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秘湯の歓談

 ヴァスコは身の上話と最近の行動についていろいろ話しはじめたが、やはり彼は聖霊教の密偵だと告白した、だが各地を巡業する修道士達は限度の差こそあれ聖霊教にとって情報収集の役割を果たしている事は公然の秘密なのでアマンダは驚かなかった。


ヴァスコはエドナの山中でアマンダと分かれた後はアラティア各地の聖地と秘湯を巡っていた、そしてエルニアに異国の大船が漂着した噂を耳にした、海路でエルニアの異変はすぐに隣国アラティアに伝わる。

その巨船の噂話を聞きつけエルニアに急ぎ向かったが、船はすでに消えた後だった、そしてエルニアを覆うの異変の影を感じ取った。

アウデンリートで耳にする噂は良いものでは無く大公家の乱れを感じさせる物ばかりだった。

そして普通ではないエルニア公国の行動の予兆、そして公都の警戒が厳しくなったためそこを離れたらしい。


「貴方はバーレムの森を西に横断してきたのね?」

「その通り、我らには大した道ではありますまい」

アマンダ肩をすくめて薄く笑った。

「そうですわね」


「やっぱりアウデンリートの警戒が厳しくなっているのね」

「もしやアウデンリートに向われるのですか?いや貴女様なら問題ではないですな、ははは」

ヴァスコはカラカラと笑った。

「私を何だと思っているのかしら?でも一度は入らないとダメみたいね」

「並みの護りでは貴女様を止める事はできますまい・・・」

だがアマンダはそれには答えなかった。


「ヴァスコ様はこのままどちらへ?」

「私はエドナ山塊をこのまま横断しテレーゼのリネインに向かいます、このルートは廃街道の跡があるので楽でしてな」

「そうねアウデンリートに向かうにしてもこのルートは優れているわ、その後はどちらに?」

「ハイネに入り様子を確かめます、北に向かうやもしれません」

「北は戦が近いわ、もう会戦が発生しているかもしれない・・・」

ヴァスコは少し考え込み言葉が途絶えた、そしてアマンダを遠慮勝ちに見つめてから言葉を発した。


「拙僧は修道士ゆえ戦の事はわかりませぬが、アマンダ様はどちらが勝つと思われますか?」

「連合軍が圧倒的に有利だわ」

ヴァスコは驚いたが本気なのか演技なのかは定かではない。

「なんと!?その理由をお教えくだされ」


「そうね戦争の勝敗は目的を達したかで決まるわ」

「た、たしかに・・・」

「グディムカル帝国の目的はハイネの占領でしょうね、ハイネは落ちぶれたけど未だに東エスタニア有数の都市よ、何よりも製鉄産業が盛んでアマリアの遺産の石炭変成炉があるわ、あれで石炭を製鉄に使える用にできる」

「連合軍はそれを阻めば勝ちだわ、グディムカル帝国は山脈を越えて大軍を動かしているから補給が大変なはずよ、連合軍は防戦すれば良いからわざわざ相手の得意な野戦に乗る必要は無い、べ、知り合いがマルセランに見に行ったけど、砦を幾つも築いて逆茂木で何重にも連結しているそうね。

連合軍はテレーゼ諸侯の支援を受けているから、初めから準備していたはず、そして補給でも有利、普通ならグディムカル軍も冬になる前に引き上げるしかなくなるわ」


「さすがエステーベ様・・・」

軽口にアマンダが冷たく睨んだのでヴァスコは震え上がった。


「普通なら・・・なるほどエルニアの裏切りですな・・・」

アマンダはそれに無言で頷く。


「エルニアは自分で言うのもなんですけど、大軍を外で運用する力は無いわね、せいぜい一万程、でも国境に近い地域なら話は違うわ、アラティア本国軍を釘付けにする事ぐらいはできる」

「なるほど、いわゆる連合軍の後詰がなくなるわけですな、それでグディムカル帝国が有利になると」

「アラティア本国とテレーゼ遠征軍の連絡線を遮断できるかもしれない、でもアラティアを攻める力は無いわね、大規模な攻城戦の経験なんて無いから国境の要塞を抜くのも無理だわ」

「エルニア兵は精強と聞き及びますが」

アマンダは苦く笑う。

「もちろん一人一人は精強よ、諸侯の部隊も強いわ、でも大規模な軍としては統制も経験も無いのよ・・・」

ヴァスコは納得した様にうなずいた、いろいろ思い当たる事があるのだろう。


「連合軍に短期決戦を決断させるにはまだ弱いわね、でもそれが思いつかないわね、あえて言うならば」

「それは?」

ヴァスコは食い気味に少し身を乗り出した。


「連合軍の弱点よ、連合軍はアラティアにセクサドルとハイネ通商連合とテレーゼ有力諸侯で構成されているわ、一部が裏切り会戦を決行するしかなくなるか、一部が暴走して会戦が勃発的に発生するかもしれないわね、グディムカル帝国の勝機はこれしか無いのではないかしら?」


「なるほど、良いお話を伺いました、しかしこのような事を拙僧に話しても良いのですかな?」

アマンダが微笑んだ。

「このくらいはある程度考える事ができる者なら思いつく事です」


二人はしばらく取り止めなく歓談を続けた、だが相手からさりげなく少しでも情報を得ようとしていたのでどこか余所余所しい。

だが貴族ではないヴァスコが先につかれたのか別れを切り出す。

ヴァスコは休むために少し山に入った岩場で一夜を過ごすと別れを告げて去っていった。

それはいずれまた会う事もあるだろうと言いたげな態度を見せた。


アマンダはそれを気にせずもう一度温泉に身をあずけると体を温める事にした。


「やはりお城に入り込む必要があるわね」


そう呟くとそのまま遥か東の真っ暗な空を睨みつけた。





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