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閑散とした連合軍総司令部

 ゼリーとアウグスライヒ殿下が主君と女騎士の三文芝居に興じていたその頃、ハイネ城の迎賓区画の下の連合軍総司令部が設けられたエリアで、セクサルド軍の二人の士官がテーブルで顔を突き合わせて密談していた。

他の司令分要員はとっくに宿舎に引き上げてしまった、残っているのはアンブロース=カメロとオレク=エンフォリエの二人だけだ。

ちなみにアンブロースが家名で名前がカメロで、セクサルド王国の彼の実家のある地方では姓が先にくるかわった習慣をもっている。

この総司令部は宴会ホールの休憩室が割り当てられていたが、内装もテレーゼ風の青と白を基調とした瀟洒な物だ。


総司令部でまともに仕事をしようとしているのはこの二人ぐらいなものだ、他の随員は労働意欲を失いただ仕事の真似事をしている。

そして夜になると殆どの者がこうして宿泊施設に戻ってしまう、規律も何もあったものではなかった。

そんな総司令部室から二人の話が聞こえてくる。


「カメロ、エルニアがいよいよ動き出した、それも悪い兆候を示している」

するとカメロは面倒くさそうに薄い赤みを帯びた金髪を指ですく、そして一重のまぶたをしばたかせた。

「例の彼女から聞いたのか?こっちにはまともに情報が流れてこない、きても二日は遅れている」

例の彼女とはセクサドル軍大本営付きの女性武官で凛々しい下級貴族の娘だ、オレクが親しくしている女性で名はサリア=サンベルトと言う。

彼女は頻繁に上の区画に呼ばれる、彼女は彼らが入れない特別区画の中の情報をもたらしてくれていた。


「どうやらエルニアが連合軍に敵対する兆候があるらしくてな、アラティア軍は警戒体制に入った」

カメロは僅かに顔をしかめた。

「上はどこから情報を得ているんだ?オレクどう思う」

カメロは指を天井に向けて立てたので、上が迎賓区画を指している事がわかる。

「ああ、殿下のお取り巻きの方々が外部に情報源を持っているってことだろ?少なくとも軍のルートは意図的に何も殿下達に教えたく無いのがあからさまだぜ」

「ならば前線司令部にスパイがいると見て良いな」

二人はうなずきあった。


「これはドビアーシュ将軍に伝えておいた方が良いかもしれないぜ」

オレクはそう言いながらテーブルの上の銀の杯の果実酒に口をつける。

「俺が直接報告書を将軍に出す、伝令で伝えられる事じゃない」

カメロの言葉にうなずきながらオレクが何かを思い出した様な仕草をした。

「そうだ近衛部隊の司令官が病で倒れた、たしか新任のコーパス殿だ」


「近衛などお飾り・・・まてよ前の隊長殿が復帰かな?」

「この城の最高責任者はなんといっても殿下だからな、お取り巻きの伯爵家の道楽息子が復帰する可能性が高いな」

「初めから彼らに抑えの効く人物をここに残すべきだったな、といっても殿下を抑えられる様な人物もいないか、それに抑えの効く人材をここに残す余裕もないか」

カメロが少し苛ついた様子で椅子を指で叩く。


すると石畳を叩く様な軽い足音が聞こえてきたので二人は会話を止める、やがて扉が開くと噂の女性士官のサリアが入ってきた、若い均整のとれた鍛えられた肢体の女性で20歳前後に見える、髪は短い黒髪だ。

