偉大なる精霊魔女アマリアの計画
「お前も眠れないのか?」
ルディは旧友のいるはずの闇の向こうを見つめた、意識を集中すると視界がはっきりしてくる、
板壁の隙間から漏れる狭間の世界のかすかな星明りが踊るように照らしている。
「私の生まれ故郷ですからね」
アゼルがそれに答えた。
「いったいエルニアで何が起きているんだ?」
「アマンダ様に帰郷命令が出てすぐ、エルニア参戦の報告が来ました」
「いったいあの男は何を考えている?聖霊教の敵になる事の意味を理解しているのか」
あの男とはエルニア大公を指していた、そして大公はルディの父親でもあった、さすがのアゼルも息を飲む、
ルディガーが大公にここまで嫌悪を表した事など知る限りなかったからだ。
すると暗闇の中から老人の声が聞こえてきた、それはホンザの声だ。
「何を離しておる?二人共明日も早いぞ?」
それにルディが答えた。
「起こしてしまったか、すまんホンザ殿」
「エルニアの事が心配かの?」
「ああ、そうだ俺は結界を破壊したらエルニアに戻るぞ」
「うむ、わしはどうするかの・・・コッキーを手助けしようかの、わしもテレーゼの人間だここを見捨てる事はできぬ、お主達がエルニアを見捨てられぬ様にな。
それに孤児院の子供達を護るのに鷲の力は大いに役に立つはずだ、それにセザールに目を付けられた以上のこのことゲーラには帰れぬわい」
ルディもホンザの意見に賛成するしかなかった、魔道師の塔と敵対してしまった以上、ゲーラの『妖精の椅子亭』には戻れないだろう。
分かれ難くもあるがホンザもコッキーもテレーゼの人だ、ルディ達と目的を同じくしているわけではなかった。
「わかった明日コッキーと話をつけよう」
「そうじゃな、だがまずは結界の破壊が先じゃ」
「エルニアの動きが戦いの行く末を決めるやもしれぬな、アラティアが敗れテレーゼの北西の要ラーゼが破られればリネインは僅か一日の距離じゃ」
「そうだホンザ殿、狂ったエルニアを止めなければ、もしかすると俺の力はその為にあるのかもしれん」
「それは大精霊達のみ知るじゃよルディガー殿」
ホンザはそうたしなめた。
『なにかおもしろい話をしておるようじゃの、むむ天井しか見えぬぞ?』
ベッドの側の小さな棚の上でアマリアのペンダントが話はじめた、その声はベルの声なので男たちは一瞬焦る。
「驚かせないでくれ愛娘殿」
『すまんな急に話かけて・・・』
「いや、ベルの声なので心臓に悪い」
アマリアはコロコロと笑った。
『この体が使いやすくてのう、木偶人形ではできぬ事が多い、だがこれは我の復活に必要な事なのじゃ、肉体と魂の融合じゃ・・・』
「そちらの方はどこまで進んでいるのだ、愛娘殿?」
『これは大きな賭けでの、慎重に事を進めねばならぬ・・・』
「アマリア様、その方法を具体的にお聞きしてよろしいでしょうか?」
我慢ができなかったのかアゼルが割り込んできた、だがアマリアはむしろ上機嫌で答える。
『おお、興味があるじゃろ?お前たちにはもう明かしても良いかもしれん』
ルディがアマリアのペンダントの鎖を掴むとアゼルに向けてやる。
『わしのライブラリに、幽界の羊水に触れた文献がある、魂が現世に転生するとき、この羊水で融合し新しい命となる、
この幽界の海を満たす海水は人の子宮と繋がっておる・・・』
「なんですと!?それは特級の機密ではありませんかアマリア様?」
ホンザが呻いた。
『これを再現すれば肉体と魂の再融合が可能になると考えておる、すべての実権は失敗しこれが最後の手じゃ、だが課題は多くてのわしのサンサーラ号を再起動せねばならぬ・・』
「サンサーラ号とは?」
ホンザが思わずたずねた。
『そうか、お主はまだ招いておらんかったか?わしの魔術道具の最高傑作、世界境界を越える力を持つわしの家じゃ』
「おおお話をうかがってはありましたが・・・」
ホンザの声はどこか羨ましげだった、彼も一流の魔術師で好奇心の塊だった。
『わしの肉体は子供になってしまったが、魂はサンサーラ号の内部の結晶に封印されている、万が一に備えてのバックアップが生きた、これを幽界の羊水で再融合を試みる』
「アマリア様、それは古代文明の技術ですか?」
アゼルが身を乗り出してペンダントに興奮気味に質問を浴びせる。
『この技術は魔術師ギルドの特級機密にあったぞ、わしのレベルで無ければアクセスできんかった、だが魂と肉体の再融合の情報はしらなんだ、
わしが消えて時間がたったのか長年放置されていたらしくて防護が更新されずゆるくなっておっての、
前は触れる事ができなかった情報にアクセス可能になっておったわい、これもベルの体のおかげよ』
アマリアは楽しげに笑った。
『二千五百年前に闇妖精姫を倒した、だがそれでは魔界に戻り再生してしまう、長い時間がかかるとしてもじゃ、その再生を妨害する為に結晶に封じ込めたのよ、これは魂を複製するのとは根本的にレベルが違う、だがその魂を再び融合する事が可能だった』
「アマリア様肉体が失われていてもですか?」
『うむ、それは不可能じゃが闇妖精か妖精族の肉体を依り代にできれば可能やもしれぬ、だが妖精族など生き残っておらんがの、わしは自分の肉体を使うのじゃからな問題は少ない』
「愛娘どの、我々が敵対している闇妖精姫はあるいは?」
『そうかもしれぬの、何者かが復活させたか・・・試しに魔術師ギルド連合のライブラリを漁ってみる、魂の融合にかかわる情報しか見ておらんかったわい』
「頼みます愛娘殿、いずれ奴らと決着をつけなければならない」
『そろそろ仕事に戻る、それがあればいつでも連絡ができる』
そう語ると接続が切れた。