素早くチェストミールが答えた。

「資料から類推するに最大千名単位との事、それでも二十隻の船が必要になります、ある程度の大船で無いと北海は渡れません」


「わかった、エメロールへの通達はお前からたのんだぞ、軍務大臣のエドムントは今ベステルにいるからな」

「かしこまりました陛下、そして・・・」


ルドヴィークは来たかと言いたげな顔をして苦笑いをする。


「そして・・・まずベステルからの報告ですが、アラティア=ラーゼ街道の分岐点の確保に成功いたしました」


ルドヴィークは興奮し豪華な略式玉座から思わず身を乗り出す。

「よし!間に合ったか」

「はい急派した我軍がアウデンリート街道との交点を抑え要塞化を進めております、これで街道の確保に見通しが立つようになりました」

ルドヴィークは無言でその先を促した。


「これは良くない知らせですが、未だにテオドーラ様と接触ができません、宰相ギスラン殿ともです、さらに本日のアウデンリートからの定時精霊通信が来ておりません」

ちなみにテオドーラ様とはエルニア大公妃でルドヴィークの妹に当たる。


「なんだと!まさか大使館が制圧された?非常識だがあの馬鹿ならやりかねないか・・・」

チェストミールは主君が言うところの馬鹿がエルニア大公を指している事はすぐ理解した。

「現地の密偵の報告を待つ必要がありますが、その可能性が高いと存じまず」

チェストミールの言葉に国王は深く息を吐いた。


「いったいエルニアはどうなっている正気ではない、だがグディムカル軍の無謀な遠征はこれを織り込んでいたと見るべきだ」

「私も考えは同じです、しかし何の利益で釣られたのか、聖霊教を敵に廻して何が得られるのか?」

「異国の貴婦人の尻にでも惹かれたと言いたいが、冗談ではないが奴らは未知大陸の国と結んでいる事になるぞ」


豪華な炎の様な執務室は重い沈黙に包まれた、二人はその言葉の意味を噛み締めていた。


「これはグディムカルと我々だけの戦いでは済まなくなる、そんな予感がするぞ、クソ!我が国の立地を考えると建国以来の最大の危機だ」


「陛下、聖霊教総教会もこの自体を重く受け止めているようですね」

「ああこれは聖戦が宣告されるだろうな」


聖戦が宣告された場合それに逆らう者は精霊王の敵となるのだ、何らかの形で戦いに協力しなくてはならなくなる。

ルドヴィークはエルニアの南のクライルズ王国の存在が意識をかすめた、近隣地位域で参戦していない国はクライルズだけだ、この国が介入を始めるとエルニアは対応に力が割かれる事になる。


「クライルズに使節は出したが、定時通信ではまだ王都に到着していないようだな」

「何事も急でしたので・・・」

「それは良い、今は待つだけだ」

ルドヴィークは酒杯を掴むと飲み干した。





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