オレクが陽気に彼女に声をかける。


「よおサリア、こんな時間まで大変だな」

その言葉を聞いたサリアは顔を赤らめ顔を歪めて頭を左右に振った、そして苦く笑う。

「いやになるわ、早く移動したいわよ」

「お前も大変だな・・・」

サリアはカメロを気にしていたが、そのまま二人のテーブルの空いた椅子に座った。

そして鼻をひくつかせてからテーブルの上の酒杯に気がついて顔をしかめる。


「だめじゃない、こんなところでお酒なんて飲んでいたの?」

「どうせ文句を言うやつはいねーだろ?それに飲んでなきゃやってられないぜ?」

「まあそうよね」

サリアは鼻で笑った。


「なあ殿下の様子はどうだ?」

サリアはニンマリと笑う、何か面白い話でも仕入れてきたのだろう、顔を寄せると声をひそめた。


「二人共、殿下がデートリンゲンとか言う女魔術師に夢中だったの覚えている?」

「知っているぞ」

オレクに続いてカメロも続く。

「もちろんだが、『だった』と言ったね?」

サリアは聞かれていないか周囲を見廻してから説明を始めた。

「最近はデートリンゲン女史付きの専属使用人に気があるみたいなのよ、殿下ってあの女のようなタイプが好みだったから噂になっているわ」

オレクとカメロは顔を見合わせた、二人はデートリンゲン女史の使用人ゼリーと面識があった。

そして笑いながらサリアは胸の前で大きな円を描いて見せる、それは貴族の娘には相応しい仕草ではなかった。

「殿下はこんな女が好きなのよ」

オレクはサリアの目つきがおかしいことに気付いた。


「おいサリアお前も飲んでいるな?」

「・・・うんバカ殿下達のおしゃくをさせられたのよ・・・」

「聞いて悪かったな・・・」


間の悪い沈黙が生まれた。



「専属使用人の話は本当なのか?」

カメロの囁くような声が沈黙を破る。


「迎賓区画の者達の間で噂になっていたわ、わたしも殿下から彼女の呼び出しをさせられたのよ・・・」


「まあ、誰であれ問題じゃないだろ、殿下が女にうつつを抜かしている分にはよ」

オレクは無関心なようで投げやりだった。

「あの侍女には解らない事が多い、警戒すべきだそうだろ?オレク」

オレクは何かを言いそうになったがサリアを一瞥して口ごもる。


「何かあるの?あの侍女に少し興味があるわ」

サリアは目を輝かせながら二人の顔を交互に見たので、それにカメロが応えた。

「彼女は滅んだ帝国貴族の末裔を名乗っていた、殿下に近づいて何かお願いするつもりかもしれない」

「あー、なんか良くありそうなパターンね、面白そう!」

サリアは軽く手を叩いて喜んだ。

「お前かなり酔っているな?」

オレクはサリアの額を軽く指で弾くとさらにサリアは笑い出した。


「オレク、サリアそれどころではない、殿下が身分や領地を与えると言い出したらどうなる?」

「ヤベーな・・・これも将軍に報告した方がいいな、早いところ責任を上に投げねえと」


「ねえ二人共、帝国貴族って事はセクサドル帝国時代って事よね?家名は言っていたの?」

サリアがそこに気付いたらしい。

「ああ、俺の遠縁の一族だよ、自称だがな」

オレクはいやそうに説明を加える。


「てことはエンフォリエ伯爵家なの?まさか」

「いや100年以上前に滅んだ侯爵家だ、もともとこちらが本家だ」

「殿下に気に入られれると碌な事にならないわね、殿下は知っているのかしら?」


それに答えたのはカメロだ。


「わからない、だがエンフォリエ侯爵家の末裔と名乗っている可能性は高い、だからこその寵愛の可能性もある」

三人は酔もさめた気分でお互いに顔を見合わせた。


「サリア、もう少し内偵を進めてくれ、俺達はある程度ドビアーシュ将軍と繋がりがある、俺達がここにいるのもそれを期待されているからだ、たぶんな・・・」

「いいわよ、どうせ碌な事ばかりさせられる、これで少しは張り合いが出てきたわ」



カメロはここで眠気を感じて会議を終わりにする事にする。

「さてもうこんな時間だ解散しようか」

オレクとサリアもこれにうなずく。

「私は殿下と侍女の動きに気をつけるわ」


「たのんだサリア」

三人は解散しそれぞれの宿舎に引き上げると、あとに無人の総司令部だけが残された。






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